夢守りのメリィ

どら。

文字の大きさ
62 / 140

62.花の街(後編)

しおりを挟む

街を染めた春変わりの光景に背を押されるようにして、メリィとネロは宿屋へと戻ってきた。
ドアノブに手を掛けた瞬間――。

「おめでとうございますー!!」

爆竹のような破裂音とともに飛び出してきたのは、満面の笑みのタカチホだった。

「いやぁネロサンてば、『ウールネストに帰ったら話があるんだ』(※声真似)なんて言ってらしたから、小生やきもきしてたんですよォ?まったく、いつまで引っぱるつもりかと思ってましたが……いやぁ、とうとう無事、告白成功ですネ!!」

ネロが額に手を当ててため息をつく横で、双子も元気に声を合わせる。

「ヘタレさま卒業ですね!」「ですね!!」

「ようやくだな」とワノツキもニヤリ。

メリィは耳まで真っ赤になり、ネロもぐっと肩をすくめる。

「……おまえら、どこから見てた」

「さあ?どこでしょう?」とタカチホが肩をすくめ、「フフーン」と鼻歌をつけ加える。

そのとき、ズメウがふわりとメリィの頭に手を置いた。

「案ずるな、メリィ。ネロと番ったとしても、我はお前たち全員を守ろう。竜とは、そういうものだ」

「ほらほら、補足しますヨ」とタカチホが横から指を立てる。
「竜というのは、気に入った存在をとーっても大事に守る性質がありましてネ。物語でもよくあるでしょう?“神殿を守る竜”“王を護る竜”……そういうやつですヨ」

「我は、ここにいる皆を気に入っている」

ズメウのまなざしは、メリィだけでなく、ネロも、ワノツキも、タカチホも、双子も、まとめて包んでいた。

「ありがとう、ズメウ。心強いよ」
メリィは微笑んだ。

「で――」タカチホが急に顔をぐっとメリィに寄せた。「ネロサンとは、その……どこまで進んだんですかネ?」

「やめろ!!」とネロが即座に制止し、ズメウも「無粋なことをするな」と静かに釘を刺す。

「えー!せっかくの場面なのにィ!」とタカチホがむくれるが、「ほら行くぞタカチホ!」とワノツキに首根っこを捕まれ、「お邪魔しちゃだめですよー!」と双子に両腕を引っ張られ、あっという間に奥の部屋へと連行されていった。

残されたメリィとネロは顔を見合わせ、どちらからともなく小さく笑った。

「……騒がしいな、みんな」
「うん。でも……なんか嬉しいね」

そう言い合いながら、ふたりは静かに自分たちの部屋へ戻っていった。

***

荷支度は整えた。次の街への地図も確認した。
 
ネロが「そろそろ行くか」とドアに手を掛けたとき――。

「……ネロ」

メリィの声が背後から呼び止めた。
ふり返ると、ベッドの縁をぽんぽんと叩く彼女がいる。

「ちょっと……ここ座って」

ネロは言われるまま、黙ってメリィの隣に腰を下ろした。
窓から差す春の光が、ふたりの間に淡く揺れている。

「……あのね。今朝のこと――」

メリィは深く呼吸を整えた。

「……すごく、嬉しかったの」

そう言うとメリィは立ち上がり、ベッドに腰かけたネロの方へ一歩、二歩と進み――。
背伸びするようにして、その唇にそっと口づけた。

それはたった一秒の、だけど確かに心を込めたキスだった。

「……これ、わたしの気持ち」

消え入りそうな声で呟いたメリィは、顔を真っ赤に染め、くるりと背を向けてドアへ向かう。

「さ、先に行ってるから……!」

ぱたぱたと慌てた足音が部屋から去っていく。

取り残されたネロは、しばらく呆然と座っていたが――。

「……反則だろ、それは」

ぽつりと呟き、口元に手を当てたまま、苦笑した。

春の風が、窓の隙間からやさしく吹き込んできた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人
ファンタジー
 私は冒険者ギルド職員ロックウィーナ。25歳の女で担当は回収役。冒険者の落し物、遺品、時には冒険者自体をも背負います!  素敵な恋愛に憧れているのに培われるのは筋肉だけ。  しかし無駄に顔が良い先輩と出動した先で、行き倒れた美形剣士を背負ってから私の人生は一変。初のモテ期が到来です!!  ……とか思ってウハウハしていたら何やら不穏な空気。ええ!?  私の選択次第で世界がループして崩壊の危機!? そんな結末は認めない!!!! ※【エブリスタ】でも公開しています。  【エブリスタ小説大賞2023 講談社 女性コミック9誌合同マンガ原作賞】で優秀作品に選ばれました。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...