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116.神聖国アルセリア(後編)
しおりを挟む翌朝、陽が柔らかく差し込むなか、一行は神聖国アルセリアの象徴──大聖堂へと向かっていた。
「すごいです……ここの警備、とても厳重ですね……!」
「こんなに兵隊さんがいっぱいなんて……!」
双子はきょろきょろと辺りを見回し、警備兵の多さに驚きの声を上げる。
「街のシンボルみたいなもんだからな」
ネロが言ったとおり、大聖堂へと向かう通りには、ひと際厳つい鎧に身を包んだ教会の私兵たちがずらりと並び、通行人の動きを睨むように監視している。
大聖堂へと続く広い石階段を登ると、ようやくその全容が現れた。
「……大きい……父さまでも入れそう」
仰ぎ見るシーダの声は、どこか呆然としているようだった。
「中で大きな声を出してはいけませんヨ~」
タカチホがにやりと笑いながら言うと、
「はーい……」と双子とシーダが揃って小さな声で返事をし、人差し指を口に当てていた。
大聖堂の扉をくぐった瞬間、空気が変わった。
高く、アーチ状に広がる天井には、柔らかな光のもと美しいフレスコ画が描かれ、壁の両側には鮮やかなステンドグラスが幾重にも連なっている。
陽光を受けて輝くそれらの色彩が、まるで万華鏡のように大理石の床へと映し出されていた。
「わあ……」
メリィが思わず声を漏らす。
「……これは……壮観だな」
ネロもまた、感嘆の声を抑えきれないようだった。
「初めてお越しになられましたか?」
近くにいた一人の信徒が柔らかく声をかけてきた。
頷いた一行に、彼女はにこやかに言った。
「それでは簡単にご案内をいたしましょう」
ステンドグラスに描かれていたのは、神の物語、魔王の物語、古き英雄たちの伝承──すべてが絵として綴られ、言葉を知らない者にも理解できるよう工夫されていた。
「こちらのステンドグラスは、物語を視覚で伝えるために作られたもの。神の奇跡、魔王との戦い、そして我々の始まり……」
「えっと、あの一番真ん中の……あれは誰のお話なんですか?」
メルルが一際大きなステンドグラスを指差し、尋ねた。
「あれは、創世の神々の物語ですね。我々を生み出した、そして今も見守り続けておられる十一柱の神々です」
信徒はうやうやしく言った。
十一の神々はそれぞれ異なる装束やモチーフを持ち、剣、書、花、炎──多様な象徴を掲げた姿で描かれていた。
その姿は、確かに美しく、荘厳だった。
「神って……こんなにいるんだな」
ネロがぽつりと呟く。
続いて、魔王のステンドグラスへと案内された一行は、その中に「黒の魔王」の姿が無いことに気づいた。
「あの……伝説では、黒の魔王っていうのもいたって聞いたのですが……」
マヌルが遠慮がちに尋ねた瞬間、信徒の顔色が変わった。
「……あれは、忌み物です」
吐き捨てるような声音に、一行の表情が一斉にこわばった。
一通り説明を聞き終えた一行は、外の石段を降りながら、誰からともなくため息が漏れた。
「神さまって……カーラさんを悪者にすることで、綺麗な物語を作ったのかな……」
メリィがぽつりと呟いた。
頭に浮かぶのは、あの時出会った「黒の魔王」カーラの、寂しげな笑み。
あの表情は、とても“悪者”のものとは思えなかった。
「白の魔王と会ってから変わった……と言っていたな」
残念な事だがとズメウが続ける。
「伝わったのは、それ以前の話だったのかもしれん」
「モヤモヤされますでしょうが……伝承や神話なんてものは、伝わるうちに必ず歪むものですヨ」
タカチホが空を仰いで言った。
「我々みたいに“ご本人”に会えるなんて、奇跡みたいなものですからネ」
「……普通に考えれば、とんでもないことだよな」
ネロが苦笑する。
メリィは深呼吸をし、真っ直ぐに前を見据えた。
「……うん、決めた!」
「わたし、白の魔王の祠に行ってくる!!」
突然の宣言に、一行の目が見開かれる。
「いやいやいや! メリィさんまた突然……なぜでス!?」
タカチホがあたふたと手を振る。
「カーラさんは……白の魔王、アークさんに……ちゃんと会いたいだろうなって思うの。
たとえそこにあるのが“体”だけだったとしても……」
メリィの言葉は、真っ直ぐで迷いがなかった。
「……でも。祠があるのは……マヌル、メルル、ズメウが辛い気持ちになった場所だから……」
「だから、みんなには待っててほしいなって……ワガママで、ごめん……!」
その手を、そっと取ったのはマヌルだった。
「姉さま……マヌル達のこと、考えてくださってありがとうございます……」
続けてメルルも手を重ねる。
「でも、メルル達──もう未練はないんです。
一緒に行きたいって思えるくらい、強くなったつもりです!」
「置いて行くと言うのなら、追いかけるまでだ」
ズメウが、ニッと笑った。
「「置いてくなんて許しません!!」」
双子が声を揃えて叫ぶ。
「良いではないですか! ワガママ! ワガママもまた旅の醍醐味デス!小生も、勿論ご一緒しますヨ!!」
タカチホが胸を張る。
「正直、不安はある。だが──お前が“行きたい”って言うなら、オレも行く」
ネロは言葉少なに、だが力強く、メリィの手を握った。
「ありがとう…みんな!」
皆の言葉に、はにかむように笑うメリィ。
その目尻には、じんわりと涙が滲んでいた。
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