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始まりの章
5話 脳内祭り
しおりを挟む騎士仮面物語の蘇生アイテムは『女神のフン』と言う酷い命名になっていた。
これは元からそう言う名前で登録してあった訳では無い。曰くが付いた為に途中で変更されてしまったのだ。
元の名前は『リバースドール』と命名されたチュートリアルやストーリー展開にサポートしてくれる『エリー』と言う女性NPCをモチーフにした銅像である。
この『エリー』と言うキャラが問題で、何度か説明したが騎士仮面物語は不親切なゲームの代名詞と言っても良いほどの迷作品。
プレイヤー達の中には本気でチュートリアルの不備に憤慨した者も居ただろう。少なくとも多くのプレイヤーにとっては不満の象徴的なキャラとして君臨していた。しかしそれだけではゲーム名の登録が変えられるようなことも無い。ゲームリリースから3年後、3周年記念のイベントで一人のアイドルが騎士仮面物語の専属のアシスタントとして契約された事を発表された。
それは正にNPCキャラの『エリー』がそのまま出てきた様な愛らしさ溢れる美人であった。
Ericaと言う芸名のアイドルは瞬く間にプレイヤー達を虜にして人気はウナギ登りになり、ゲラゲラ生動画が配信されればプレミアムチケットは即完売、騎士仮面物語のグッズにも登場しこれも大人気となり、Ericaの人気は不動のものになったと誰もが思っていた。
しかしその人気には少しずつ陰りが見え始める。初めは徐々に塩対応寄りになる事に現れるアンチの台頭から複数回上がる恋愛報道、所属事務所内でのいじめ斡旋動画等も出回り始め、運営会社の社長の愛人説。最後のトドメにドラッグを使用した疑いもある乱行現場の写真流出。
結局最後には文章のみの報道で専属アシスタントの契約解除と芸能活動の自粛が伝えられ、ファンを兼任していたプレイヤー達の怒りは一気に爆発した。
ネット情報を駆使しての誹謗中傷を始め、名前変更券(480円)を使っての本名の晒しや誹謗中傷と煽りの雨霰。
「ただの淫売じゃねぇか」「美人だからこそ出来る所業(笑)」「クソみてぇな女だな」「でも可愛かったんだよねぇw」「性根が腐ってやがる」「俺も乱行混ざりたったンゴorz」「クソ女だクソ女!」「Erica様は僕の女神でぷ(哀)」「乱行写真見てみろよ!最悪だぞ」「でも可愛いんだよねぇw」
——————っ!!
—————っ!!
————っ!!
……
と長く議論されつつ最終的についた通称が「女神のフン」と言うことになった。
だがこれでゲーム内の登録名が変わるはずもなく、ネットの掲示板等で代名される程度で
終わっていたのだが運営会社が下がったイメージを払拭する為にとんでもない企画を催してきた。
ギルド対抗イベントを開催し、一位になったギルドから今後のアプデ内容に関してのアイディアを検討すると言うなんとも痛々しいイベントを立ち上げたのだ。
真面目にプレイしてる人間からしたらより良い環境作りになる為に色々と今後の企画を立案しただろう。しかし当時の1番人気で活気があったギルドは勿論当時熱狂的な活動を行なっていたEricaのファンクラブギルドであったのは想像に難くない。
当然の如く2位に大差を付けての圧倒的な勝利でファンクラブギルドが優勝を果たした。そしてその立案内容こそが、「リバースドールを『女神のフン』に変名して欲しい!」という。とんでもないイベントの返しがかなりぶっ飛んだ返事になってしまった事件である。
そしてそのギルドの行為はすぐ様、ネットで絶賛の評価を受ける事になる。
ファンクラブギルドの事だからEricaの復帰とかふざけた事を抜かすのか?とファン故にその行動を曲解されがちであるがファンであるからこそ恨みも強かったと言う事らしい。その嘆願はすぐには実行されることは無かったが、ファンクラブギルドの行為は伝統化され、ゲラゲラ生動画やアンケートを行う度にこの嘆願がなされ、そして必ず殺到していた。
1年に及ぶ嘆願活動は遂に実を結ぶ。年始のアップデートで変名が公表されたのだ。
騎士仮面物語は念願の達成に連日のお祭り騒ぎで前代未聞の変名事件に噂を聞きつけた新規プレイヤーも多く参加し、奇しくも運営会社は狙いから外れたV字回復を果たす事になった。
そしてその騎士仮面物語で唯一の蘇生アイテム、『女神のフン』は俺の無限収納で見かける事は出来なかったのだ。
つまり蘇生が出来ない、魔法でも蘇生魔法天昇回帰の法はあるが今の俺には恐らく使う事は出来ないと思われる。
復活の可能性が潰え、万が一の事態で対処出来ないとなると頭が痛くなる思いだ。
後日談として後に語ろうと豪語はしたがなぜ今に説明をしたか、それは——。
テンパっているからだ!
俺の使わせて頂いている客間にその家主のご令嬢が訪ねて来られた。二人っきりだ。
苦節34年、遂に俺は素人DTとお別れをするときがきたのかもしれない。
お店には何度もお世話になった、だがしかし、いやしかし!
ビジネスパートナー以外で女性とそう言う関係になった事がない俺にはこの状況はかなりキツイ。上手く出来るかとか流れとか余計な考えがどんどん渦巻いていくのが分かる。
いや、落ち着け。まだオフィーリアが部屋に入って席にも着いてないのだ。取り敢えずソファーに誘導して隣……いや対面に座れば状況は進んで行くだろう。
「こちらへ」
「遅い時間に申し訳ありません、お邪魔いたします」
ぎこちない動きでエスコートするがどうにもしっくりこない、気持ち悪い感じがする。
「だいぶ落ち着かれましたか?自分の家に居るだけで人心地つけますからね」
「はい、お陰様でこの通りです。助けてくださって本当にありがとうございます」
深々と礼を述べるオフィーリアをじっと凝視してしまった、イエローブロンドの長い髪を綺麗に纏めてあって、小さな小顔に円らな瞳、整った目鼻立ち、美人で愛らしさも兼ね備えた感じの小動物系の顔だ。
「あ、いえ、偶然通りかかっただけでしたので……お気になさらず」
「それでも助かった事に変わりはありませんわ」
弱々しい笑顔で返すオフィーリアはどこか陰を感じる雰囲気だ、あんな事があったのだから当然だろう。
が、どうにも遣る瀬無くなる気分になるのはこれはもう気質なんだろう。
——たら、——れば、と結果を蒸し返しては最善かもしれない策を後になって出して、そしてそれを延々と繰り返す。
事前の解決策になんて成りはしないのに。
ピンク一色の脳内祭りもいつのまにか退散していて一気に陰鬱な空気が流れ始める。居た堪れず立ち上がって窓辺に逃げるがオフィーリアの視線があるのを背中から感じ取れていた。
「ゆっくりと寝ればまた気分も変わります今日はお休みください」
遠くで薄まり始めた街の灯りを観ながら期待外れの話の流れに持って行ってしまい残念半分、罪悪感半分と言う感じの胸中に自分勝手な展開を嫌悪していた。
そんな自己反省の最中、突然背中に衝撃が走る。
オフィーリアが背中にぶつかって来たのだ。
背後から抱きしめるでも寄り添うでも無い、まごう事無き突進であり、俺は堪らずたたらを踏む程であった。
背中に張り付くオフィーリアから熱を感じる、久々に感じる人肌の温もり。
——いや、熱い!ジワジワと蝕まれるような、刺される様な熱が背中かオフィーリアから感じられた。
濡れた様な滑りを感じて思わず手で触って確認をしてみる。
血だ!
思いもしない血の存在にパニックになるが熱に慣れると次は痛みが遅れて襲いかかって来た。
間違いなく俺が刺されたのだろう。何故だ?
オフィーリアが全身を使って押し込んでいる獲物を手ごと掴んでゆっくりと引き抜く。
体から異物が抜き取られる感覚がゆっくりと、しかし確実に感じ取れていた。
「——うぅ、くっ!」
痛みで体が重く感じる、それでも命の危険を放って置く事は出来ない、力を振りしぼってオフィーリアを払いのけると彼女の手には血に塗れたナイフが握られていた。
オフィーリアが再び、両手でナイフを握り直すと興奮してるのか荒い呼吸でこちらを睨み続けていた。
俺はその目から目を離せず混乱していた。
オフィーリアのその円らな瞳は憎しみに染まったまま俺を睨んでいたからだ。
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