夢守りのメリィ

どら。

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36.とある竜のずれた感覚

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人形の街マリオドールを後にした一行。
静かに朝日が昇り、湿った風が吹き抜ける。

その街の入口——倒れた門の上で、竜の姿のままうずくまっていたズメウがゆっくりと立ち上がった。
蒸気のような白い息を吐き、翼をたたむと、ゆらりと人の姿へと戻る。

「……終わったか」

ズメウが静かに呟く。

「お前……やっぱり最初からわかってたんだな」

ワノツキが肩を回しつつ、ズメウに視線を向ける。
「わざとここで塞いで……誰も街に入れないようにしてたんだろ。あの悪夢の気配に気付いて」

ズメウはふっと唇の端を上げた。

「さあ……どうだろうな」

曖昧な返事に、ワノツキは苦笑して肩をすくめた。
「ま、結果オーライってやつだ。おかげで助かったぜ」

ズメウはそれ以上何も言わず
——静かになった街の方を一度だけ振り返ると、無言で歩き出した。




次の街を目指し、野道を進む一行。
風は涼しく、麦の穂がざわめいている。

「そういえばですね~」

双子——マヌルとメルルがぴょこりと顔を上げた。

「最近、ズメウさま……メリィ姉さまへの押しが弱い気がします」

「そうそう!まるで……ネロさまとの様子を見守って、お引きになったような……!!なんて健気な……!!」

「「あのズメウさまが!遠慮を覚えるなんて……!!」」

きゃっきゃと騒ぐ双子に、メリィは「やめてよぉ……」とわたわたする。

「……?」

ズメウはと言えば、その場で立ち止まり、少し首を傾げていた。
「……いや。別に遠慮などしておらぬが?」

「へ?」

「我は、二夫一妻でも構わんと思っているが……何か問題があるのか?」

ズメウのあまりに真顔な発言に、その場の空気がぴたりと凍りつく。

「なっ……」

ネロもメリィも固まったまま微動だにしない。
ワノツキも大槌を肩に担いだまま「は?」と目を細める。
タカチホに至っては「オォ……これはまた……」とニヤニヤ楽しそうにしている。

「……何故だ?良い雌に複数の雄が添う事はおかしな事か?」

ズメウが不思議そうに、皆の顔を順に見る。

「短きもの達の秩序では、二夫一妻は駄目なのか? ……ならば我は間違っているのか?」

その無垢な疑問に、とうとうネロが堪えきれず声を上げた。

「駄目もなにもあるもんか!!!!」

ネロの手はズメウの肩を掴みぐわんぐわんと揺らす。

「こっちはな、そう簡単に心を半分に割ったりできないんだよ!何が“二夫一妻は駄目なのか?”だ!!」

心の声にする余裕も無かったのか、矢継ぎ早に話すネロ。

「ふむ……理屈ではそうだろうが……我は長く生きる竜族故。……数の問題かと思ったが、違ったか」

真剣に考え込むズメウ。
その様子に、皆とうとう苦笑を漏らした。

「……やっぱズメウさま、ズレてるなぁ」

「でもそこが面白くて好き!」

「なんでそこでまとめるんだよお前ら……」

くすくすと笑う双子と、ため息のワノツキ。
メリィは「お願いだから、出すならもうわたしと関係ない話にして」と真顔になっていた。

ゆるりと、野道を歩く一行。
朝の光の中、どこか楽しげな声が響いていく。

——マリオドールの悪夢の後、世界は静かに、確かに続いていた。
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