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115.神聖国アルセリア(前編)
しおりを挟む「ほ、ほんとに……シーダですか……!?」
「一晩で、メルル達の身長、超えられるなんて……!!」
朝、宿屋の広間でシーダの姿を見た双子は、目をまん丸にして驚きの声をあげていた。
彼の身長は昨日までの倍近くになっており、声も落ち着き、少年と呼ぶにはやや頼もしい雰囲気を纏っている。
「成長期だって、父さまが言ってた。力が増えたから……大きくなったんだと思う」
そう言ってシーダは、嬉しそうに微笑んだ。
「それに……」
ふっと笑った彼は、ふわふわのメリィの髪へと顔を寄せた。
「……メリィのふわふわのおかげも、あると思う」
「ふぇっ……?」
予想外の愛情表現に、メリィが少しきょとんとする。
その様子を見て、ネロは何か言いたげな顔をしていた。
じっとシーダを見つめ、ふぅっと息を吐いた後、小さく呟く。
「……相手は子供。相手は……子供だ……」
「不憫ですネェ、ネロサン……」
タカチホがどこか哀れむような顔でネロの背を軽く叩いた。
***
それから数時間後。
一行は、目的の街──神聖国〈アルセリア〉へとたどり着いた。
その街は、一つの独立した国のように、重厚な石の城壁で外界と隔てられていた。
実際にこの城壁の中は国と主張しており、治外法権となっている。
高く積み上げられた壁の向こうには、天を突くような巨大な大聖堂の尖塔が見える。
「街の中だけ別の国って、なんだか面白いね」
メリィはきょろきょろと辺りを見回しながらそう呟く。
「一般には入れない区画もあるらしいな」
ネロは警戒するように大聖堂の奥を見つめた。
「城壁の近くの家屋は……陽が差しにくそうですネ」
タカチホはひときわ高く築かれた城壁を見上げ、それからくるりと向きを変えた。
「それに比べ──」
視線の先には、燦々と陽光を浴びる大聖堂の尖塔があった。
「信仰対象は日当たりが良さそうですネェ」
皮肉めいた微笑みを浮かべるタカチホの言葉に、ネロが小さく肩をすくめた。
「……そういうのは、思っても言わないもんだ」
この街では、巡礼者や旅人のために指定の宿がいくつも管理されているらしい。
受付所でそれを案内され、一行は「旅人用」と書かれた宿屋へと向かう。
途中、街のあちこちには厳つい鎧に身を包んだ教会の私兵たちが立っていた。
白と金を基調としたその制服は威厳に満ちており、街の空気をぴんと張り詰めたものにしている。
「……監視されてるみたいで、なんか嫌だ」
シーダがぼそりと呟く。
「そうだな」
ズメウがわずかに目を細め、私兵を一瞥する。
一行は宿に着き与えられた部屋に荷物を置くと、軽く街を見て回ることにした。
街の中心、大通りに面した商店街では、祈りを捧げるための供物や花が並び、賑わいを見せていた。
色とりどりの布や装飾品、香の立つ蝋燭や乾燥花など──その多くが華やかなもので、キラキラと輝きを放っていた。
「キラキラした物が多いですね!」
「このお箸なんて金ピカです!」
双子は目を輝かせながら店先を覗き込む。
「願いに合わせて供物をするらしいですヨ。大抵は商売繁盛とか名声とか……そういうのですから、自然とキラキラした物が増えるのでしょうネ」
タカチホが説明する。
「タカチホって物知りだね」
メリィが感心すると、タカチホは途端に頬を赤く染め、嬉しそうに大袈裟な口調で言う。
「もっと褒めていただいても良いのですヨ~~♪ 小生、褒められて伸びるタイプですから~~!」
その言葉にネロが容赦なく拳骨を落とす。
「調子に乗るな」
一通り街を歩いた後、一行は宿屋へと戻ってきた。
淡い陽光が石畳に溶け、街は静かに夜へと向かっていた。
「平和そうな街だな」
ネロがぽつりと呟く。
「あれだけ兵隊さんがいたらそれも納得です!」
メルルが言うと、タカチホも苦笑しながら頷く。
「信仰と統制がセットの街ってことですネ」
「明日は大聖堂ですね!」
マヌルがぱあっと笑って言う。
「騒ぐなよ、お前ら」
ネロは口元を緩めながら注意した。
こうして一行は、それぞれの部屋へと戻っていった。
高い壁に囲まれた街──その静けさの奥には、まだ見ぬ物語が息を潜めていた。
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