夢守りのメリィ

どら。

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137.介入

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「大丈夫」

そう言ったメリィの声に、ネロの胸に冷たい不安が湧いた。

「……メリィ?」

呼びかけながら、ネロは思わず振り返った彼女の顔を見つめた。

けれどそこにあったのは、見慣れた桃色の瞳ではなかった。
それは——朝焼けのような、あるいは夜明けの空に最後まで残る星のような、不思議な光を湛えた瞳。人のものとは思えないほど、神聖で、手の届かない遠い光。

「白の魔王と、黒の魔王の力はわたしが継承したから。もう大丈夫」

メリィが静かにそう言うと、タカチホの目が大きく見開かれた。

「まさか……メリィサン、アナタ……」

震えた声が喉から漏れる。だが、その言葉は最後まで続かなかった。

「少し、痛いかも知れない……ごめんね」

申し訳なさそうに微笑んだ彼女の雰囲気が、突如として変わる。

——世界の夢の結晶の破壊……執行——

メリィの声とは思えない重い声。
脳内に響くようなその言葉と同時に、地面に膝をつく音が次々と響いた。
ネロ、タカチホ、シュヴァル、ズメウ……そこにいた全員が、何かに強制的に意識を引きずられるように崩れ落ちていく。

「……っぐ……!」

全身が引き裂かれるような苦悶。魂が軋む音が、鼓膜の奥で鳴っていた。

——夢の再構築…魂……心への紐付け……——

その声が響いた瞬間、激痛が嘘のように消える。
荒い呼吸だけが残り、全員が混乱と疲労に包まれる中、ネロはぼんやりと立ち尽くすメリィを見上げた。

「……メリィ……おまえ…約束、破ったな……!」

かすれた声が、静けさを破る。
ネロの目には怒りと哀しみが同居していた。

「ごめん」

そう言ったメリィの声は、どこまでも優しかった。けれど、どこか遠くを見ているようでもあった。

「ずっと考えてたの。根本として夢が取り出せる事がおかしいって。
それが怪物を生み出すきっかけにもなるから…
あと、後出しで言ってごめんなさいなんだけど、私が白の魔王の力を継承した事で、ネロやタカチホ…シュヴァルも特別な力を失っている。力を返してもらったから」

申し訳なさそうに笑う彼女の周囲には淡い光が漂っていた。
夢とも幻ともつかない輝き。けれど、どこか現実感を欠いた、不思議な光。

「そんな……力を失ったら僕はどう生きていけばいいんだよ…!返せよ……僕の力!!」

叫んだのは、シュヴァルだった。
その叫びには、悲しみと怒りと、どうしようもない絶望が滲んでいた。
メリィに駆け寄ろうとしたが、見えない壁に遮られるようにして前に進めなかった。

——その時。

『この時が来るのを待っていた…』

低く、静かに——けれど確かに響いた声。

白いフードを目深に被った者が、音もなく現れる。顔は影に隠れ、表情は読み取れない。

『我らは我らに変わる管理者を望んでいたのだ』

続けて現れる白フードたち。姿はどれも同じ、まるで鏡写しのよう。
その数、十一。圧倒的な存在感に空気が歪む。

「…創世の神々……ですか」

タカチホがかすれた声で呟くと、「如何にも」と返答が返る。

『我らは魔王達に世界の管理を任せたかった。だからこそ、より良き者をと選別をしたのだ』

『だが、管理者たる器に届きし者が、我らが作り出した魔王では無かった事には驚かされた』

「管理者……?」

メリィが小さく首を傾げる。

『世界の管理者。より良い世界を創れる者だ』

『我らは長い時を過ごし過ぎたが故、偏った思想しか持たぬ』

『だからこそ新たな管理者が必要だった』

『おまえが世界の意思となるのだ』

最後の一言が落ちたとき、メリィの体から強烈な光があふれ出す。

「メリィ……!」
「……ネロ…」
メリィに駆け寄るネロ。
ぽつりとメリィがネロ名を呼び、手を伸ばした。
だが、メリィの姿は眩い光に包まれ、空気ごと消えてしまった。

ー彼女の存在が、世界と一つになったー

『彼女は世界の意思と成ったのだ』

神の一人が淡々と言い放ったその言葉に、ネロの瞳が怒りで燃える。

「ふざけんな…!メリィはなりたいって言ったのかよ……!!あんたらの勝手な都合でメリィを奪うな!!!!」

怒声と共に、ネロが刀を振り抜いた。
けれど神の姿は、まるで煙のように揺らぎ、その斬撃を簡単に避ける。

ズメウもその巨躯を生かしてハルバードを振るうが、やはり同じ。武器が触れても、まるで霧を割るように通り抜けるだけだった。

「姉さまを…返してください!!」

メルルの叫びが空気を震わせる。
その言葉に、一人の神が応える。

『魂は分割した。だが、肉体はもう必要が無い。返してやろう』

そう言うと、光の中からふたたびメリィの姿が現れる。

意識はなく、瞼は閉じられたまま。
倒れそうになる彼女の体を、ネロが慌てて抱きとめる。

「……ッオレは……おまえらを絶対許さない……!!!」

ギリと奥歯を噛み締め怒りと悔しさに震えながら、ネロは神たちを睨みつける。

「絶対に……メリィを取り返す…!」

その言葉に、神々の一人が静かに告げる。

『やってみるが良い。我らは逃げも隠れもしない。彼女の魂は、我らが持っている』

そう言い残すと、神々は一斉に霧のように姿を消す。

だが——

そのうちの一人だけが、ネロたちの前に残っていた。
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