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41.秋の街道と葡萄の香り
しおりを挟む陽光の差し込む緑の街道を、一行はゆるやかな足取りで歩いていた。
木々の間から吹き抜ける風は心地よく、季節の変わり目らしい涼しさを帯びている。
「……いい道だな。石も整ってるし、歩きやすい」
ワノツキがふと呟くと、タカチホがすかさず鼻歌交じりに言葉を返す。
「ふふ、さすがはワイナリーの街。運搬用の街道がしっかり整備されてるんでしょうネェ」
「ワイナリーの街……楽しみだね」
メリィが顔を上げると、ふわりと風に髪がなびいた。
「ここのワインは有名だと聞きましたヨ。どんな人でも、必ず気に入る一本が見つかるって……まさに“芳醇の都”ってヤツですネェ」
タカチホがにやりとズメウの方を見やる。
「ズメウさんも……お好きですしねェ、ワイン」
ズメウは小さく頷く。
「……うむ」
その淡々とした返事に、皆が「??」と顔を見合わせた。
「ま、お前らはまだ酒の味知る歳じゃねぇけどな」
ワノツキがニヤニヤしながら双子とメリィを振り返る。
「果実水でも飲んでな」
「べつにいいですもーん!お酒なんかなくても!」
「そうですー!果実水おいしいですもんね、姉さま!」
双子が元気よく言い合い、メリィに微笑みかける。
「えっと……一応わたし、飲めるんだよね……成人してるし」
メリィが小さく呟くと、ぴたりと皆の足が止まった。
「……は?」
ワノツキが目を剥く。
双子も「「ええええー!?」」と驚きの声を上げた。
「いやぁ~!これは驚きですネ!!小生、てっきり未成年かと……!」
からからと笑うタカチホ。
ズメウだけは「そうなのか」と一言だけ言い頷く。
「……ネロ、お前知ってたのか?」
ワノツキが隣の青年を見る。
「当たり前だろ」
ネロは涼しい顔で答えると、メリィの肩をぽんと軽く叩いた。
「あはは……まぁいいけどさ……」
メリィは苦笑しつつ小さくため息をついた。
「……すみません、姉さま。大人だったんですね……」
「マヌルたち、てっきり同じ位かと……!」
双子が申し訳なさそうにしょんぼりする。
「気にしないで。普段のわたし、確かに子供っぽいし……」
メリィは笑いながらそう言ったが、どこか嬉しそうでもあった。
タカチホが喉を鳴らす。
「それでは……ワイナリーの街では“オ・ト・ナ”の楽しみを味わうんですネェ、メリィサン♪」
「ちょっと、変な言い方しないでよ!」
メリィがぷりぷりと怒ると、皆から笑い声が漏れた。
こうして、賑やかな道中はいつもの温かな空気に包まれて進んでいった。
***
その夜。街道沿いの小さな宿に泊まった一行は、各自の部屋で休んでいた。
ネロとメリィが使う部屋も、簡素ながら清潔で、窓の外には静かな森の気配が広がっている。寝具のふかふかとした感触に身を沈めつつ、メリィはぽつりと呟いた。
「……もし旅をしてなかったら、みんなと出会えてなかったんだなって思うと、なんだか不思議な気持ち」
ネロは背を向けて荷物の整理をしていたが、その言葉に手を止める。
「……そうだな」
短く、素っ気ない返事。
メリィはそっと彼の背中を見つめる。
「……ねえ、ネロ。なんだか冷たくない?」
思わず問いかけると、彼はふいに振り返り、真っ直ぐ彼女を見つめてきた。
「……仲間が増えるのは嬉しい。楽しい。だけど――最近、少しお前不足だ」
「え?」
驚く間もなく、ネロはすっとメリィを腕の中に引き寄せた。
抱きしめるその腕は、いつもよりもずっと強い。ぎゅっと、離さないように。
「……こうしてないと、落ち着かない」
低く、耳元に落ちる声。その体温と、真剣な表情に、メリィの胸がじんと熱くなる。
「もう……ネロはいつの間にこんな甘えたさんになったのかな」
優しく呟く彼女の背を、ネロはそっと撫でた。
その夜、二人の部屋には静かな、優しい時間が流れていた。
外では、木々がさらさらと風に揺れ、遠くの森が眠りに落ちていく――そんな音だけが聞こえていた。
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