夢守りのメリィ

どら。

文字の大きさ
25 / 140

25.竜が留まる孤島へ(前編)

しおりを挟む


「うっま……!!」
「このぷりっぷりの海老!身が弾ける~っ」
「このお魚も、甘くて美味しいですねぇ……!」

「このお刺身……って食べ物、初めて食べました!!」
メルルは目を輝かせ、耳を盛んにぴこぴこと動かした。

漁師が営む海の食堂で、一行は久しぶりに心からの満足を覚えていた。
焼き魚、刺身、貝の蒸し物、煮付け、海老の唐揚げ──食卓に並ぶ魚介の数々はどれも新鮮で、潮の香りと共にどこか懐かしさを感じさせる味だった。

「こっちは海苔汁に塩焼きか。……うん、塩加減が絶妙だな。」

ネロも珍しく感嘆の笑みを浮かべ、箸を進めていた。
そんな彼らの前に、先日会った逞しい漁師が真剣な顔で近づいてくる。
ひと息つくと口を開いた。

「……実は、ちょっと相談があってよ」

「……相談?」
メリィが首を傾げる。

「船で小一時間ほどの場所に、小さな島があるんだ。そこに──最近、“竜”が住みついちまってな」

場が、すっと静まり返る。

「そいつは村人達に言ったそうだ。“我に捧げ物を持って来い。さもなくば、村人を毎日ひとりずつ喰らってやる”と……」

「島で育つ作物は少ねぇし、漁も例の魔物のせいでろくにできなかった。島の連中は、このままじゃ自分たちの食うもんすら無くなっちまうって本当に困り果ててるんだ。どうか……どうか、あんたらに頼めねぇか?」

頭を下げる漁師に、一同は顔を見合わせた。

「……星の巡りは悪くないです」
「むしろ、今が“干渉の好機”です」

と、マヌルとメルルが顔を見合わせて頷き合う。

「困ってる人がいるなら、行かなくちゃだよね」
それに、こんな美味しいご飯もいただしたし!とメリィの声は、まっすぐだった。

「では小生は、こちらに残るということで……」
妙に歯切れの悪い声で言い、その場から離れようとするタカチホ。

「おまえも行くんだよ!」
ワノツキがタカチホの首根っこをがっしと掴む。

「ぐえっ!?なぜこんな乱暴な──小生には陸の方が向いてるんですよォ~!!」
暫くジタバタとするタカチホだったが程なくして諦めたようだった。


「……行ってくれるのか……!?」

漁師が顔を上げ、目を潤ませる。

「ああ。連れてってくれるんだろ?」

「もちろんさ!俺の船で、すぐにでも送るぜ!」
胸をどんと叩いたその男の背中には、長年波に揉まれた自信と誇りが刻まれていた。

 

──翌朝・出航

船は朝靄の中を切るように進んでいた。
白い波が尾を引き、空には飛ぶカモメ。
しかし──その光景をまともに見られない者が一名。

「……だから小生は……残ると……言ったんですヨォォ~……」
ぐったりと船の縁に凭れたタカチホが、顔を蒼白にしながら呻く。

「薬師なのに酔い止めの薬とか、ないのかよ」

心底うんざりした顔のネロが聞いた瞬間、「あ」とタカチホが声を上げ勢いよく立ち上がる。

「ネロさん!!気付いていたならなんでもっと早く言ってくださらなかったんでスkお゛ろろろろ……ッ!!」
次の瞬間、勢いあまって船の外へリバース。

ワノツキが優しくそっと背中をさすっていた。



「風が気持ちいいねぇ……」
「島ってどんな所なんでしょう……わくわくしますね!」
「マヌルは竜ともお話ししてみたいです!」

メリィと双子は、甲板で風に髪をなびかせながら、島へ向かう海の旅を楽しんでいた。

 

──船は、島へと近づいていく。
竜との対峙は、予想外の結末が待ち受ける事を、一行は知らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人
ファンタジー
 私は冒険者ギルド職員ロックウィーナ。25歳の女で担当は回収役。冒険者の落し物、遺品、時には冒険者自体をも背負います!  素敵な恋愛に憧れているのに培われるのは筋肉だけ。  しかし無駄に顔が良い先輩と出動した先で、行き倒れた美形剣士を背負ってから私の人生は一変。初のモテ期が到来です!!  ……とか思ってウハウハしていたら何やら不穏な空気。ええ!?  私の選択次第で世界がループして崩壊の危機!? そんな結末は認めない!!!! ※【エブリスタ】でも公開しています。  【エブリスタ小説大賞2023 講談社 女性コミック9誌合同マンガ原作賞】で優秀作品に選ばれました。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...