夢守りのメリィ

どら。

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37. 絵画の街①

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絵画の街——「アルセント」。
その街は、石造りの路地が迷路のように入り組み、壁という壁に絵が描かれていた。
小さな画廊、古びたアトリエ、露店のスケッチ屋。道行く人々の服さえも絵の具で彩られ、
風に乗って乾きかけの油彩の匂いが流れてくる。

「なんだか……絵の中に迷い込んだみたいだね」

メリィがきょろきょろと街並みを見回し、楽しげに呟く。

「へぇ……ここ、初めて来たけど見る方向によって街の風景が変わるのか。面白いな」
ネロが鼻先をかすかに擦り、空を見上げた。
看板すらカラフルに塗られ、街の隅々まで絵画に満ちている。

「芸術の香りに満ちておりますねェ……」
ワノツキが感心したように頷けば、双子は露店の絵を物色し始める。
「姉さま、羊の絵が!」「あっちには竜の絵もあります!」と楽しそうに。

ズメウもふと立ち止まり、通りの壁に描かれた古い竜の絵をじっと見つめた。
「……久しき時代の竜か。一目ではわからぬであろう細部まで描かれている。絵師の目、なかなか鋭い」
そう呟くと、また皆と歩き出す。



宿に落ち着き、夕食後。
ネロ達の部屋で明日の予定を立てる一行のもとに、控えめなノック音が響いた。

「失礼します……こちらに旅の方々が滞在と聞きまして」

現れたのは、やや小柄で神経質そうな男。
「この街の大ミュージアム“ルフレン館”の支配人、オルゲンと申します」

オルゲンは所在なげに眼鏡を直すと、低く声を落とした。

「……困ったことがありまして。どうか、お力を貸して頂けないでしょうか」

「詳しく話してくれ」
ネロが立ち上がり、皆も顔を向ける。

「実は……館で不可解な事が続いております。ある一枚の絵のせいです」

オルゲンの顔が強張る。
「『赤い間者』という絵画……作者はこの街の出身、故アデル。
百年と少し前、完成と同時期に消えたとされる画家です」

ちょうどひと月程前、私はその絵を手に入れまして、とオルゲンは続ける。

「先日、その絵の辺りを見回っていた警備員が……消えたのです。足跡も、叫び声もなしに。
ですが、床には血の跡だけが残っていました。まるで絵の前まで引きずられたように」

双子が顔を見合わせて身を寄せる。
「翌晩、絵に布をかけ囲いを設けました。ですが……」

「囲いの中へと、また血の跡が続いていた」
そう告げるオルゲンの顔は青ざめている。
「絵が——絵の中の何かが、獲物を引き摺り込んでいるとしか思えないのです」

ズメウがわずかに目を細めた。
「……アデル。風の噂に聞いた名だな。生前“悪夢の結晶”を配合した絵の具の調合に成功し、誰もが真似を出来ぬ赤を作り出した…と」

「やっぱり悪夢絡みなんだね……」メリィが声を上げる。

「アデルは、“赤を極めるために悪夢の結晶を使った”と、当時を記した文書に書かれていました。
ですが彼は完成直後、行方がわからなくなったのです。奇妙な事に……部屋の床や壁には、何者かに引きずられたような血の跡が。描かれた絵画に向かうようにあったとも」

「待て……それじゃあまるで、絵がアデルを——」
ワノツキが呟き、部屋に沈黙が落ちる。

「さらに……彼の絵を見た者は“中の人物に心当たりがある”と言うんです。
『死んだ兄に似ている』『幼い頃亡くなった友にそっくりだ』——皆、違う顔を見ていた。
誰も本物の“モデル”を知らないのに」

「……悪夢の絵画か」ズメウが低く呟く。
「封じが切れたか、あるいは眠りから目覚めたか」

「そ、そんな……!!」
双子がわっとメリィの後ろに隠れる。
「こ、こわいです…!」


オルゲンは手を組み、必死に頭を下げた。
「どうか、皆さまの力をお貸しください……!ミュージアムも街も……このままでは……!」

ネロが腕を組み、タカチホが「ふむ、面白そうですねェ」と笑う。
ワノツキも「……放ってはおけねえな」と頷いた。

「……行こう」
メリィが静かに立ち上がり、窓から見える館を睨む。

ズメウがゆっくりと目を伏せる。
「確かめねばなるまい。あの絵の“本性”を」

静かに夜が更けていく中——
一行は、ミュージアム“ルフレン館”へと向かう覚悟を固めた。
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