夢守りのメリィ

どら。

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90.竜の母

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魔法の街での日々もそろそろ終わりに差し掛かろうとしていた。
だが、問題が一つ。
——黒竜の存在だ。

「やっぱり竜は目立つからなぁ。魔法研究者とか、妙な連中に狙われたら面倒だぜ」
街の地図を畳みながら、ワノツキがため息をつく。

「ズメウもいるから平気じゃない?」
メリィは首を傾げる。
「今は人の姿だから誤魔化しきれていますが、万が一竜の姿のズメウサンが見つかったら大事ですヨ。骨の一本まで材料にされかねません……それが“魔法の街”でス」
タカチホが重い声で告げた。

「……だが、方法はある筈だ」
ズメウがふと前に出る。
「我の様に魔力で姿を偽る道……だが、生まれたばかりの小さき身でどこまで出来るか…」

「じゃあ……小生の出番ですネ」
タカチホが目を細め、懐から取り出したのは虹色の怪しい小瓶。

「試作中の変化薬デス、たぶん竜にも効く筈でス……たぶん」
「たぶんってなんだよ」とワノツキが突っ込む。

だがその薬がまだ小さな黒竜に与えられると——眩しい光と共に、目の前には小さな少年の姿が立っていた。
艶のある黒髪、紫水晶のような瞳。年の頃は四、五歳。
しかもどこかズメウとタカチホを足して二で割ったような顔立ち。

「……ちょっと待て。なんでこんなお前ら似の顔になるんだ……」
「竜の側にいた魔力が強い二人の影響……ってことですかネ?詳細はわかりませんが」タカチホがぼそり。

ワノツキの顔がニヤリと光る。
「……いいこと思いついたぜ」

「……なんです?その嫌な顔は……」タカチホが引きつった顔をしながら後退りをする。

「いや~、こいつの“お母さん”がいれば一番怪しまれねぇなって思ってな」
「ちょ、ちょっとワノツキサン!小生に女役をやらせる気じゃ……!」

「そのつもりだ!」
ワノツキはニヤリと笑いながらタカチホを自室へと引きずり込む。
「やめてくださイ!!!小生にそんな趣味は…!!!やめ……アーーーーーーーッ!!!」


その後——。


「……出来たぞ。出ろ」
ワノツキがドアを開けると、そこには——。

たっぷりと綿を詰め込まれた胸、足首まで隠れるふんわりスカート、そしてほんのり赤い頬と艶やかな唇……完璧に“竜のママ”に仕立てられたタカチホの姿があった。

「な、何という辱めですカ……!!」
震えるタカチホの声に、全員——吹き出した。

「……ズメウ……?」吹き出してはいなかったズメウの様子が気になり、メリィが顔を覗き込む。
「笑ってない。我は……笑ってない」
ズメウは口元を押さえ、反対側を向いて肩を震わせていた。

「パパ……ママ……?」
人の姿になった黒竜が小首を傾げ、じっとタカチホを見る。
タカチホは目を伏せ、ぐっと拳を握ると——

「ワタクシが……ママですヨ!」
女声のフリで黒竜を抱き上げた。

「……似合うじゃねぇか」
「むしろしっくり来てる……」
ワノツキとネロがにやにや笑う。

「タカチホママ!すてきです!」
「似合ってます!」
双子もぴょんぴょんと跳ねる。

「ち、違う……小生は男デス……!!」
涙目になり頭を抱えるタカチホをよそに、ズメウが黒竜に目線を向ける。
「お前は暫くその姿で過ごせ。大人になれば、また翼も牙も戻る」

「……!わかった、パパ、ママ……!」
黒竜が満面の笑みでズメウとタカチホに抱きつく。


かくして——“ママ”タカチホと“パパ”ズメウの最強護衛付きで、怪しまれることなく一行は魔法の街を抜けることができたのだった。


その後もネロが「おーい、ママ!」と呼ぶたび、タカチホは顔を真っ赤にして追いかけ回すハメになるのだが——それはまた別のお話。
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