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25.竜が留まる孤島へ(前編)
しおりを挟む「うっま……!!」
「このぷりっぷりの海老!身が弾ける~っ」
「このお魚も、甘くて美味しいですねぇ……!」
「このお刺身……って食べ物、初めて食べました!!」
メルルは目を輝かせ、耳を盛んにぴこぴこと動かした。
漁師が営む海の食堂で、一行は久しぶりに心からの満足を覚えていた。
焼き魚、刺身、貝の蒸し物、煮付け、海老の唐揚げ──食卓に並ぶ魚介の数々はどれも新鮮で、潮の香りと共にどこか懐かしさを感じさせる味だった。
「こっちは海苔汁に塩焼きか。……うん、塩加減が絶妙だな。」
ネロも珍しく感嘆の笑みを浮かべ、箸を進めていた。
そんな彼らの前に、先日会った逞しい漁師が真剣な顔で近づいてくる。
ひと息つくと口を開いた。
「……実は、ちょっと相談があってよ」
「……相談?」
メリィが首を傾げる。
「船で小一時間ほどの場所に、小さな島があるんだ。そこに──最近、“竜”が住みついちまってな」
場が、すっと静まり返る。
「そいつは村人達に言ったそうだ。“我に捧げ物を持って来い。さもなくば、村人を毎日ひとりずつ喰らってやる”と……」
「島で育つ作物は少ねぇし、漁も例の魔物のせいでろくにできなかった。島の連中は、このままじゃ自分たちの食うもんすら無くなっちまうって本当に困り果ててるんだ。どうか……どうか、あんたらに頼めねぇか?」
頭を下げる漁師に、一同は顔を見合わせた。
「……星の巡りは悪くないです」
「むしろ、今が“干渉の好機”です」
と、マヌルとメルルが顔を見合わせて頷き合う。
「困ってる人がいるなら、行かなくちゃだよね」
それに、こんな美味しいご飯もいただしたし!とメリィの声は、まっすぐだった。
「では小生は、こちらに残るということで……」
妙に歯切れの悪い声で言い、その場から離れようとするタカチホ。
「おまえも行くんだよ!」
ワノツキがタカチホの首根っこをがっしと掴む。
「ぐえっ!?なぜこんな乱暴な──小生には陸の方が向いてるんですよォ~!!」
暫くジタバタとするタカチホだったが程なくして諦めたようだった。
「……行ってくれるのか……!?」
漁師が顔を上げ、目を潤ませる。
「ああ。連れてってくれるんだろ?」
「もちろんさ!俺の船で、すぐにでも送るぜ!」
胸をどんと叩いたその男の背中には、長年波に揉まれた自信と誇りが刻まれていた。
──翌朝・出航
船は朝靄の中を切るように進んでいた。
白い波が尾を引き、空には飛ぶカモメ。
しかし──その光景をまともに見られない者が一名。
「……だから小生は……残ると……言ったんですヨォォ~……」
ぐったりと船の縁に凭れたタカチホが、顔を蒼白にしながら呻く。
「薬師なのに酔い止めの薬とか、ないのかよ」
心底うんざりした顔のネロが聞いた瞬間、「あ」とタカチホが声を上げ勢いよく立ち上がる。
「ネロさん!!気付いていたならなんでもっと早く言ってくださらなかったんでスkお゛ろろろろ……ッ!!」
次の瞬間、勢いあまって船の外へリバース。
ワノツキが優しくそっと背中をさすっていた。
「風が気持ちいいねぇ……」
「島ってどんな所なんでしょう……わくわくしますね!」
「マヌルは竜ともお話ししてみたいです!」
メリィと双子は、甲板で風に髪をなびかせながら、島へ向かう海の旅を楽しんでいた。
──船は、島へと近づいていく。
竜との対峙は、予想外の結末が待ち受ける事を、一行は知らない。
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