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77.オアシスの街に潜む影(後編)
しおりを挟む薄暗い廃屋の一室――。
乱暴に放り込まれたメリィと双子は、埃と古木の匂いに小さく咳き込んだ。
「姉さま……大丈夫ですか……?」
「……うん。メルルもマヌルも、怪我は?」
「メルルは平気です」
「マヌルもです」
小声で話し合う三人。
ほっと息をついたのも束の間、奥の壁際に怯えた瞳が揺れた。若い娘たちが何人も、痩せた体を寄せ合って座り込んでいる。
間違いない――行方不明になっていた女の子たちだ。
「へへ……今日は当たりだな。こんな活きのいいのが一気に三人もとはな」
「売りに出す前に、ちょっとくらい味見してもバレねぇだろ……?」
男たちの下卑た笑い声。ニヤついた男の手が、マヌルの足へと伸びる。
「……汚い手で触らないで」
その瞬間、鋭い金属音。
メリィが隠し持っていた短剣で、その男の手のひらを真っ直ぐ貫いていた。
「ギャアアア!!」
転げ回る男。
「な、何だ!?気絶してたんじゃなかったのかよ!」
「蹴られて痛かったなぁ……」
メリィは服の埃を払って立ち上がる。短剣から血を払い構え直し、淡々と告げた。
「まったくです!」
「メルルは怒ってます!」
「マヌルもです!」
双子の手足を縛っていた縄が音を立ててほどけ、ばらりと落ちる。
「チッ……仕方ねぇな。多少傷物になっても構わねぇ。まとめて取り押さえろ!!」
怒声と共に数人の男が部屋へなだれ込んだ――が、
「――っ!?」
次々と床に崩れ落ちていく。立て続けに、何人も、何人も。
「な、なんだァ!?」
「小生で~~ス♪」
ひょこっと扉の影から顔を出したのは、タカチホだった。
小さなを指で弄びながら、いつもの飄々とした笑み。
「いやァ、今時こんな典型的な罠に引っかかって下さるとは……小生、驚きでス」
倒れた男たちの首筋には、麻酔針が刺さっている。
「まったく……幼気な女性に手を挙げるなんテ」「男の風上にもおけねぇよな」
ワノツキが背後から現れ、シャベルを肩にかついで苦笑する。
「……うむ」
ズメウが重々しく頷いた。
「ちょ、待て!俺は指示されただけで!!」
奥にいた男が怯え、壁際に後ずさる。
「へぇ……じゃあ選ばせてやるよ」
ネロがゆっくりと近づく。表情は穏やかだが、目が笑っていない。
「ボコされてから黒幕吐くか、黒幕吐いてからボコられるか……どっちがいい?」
「……うむ」
「ネロサン、それどっち選んでも変わりませんし……それにズメウサン!」
タカチホが肩をすくめる。
「さっきから“うむ”しか言ってませんヨ!?」
「気のせいだ」
「ズメウ、その……さっきまでどこ行ってたんだ?」
ワノツキが振り返る。
「……奴隷商人の店を潰してきた」
低く淡々と、しかし凄みのある声。
「え……」
「さっきまでここに向かう途中でな。檻も、店も、商人も――全部叩き潰した。二度と誰も捕まえられぬように」
「……居ないと思ったらそんな事を……やっぱりやることが派手すぎますネ」
タカチホが苦笑する。
「さすがだな」
ネロも目を細めて笑った。
「ネロ、タカチホ、後はこの人攫いどもから全部吐かせろ。元締め、隠れ家、何もかも」
ネロが手袋をきっちりと付け直す。
「心得てる。お楽しみタイムだな」
タカチホは怪しげな薬の入った小瓶を袖口から出す。
「やれやれ……ま、手荒にならないよう努力はしまス……努力だけ」
「やめろォォ!!全部吐く!!何でも喋るから!!」
――その晩。
ジスールの闇に巣食っていた盗賊団と奴隷商人は、根こそぎ捕らえられ、消え失せた。
そして後日――
街から消えていた女性たちの多くが、無事に帰還することとなるのだった。
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