夢守りのメリィ

どら。

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24.リゾートの風と、新しい一日(後編)

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──ティレルナ・海辺

「ひゃあっ!冷たい!でも気持ちいいですね!」
「姉さま、こっちです!波が来ますよっ!」
「ひゃわっ!」

遠浅の海岸で、はしゃぐメリィ、マヌル、メルルの三人。波打ち際ではしゃぐたびに、水しぶきがきらきらと弾けて光る。

その一方で、浜辺の端ではネロとワノツキが浜焼きの準備をしていた。

「火はこんなもんでいいか。ネロ、そっちは?」
「……ああ、こっちも準備完了」

「にしても……俺たち、地味じゃねえ?」

「仕方ないだろ。こういう時こそ支える側が必要なんだ」

ぱちぱちと焼ける魚介の香ばしい匂いが、潮風に乗ってゆらゆらと立ち昇る。

木陰では、タカチホが木の根に背を預けてごろりと横になっていた。

「ふぅ~。最高ですねェ……喧騒から一歩引いて観察するのが、小生のスタァイルゥ……」


──その時。

「やあやあ、お嬢さん方~!」
「みんな可愛いねぇ~、どこから来たの~?」
「一緒に遊ぼーよ!俺たち、ローカルサーファーっす!」

どこからともなく現れた、陽に焼けたサーフボード持ちの男たち三人。いかにも“ウェイ”系というノリで女性陣にぐいぐい詰め寄ってくる。

「「「……」」」

メリィと双子は完璧に無視し、男たちから離れようと歩き出す。だがそれが逆にサーファーたちを焚きつけたようで。

「ちょっとくらい遊んでくれたっていーじゃーん!」
そのうちの一人がメリィの腕に手を伸ばした瞬間──。

「──姉さまに」
「汚い手で触れないでいただけます?」

ガツン!!

マヌルが顎を、メルルが脛を。寸分違わぬ蹴りの連携で、男はあっという間に砂浜に沈んだ。

「なっ……!?」
残る二人が腰を引きかけた、その時──。

「──ちょっと、向こうで話をしようか?」

ネロが背後から現れ、一人の肩をがっしと掴みにっこりと微笑んだ。

「っ……!?ひぃっ!!」

ネロの迫力に涙目になっている男を、そのまま浜辺の陰へとずるずると連れ去っていく。
もう一人を見据えたのは、ワノツキ。

「……暇なら、こっちで筋トレでもするか?ん?」

砂に伏していた一人も含め、無言で二人を引きずっていくワノツキの背中に、カモメが一羽、哀れみに似た声で鳴いた。

 

──数分後

「びっくりしましたねー!」
「ねー!まぁ、また来ても姉さまに近付く輩はマヌルとメルルがやっつけちゃいます!!」

双子がきゃっきゃとはしゃいでいるその時。

「──いっ……!?」

メリィがふと足元に違和感を覚えた。ふくらはぎに、ピリッとした痛み。

「っ──えっ!? ちょっ、なにこれ──」

その言葉を言い終える前に、メリィの体が沖の方へと引っ張られていった。

「姉さま!?」
「えっ、ちょっ、メルルたちも!?──きゃっ!」

マヌルとメルルもまた、何かに足を掴まれたように引きずられていく。

太陽の光を反射する、半透明で巨大な影が水面へと上がってくる。

「おお……これはこれは、今度こそ役得☆というやつですネ!」

タカチホはキラリと目を光らせた。

「なんです、これ……体が、痺れてる……」
「動けない……!」

魔物の毒に麻痺させられ、身動きの取れなくなる三人。
魔物は水面へと出てきた部分がイソギンチャクのように開き、今にもメリィ達を食べようとしていた。

「わ゛ーーー!!!」
「食べられちゃいますぅー!!!」

「タカチホ!! 前みたいに針でどうにかできねぇのか!?」

タカチホは冷静に魔物を見ながら残念そうに言う。
「んー……残念ながら、この手の水棲魔物……ほぼ水分構成かつ、麻痺毒持ち……小生の針とは相性最悪ですネェ」

「……チッ。じゃあ、麻痺毒を防げる薬とかないのかよ!」

「ああ!それならもちろん!ありますとも!! ただし効き目は10分!その間に仕留められます?」

「十分だ」

ネロがタカチホから小瓶を受け取る。
ワノツキもそれを受け取り、一気に飲み干した。

「……あの魔物の中心、あれが核かぁ?情報量が少なすぎるだろ!!」

「──ワノツキ!囮、頼んでもいいか?」

「おう!!」

二人は砂浜を蹴り、魔物の方へと走っていく。

──最初の狙いは、囚われた三人の救出。

魔物の触手がうねり、ネロとワノツキを阻むように海中から伸びてくる。

ワノツキがその一本に向かって振り被る──!

ズンッ!!

鈍い音と共に潰された触手が波間に沈む。

「ネロ!いけ!!」

「ああ!!」

ネロはその隙に、三人に絡まる触手を次々と斬り払う。

「しっかりしろ! いま助ける!」
ぐったりとしたメリィを救出し、一度タカチホの元まで連れて行った後、続けて双子も片腕ずつ担ぎ上げ、浜辺へと戻る。

「タカチホ、任せた!」

「ええ、ええ!手取り足取り…ゴホン、ではありませんでした。キチンと治療しておきますとも!小生にお任せあれ~♪」

三人の無事を確認し、ネロとワノツキは再び海へ。

「次は──終わらせる!!」

ワノツキが魔物の側面へ回り込み、二本の触手を同時に押し潰す。
狙うは、中央にある、淡く光る球体──魔物の核。
だが次の瞬間、ワノツキが触手に捕まり高く振り上げられる。

「ネロ!!今だ!!!!」

「ああ!!!!」

ネロがワノツキを捉えていた触手を切り裂く。
空中に放り出されたワノツキが、落下の勢いに乗せ大槌を構える。
真下には口を開いた魔物と露出した核。

「沈めえぇぇぇぇ!!!!!!」

バキン!!!!!!

鈍く、砕ける音が辺りに響いた。
砕け散った核とともに、魔物は海へと溶ける様に沈んでいく。

そして、潮騒だけが残る。



──浜辺

「……しっぽがまだしびしびしますぅ……」
「でも……助かったねぇ……」
「ネロさま、ワノツキさま、かっこよかったです……!」
「アレ、小生への評価は無しです?」

タカチホの治療もあって、三人は無事に意識を取り戻していた。


一行が一息ついていると、浜辺の向こうから、ひとりの男が駆けてくる。

「おいっ!お前たちがあの魔物を倒してくれたのか!?本当に!?」

日焼けした肌に手拭いを巻いた、筋骨たくましい男。

「……あんたは?」

「この辺りで漁師をやってるんだ。最近、あの魔物のせいで漁に出んのも命懸けだし、観光客も減っちまってよぉ……。あんたらのおかげで助かったよ!本当にありがとう!!!」

「礼がしたいんだ。俺のやってる店に明日来てくれ!魚介、たんまりごちそうするぜ!」

魚介と聞き、準備していた貝や魚は既に炭と化している事に気付く。

「俺の浜焼き…」
と悲しい顔をするワノツキ。

「……では、お言葉に甘えて、明日訪ねさせてもらいます」

ネロが笑みを浮かべて応えると、男は満面の笑みで「待ってるからな!」と去っていった。
 


──夜、ネロとメリィの部屋

部屋に戻った二人は、今日の出来事を思い返していた。

「……メリィ、刺されたとこ、痛くないか?」

「うん、大丈夫。助けてくれてありがとう!」

にこりと笑うメリィに、ネロもつられて微笑んだ。だが次の瞬間、ネロがどこか気まずそうに視線を逸らす。

「……あの、さ」

「ん?」

「昼間……その、水着。似合ってたよ」

「──っ!?」

顔を真っ赤にしたメリィは、ばふんっ!と布団に潜り込んだ。

「も、もう寝るって時に言うことじゃないよぉ~!!」

「あ……ご、ごめん」

照れくさそうな笑いが、静かな夜に溶けていった。

──リゾートの一日は、こうして更けていく。


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