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121.娯楽の街①
しおりを挟む祠を後にし、一行は山を越えて西へと歩いた。
風が開ける尾根の道を抜け、やがて眼下に広がるのは――ひときわ明るく、色とりどりの光に包まれた、眠らない娯楽の街だった。
「わあ……!」
街に足を踏み入れるなり、マヌルがぱちくりと目を瞬かせた。
「音がいっぱいして……目が回りそうです……!」
「宿は少し静かな場所にした方が良さそうだな」
ネロが周囲を見渡しながら呟く。至る所から響く音楽、呼び込みの声、ゲームの効果音。到着したのは夜だというのに、太陽が落ちた気がしないほどに街は明るかった。
「……あれはなんだ?」
不意にズメウが立ち止まり、街路の片隅を指差した。
「お、早速引っかかりましたネ」
タカチホが軽快に笑いながら視線の先を確認し、指を立てて解説を始める。
「ミミック型の宝箱にボールを投げ入れるゲームでス。多く入れれば入れるほど、景品が豪華に……ですが、ミミックの口が開いたり閉じたりしますので、コツがいりますヨ~」
「……あれは?」
続いてズメウがまた別の店先を指差す。今度は、穴から飛び出すミミズ状のものを小槌で叩くという奇妙な光景。
「サンドワーム叩きですネ。時間内に何匹叩けるかで得点が決まるゲームでス」
「ふむ……」
ズメウは興味深そうに目を細めた。
その後もズメウは次々と「なんだ?」と指を差し、タカチホが説明していくという掛け合いが続き、一行は笑いながら通りを進んだ。
だが――
「……あれは?」
ズメウが最後に指差した先。艶やかなドレス姿の女性たちが呼び込みをする華やかな建物。そこだけ雰囲気が妙に大人びていた。
「……あれは……ズメウさんにお伝えするにはまだ早いお店ですネ」
タカチホが口をつぐむ。
「何故だ」
首を傾げるズメウに、ネロが小さく吹き出しそうになって顔を背けた。
街の外れ、喧騒からは少し離れた一角に、落ち着いた佇まいの宿屋があった。古びた看板の下には温かな灯りがともっている。
「ここなら静かに休めそうだね」
メリィがほっと息を吐く。
宿の主である老夫婦が、柔らかな笑顔で迎えてくれた。
「賑やかな通りに驚いただろう? ここは街の外れだから静かだよ。食事も任せておくれ」
ありがたい申し出に一行は礼を言い、荷を下ろしに部屋へと分かれるとひと息つくことにした。
「……こんなに楽しそうな街だと、悪夢とかとは無縁な気がするなぁ」
メリィはベッドに腰を下ろしながら、ふと思ったことを口にする。
「表向きはな」
壁にもたれたネロが低く言った。
「だが……この街には金を賭ける場所も多いと聞く。手持ちが尽きたら、何を賭けると思う? もしくは借金のカタとして……身体の一部を取られる場合もある」
「そ、そんなの賭けちゃだめなのに~~~!」
メリィは「うーん」と情けない声をあげて頭を抱えた。
そして、ぽつりと呟く。
「夢を……心や魂みたく、取り出せない様に出来ないかな……? 体に固定する……とか」
「すごいこと考えてんな、おまえ」
ネロは驚いて笑う。
と、次の瞬間――
「恐らく、出来ますヨ~」
窓の外から、逆さまに顔を出す者がいた。
「おまえの出現の仕方、どうにかならないのか……?」
額を押さえるネロ。逆さまの顔はもちろん、タカチホだった。
「えっ!? タカチホ、方法を知ってるの!?」
メリィが目を輝かせて窓へにじり寄る。
「ええ、あくまで可能性の話ですがネ」
タカチホは身を翻し、部屋へと入ってくる。
「メリィさんが持っている“白”と“黒”――アークとカーラの力。その両方を用いれば、夢と肉体を繋ぎ止める事ができる……かもしれません」
「それって……本当!?」
「本当ですヨ。でも……アークが言っていたでしょう?力には代償が伴うと。問題は神です。自分たちの遊びを邪魔されたとおもい…最悪……メリィサンの存在自体を消されかねません」
「そんなのダメに決まってる!!」
ネロの声が鋭く割って入る。
ネロの声にビクリと肩を揺らしたメリィが目を見開くと、ネロは真剣な目で彼女を見つめていた。
「……絶対、ダメだからな。おまえが消えるなんて、冗談でも聞きたくない」
「……ネロ……」
「小生も反対ですヨ。これは可能性の話ですし。やってみましょうなんて軽々しく言えません」
珍しく真面目な顔のタカチホも続けて言う。
「……そっか、うん。わたしも消えちゃうのは……流石にやだな」
苦笑しながらメリィは頬をかく。
「わたし、無理はしないから。ちゃんと考えて動く。ありがとう、二人とも」
部屋に静かな風が通り抜けた。
遠くから、街の歓声と笑い声が微かに聞こえていた。
――この街にも、夢を蝕む影は潜んでいるのだろうか。
夜の帳が、緩やかに街を包み込んでいく。
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