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93.歯車と迷路③
しおりを挟む「いきますよ、マヌル!」
「いきます、メルル!」
左右から飛び出した回転刃を同時に屈んでくぐり抜けると、今度は上から鋼鉄の杭が音を立てて降ってくる。それすらも軽く横跳びで回避。
「はやいですね!」
「でもまだまだです!」
木の枝を渡るように次々と飛び石の足場を飛び越え、絡まる鎖の間をすり抜ける。巨大な振り子をくるりと回転して躱し、二人は小さな笑い声を上げながら迷路の中を駆け抜けていた。
「メルル、すごい楽しいです!」
「マヌルもです!まるで遊園地みたいですね!」
くるくると舞いながら歯車の隙間を通り抜けると、床が突然沈み込む。ふわりと体が浮き、双子は宙返りを決めながらふわりと着地。見事な着地に二人でハイタッチ。
「これなら迷路の一番乗り、できるかもです!」
「できちゃうかもですよ!」
……だが、その勢いで進み続けたところで、ふと二人は立ち止まった。
「……あれ?」
「……そういえば」
「ゴールって、どこですか?」
顔を見合わせる双子。沈黙。まばたき三回。
「……聞いてないですね」
「……聞いてないです」
再び沈黙。くるりと後ろを振り返る。見渡してもどこまでも続く迷路、迷路、迷路。上下左右、すべて歯車の壁と鉄の床。
「……でも、進んでいけばきっと着きますよ、マヌル!」
「そうですよ!深く考えたらダメです、メルル!」
二人は両手を取り合ってくるりと一回転。ふわりと身を沈め、次の障害をくぐり抜ける。
「行きましょう!」
「どんどん行きましょう!」
――結局、楽しくなって深く考えるのはやめてしまった双子だった。
「……なんだか、聞いていた話と様子が違うみたいだね」
メリィがそっと声を漏らした。
ここには――障害物がほとんどない。
他のチームが壁の動き、刃の仕掛け、床の罠に追われている中、二人の歩く道だけはひたすらに静かだった。歯車の音だけが遠く、規則正しく響いている。
「迷路っていうより……ただの長い廊下みたい」
メリィの左手首。そこには銀色の枷がカチリと掛けられ、ネロの右手首と鎖で繋がれている。
「疲れてないか?」
隣を歩くネロが、ふと立ち止まってメリィの顔を覗き込む。
「全然大丈夫だよ」
笑ってメリィが首を振る。
鎖で繋がれている――けれど、不思議とそれが心地良かった。隣にネロが居て、手の温もりが伝わる。だから足取りも軽い。
「疲れたらいつでも言ってくれ」
ネロは真剣な顔で言う。
「もう、過保護だよ、ネロ」
「お前がすぐ無理をする癖があるからだ。だから、仕方が無いだろ……大事なんだ。お前が」
軽くメリィの手を引いて、ネロはそっとその甲に唇を落とした。淡く、優しく。
「……っ……!」
途端に真っ赤になるメリィ。ネロの横顔をじっと見ていると、満足そうな笑みを浮かべている。
「……逃げられないぞ」
繋がれた鎖を指さしてネロが言う。
「今日のネロは……少しいじわるだね」
頬を染めたメリィが小さく呟いた、その時だった。
――ゴゴゴゴゴッ……!!
鈍い地響きと金属の軋む音が迷路全体を震わせた。
「何!?」
音の方へ顔を向けると、遥か上層――巨大な歯車の間。
そこに見えたのは、何かと戦うズメウとワノツキの姿だった。
炎と雷が交錯し、床板を砕く音が響く。
「急ごう!!」
ネロがメリィの手引く。
「うん!!」
メリィもその手を握り返す。二人は駆け出した。仲間のいる場所を目指して――。
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