夢守りのメリィ

どら。

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127.娯楽の街⑦

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案内された「VIPルーム」は、その名とはまるでかけ離れていた。
薄暗い照明の下、華やかさも高級感もない、冷えた空気だけが支配する静かな空間。机も椅子も最小限しか置かれておらず、とても賭け事が行われているとは思えない。

「おやおや?VIPルームにしては随分お暗いようですが……」
タカチホが軽口を叩くその直後、背後で扉が音を立てて閉じられた。
次にパッと部屋が照らされる。
明かりの中には、ずらりと並んだ黒服たち。その前に支配人は立つ。

「これは……どういう事ですかネ?」
微笑を浮かべたまま、タカチホが問いかける。

支配人は口の端だけを吊り上げるような笑みで言った。
「困るんですよね、あなたのようなお客様は。……大人しく流されていただければ、何事も問題なかったのですよ」

「なるほど。これは、口封じ……という認識で宜しいですかネ?」
「ご理解いただけて何よりです」
支配人の合図で、黒服たちが一斉に前進を始める。

「やれやれ……やはりこうなりますか。ズメウサン、殺してはいけませんヨ」

タカチホの声にズメウは一歩、前に出る。
「この人数相手に一人でどうにかなると思ってんのか!!」
叫んだ黒服の一人が棒を振り上げ、ズメウに打ちかかる。

が——
ズメウはその棒を、目もくれず片手で受け止めた。

「全員倒せば良いという遊戯だな」
その言葉と共に、ズメウの尾がしなる。
周囲にいた数人の黒服が巻き込まれ、壁へと吹き飛ばされる。

「ワタクシのボディーガード……鰐族なのですヨ」
口元に扇子をあて、タカチホが涼しげに語る。

「あぁ。我の顎に噛まれれば、肉も、骨も、丸ごと削げ落ちるであろうな……」
ずい、と一歩近づき、歯を見せるように笑うズメウに、黒服の一部は「ヒェッ……!」と情けない声を上げて後退し、そのまま逃げ出す者もいた。

「近付かなければどうということはない!」
意を決してさすまたを向ける者もいたが、ズメウはそれごと軽々と持ち上げ、投げ飛ばす。

ひとり、またひとりと倒れ、逃げ出し、残されたのは支配人ひとりだけとなった。
ズメウが、のしのしと近寄っていく。
支配人の顔からは血の気が引き、滝のような汗が流れ落ちていた。

「……あとはお前だけだが」
ズメウの金色の目が、尻餅をついた支配人を見据え、近づこうとしたその時——

「……あ、あいつを放て!!」

支配人の叫びとともに、部屋の右手の壁が突如として破壊された。

粉塵と共に現れたのは、異様な獣。
巨大な熊にも似た体躯を持ち、体表には赤く光る結晶がいくつも生えている。
片腕は石のように固く膨張し、両目は濁ったような赤に染まっていた。

「こんな時の為に、特別に作らせたのだ!!」
支配人が勝ち誇ったように叫ぶ。
「お前たちは、もう終わり——……だ……?」

次の瞬間。
ズメウの金色の瞳が、獣を捉えた。

ズメウの腕が、わずかに振り上げられる。

そして——

「終わるのは、お前の玩具の方だ」

ズメウが腕を振り下げる刹那、激しい風圧と共に血飛沫が舞い、獣の体はまるで紙細工のように二つへと裂ける。
音もなく崩れ落ちる怪物の残骸はサラサラと黒い塵へと変わっていく。一瞬で起きたその凄絶な光景に、支配人の表情は凍りついた。

ズメウが、ゆっくりと歩を進める。

「……我の仲間達に手を出してみよ。次にあぁなるのは……お前だ」
ズメウの視線が支配人を見据える。

表情は影になり見えない。だが、その眼差しが語るのは——確かな死の予告だった。

支配人の顔から血の気が失せ、震える足がもはや体を支えられず、その場に崩れ落ちる。
ズメウがさらに一歩近づくと、そのまま後ろへ頭を仰け反らせて——支配人は、気絶した。


ーー


「いやぁー! 一件落着ですネ!」
タカチホが満面の笑顔で手を打った。
カジノから出た二人は談笑をしながら歩く。
「潜んだ悪夢も処理できましたし、ズメウサンがあんなに手加減がお上手になっていた事にも感激致しましたヨ!」

「……いつの間にか鰐族のボディーガードにされていた事には驚いたがな」
ズメウは微笑を浮かべて、肩をすくめた。

「んふふ。今はワタクシ、か弱い乙女故♪」

「肩から掛けていたものに色々仕込んでいた奴が、何を言う」

「あら、バレてました?」

二人は軽口を交わしながら、夜風が吹く通りへと出た。

そして——

「おかえり!!二人とも…怪我とかしてない!?無事そうで良かったよ……!」
宿に戻ったタカチホとズメウを、メリィたちがほっとした顔で迎える。

「こっちも帰りにね……」と、話すメリィ達に安堵の笑みを浮かべるタカチホとズメウがいた。

ーーー


メリィは部屋に戻った後「う~」と言い、ぴょんぴょんと跳ねていた。

「どうしたんだ?メリィ」

怪訝そうな声で聞くネロ。
するとメリィはネロを見て、少し悩んでからぽそぽそと言う。
「ドレス……後ろからじゃなきゃ脱げなくて…」
うまく手が届かず跳ねていたようだ。

「貸してみろ」

ネロはメリィの後ろに行くと髪の毛を前に避け、背中のボタンを外していく。
ある程度外した所で目線を上げると、余程恥ずかしかったのか、メリィの耳や首は赤く染まっていた。
ネロはその様子を見て、自分のタイを外す。

「……やっぱり、今日はすぐに寝かせてやれなさそうだ」

二人の夜はもう少し長く更けていった。
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