夢守りのメリィ

どら。

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117.禁域へ

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街を後にした一行は、舗装された石畳を外れ、しばらく土の道を歩いた。
周囲に人影がなくなった頃──ズメウは立ち止まり、大きく息を吐く。

「ここからは、飛ぶぞ」

言葉の直後、黒銀の鱗が次々にせり上がり、彼の体はみるみるうちに巨大な竜へと変わっていく。地を踏みしめるだけで、わずかに地面が揺れた。

「ズメウ、いつもありがとう」
メリィが微笑んで背中を撫でると、竜の顔はわずかに口角を上げたように見えた。

皆が背に乗り込もうとする中、シーダが小走りに近づいていく。
「父さま、今日は僕も──」

だが、ズメウはばさりと片翼を広げ、彼の前に立ちはだかる。

「……お前には、翼があるだろう」

そう言うと、ズメウはメリィたちを乗せ、音もなく地を蹴って空へと舞い上がった。

「……待って、父さま……!!」

小さく呟いたシーダの体が輝きに包まれる。次の瞬間、彼もまた大きな竜へと姿を変え、空へと翼を広げて舞い上がった。

「わっ……!シーダ、前に見たときより、すごく大きくなってる!」
並んで飛ぶシーダの姿に、メリィが目を見張る。

「……父さまみたくは無理だけど……一人くらいなら……背に乗せて飛べると思う」
シーダは誇らしげに言った。

「だが……お前はまだ長距離飛行に慣れていないだろう。疲れたらすぐ言え」
上空を滑空しながら、ズメウが鋭い声で告げる

「……うん」

少し不服そうなシーダにズメウが言う。
「己の翼を使わずにいれば、何れ飛べなくなる。その時困るのはお前自身だ」

「それは、嫌だ」
シーダはぐっと胸を張り、自分の力で空を駆ける覚悟を示した。



しばらく空を飛ぶと、双子が風にたなびく尻尾を振りながら声を上げた。

「姉さま!!禁域の道案内はメルル達にお任せください!」
「そうですよ!祠まで、マヌル達行ったことありますから!」

頼もしく張り切る双子に、メリィはふわりと微笑む。

「うん、ありがとう。お願いするね」

「「お任せくださいっ!」」
元気な返事に、一行の空気が少しだけ和らいだ。


「……メリィ」
メリィの後ろにいたネロが、少しだけ声を低くして言う。
「変な気分になったり、異変を感じたらすぐ言うんだぞ。遠慮はなしだ」

「そうですヨ~~! 黒の魔王……カーラサンがメリィさんにお渡しした“黒い結晶”も、正体が知れませんからネェ……」
隣で浮かれたような声を出しながらも、タカチホの目はどこか真剣だった。
「用心するに越した事はありませんからネ!」

「ふたりとも、心配しすぎだよ~……」
メリィはくすりと笑い、ちょっとだけ頬を赤く染めて恥ずかしそうに言った。
その笑顔に、皆の心もすこし緩む。

一行は、広がる空の下──黒と黒銀の二頭の竜に導かれ、禁域の大地へと向かって飛び続ける。
目的地は、白の魔王アークが眠る祠。
メリィはカーラから託された結晶が熱を持ったような、そんな気がした。
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