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第1章
10話 クニとチリ
しおりを挟む照れ臭い朝の目覚めを終えて、着替えと朝食を済ませて食後のデザートの時間になっていた。
「ん~~っ!美味しいっ!こんな美味しいものがあるなんて知りませんでした」
フロウローズが口にしているのは三段パフェ、チョコケーキ、プリン、バニラアイスの3段重ねの胃に重そうな罪のデザート。
着替えから朝食まで出す物全てに感動を露わにしてくれてるのでしているこっちも流石に嬉しくなる。
着替えに渡したのは上級装備の旅人の服・改。それと遺物級の聖者のローブ。
旅人の服・改はちょっと面白い手に入れ方で、下級の旅人の服を最大強化した後に錬金して作り出すことができる言わばオシャレ装備。シャツにベスト、パンツルックの構成になっていて、錬金すると細かい刺繍が施されてそれがくどく無く程よいアクセントになっている。
聖者のローブはフードの付いた真っ白な生地に赤い文様を施され、丈は膝下まである。
そんな装備を着込んで食べたのはBRT(ベーコン、レタス、タマゴの略)サンドイッチとコーヒー。
フロウローズはデザートに舌鼓を打っていたが俺はコーヒー片手にアイテム欄を一つづつ吟味していた。
前にも話した通り、騎士仮面物語仕様のアイテム欄は不親切な残念仕様。自動整理機能などは付いておらず、整頓のコマンドを選択しない限りは使った物は1番上に、そして初めて手に入れた物は1番最後に回される。
この世界に来るまでに持っていたアイテムはそのままの形で、その後ろからデフォルトの並びで順々に詰め込まれた様な形で新たなアイテムが並んでいた。
自分の持っていたアイテムの閲覧が終わり、今まで流し見ていた、この世界に来てから手に入れたアイテムをしっかりと確認していたがやはり今日も蘇生アイテムは見つからず、残りはまた後日とすることにしていた。
「あの、ヴィクトール様、何をなさっているのでしょう?」
「ん?アイテムをちょっと調べてたんだ」
今回俺はフロウローズに対してちゃんと名乗ることができた。あんな事しといて名前すら名乗ってなかった事に少しだけ悪いことしたなとも思ったが、そのお陰か二回噛んだだけで済んだのは良かったのかもしれない。
「もしかして無限収納の魔法をお持ちなので?」
「そうだよ、フロウローズの周りじゃやっぱり普通の事なのかな?」
「と、とんでもありません!滅多にない魔法で習得できる方も滅多にいないと聞いております」
「そっか、なら無限収納が使えるってのはあんまり言いふらさない方が良い?」
「どうでしょうか……重宝する魔法なので使える方がいれば確実に覚えて貰えるかと」
「なるほど、それだけ目立つ魔法って事なんだね」
「そうですね、ただの収納でしたら高額ですがアイテムポーチもありますが、何も無い所にしまい込むとなるとやはり使い勝手が違うので重宝されるのだと思います」
アイテムポーチと言うのは収納する為のアイテムって訳か、確かに幾らでも入る袋を持っているのと、完全な手ぶらで動くのとは勝手が違うのはよく判ることだ。
しかし無限収納は魔法扱いなのか、俺にとってはステータス欄から使っているだけなので魔法ともスキルとも思えずただのシステムとして受け入れてしまっていた。
「そういえば、フロウローズはステータスの確認は出来るんだよね?」
「すてー、たすですか?」
キョトンとした顔で言葉を繰り返しているところを見ると知らないのだろう。
俺はアイテム欄を開いてまたフロウローズに問いかけた。
「フロウローズはココのアイテム欄は見えるのかい?」
俺の指差した先をジトッと睨むように目を細めて見ているがそれだけで見えてないことが判る。
「申し訳ありません、ヴィクトール様の指先には何も無いかと……」
「そっか、別に謝ることないから。試すようなことしてごめん」
「いえっ、そんな、私で良ければ如何様にも……それでヴィクトール様、この後はどうされるので?」
「うん、そろそろ移動しようか、フロウローズも家に帰りたいだろうし。約束もあるからね。良ければ身の上話を聞きながらさ」
「……家……ですか……そうですね」
フロウローズの表情が一気に曇るのを見た俺はかなり慌てた。
「ご、ごめん、まずいかな?とにかくこんな所にいるよりか家に向かうのが良いかなって勝手に思っちゃっただけなんだけど」
「お気になさらないでください、そうですねまずは家に向かわなければ何も始まりませんものね」
何やら含むような言いように若干戸惑ったが俺達は出会った街道まで引き返し今の位置を確認することにした。
「ここら辺で馬車が止まってたかな?俺が来たのはあっちの方角でダイカン王国のリダ領ってのがあったよ」
「ダイカン王国……と言うことはここはユハト公国かもしれません」
「そうなのかい?馬車は向こうから来て同じ方角に帰っていったから同じ方角に歩いていけば良いかな?」
「そうですね、私の家はユハト公国とドレガレア帝国の境にありますので方角的には間違いは無いかと……」
「そっか、なら行こうか。歩いていってどれくらい掛かるんだろう?」
「はい、人の足なら5日ほどで着くはずです」
「そうなんだ……フロウローズはドレガレア帝国?の貴族なのかい?」
「いえ。私はアウレリア王国、ゴットバルド家の者です」
「あ、そうですか……ご丁寧に……」
貴族とは知っていたし振る舞いも優雅に感じてたから元々予想はしてたがいざ、名乗られるとどう返して良いかわからなくなる。
だって貴族社会なんて知らないし、前の世界でも中流家庭で至極平凡に暮らしていたからね。
それにしてもドレガレア帝国にユハト公国、アウレリア王国か、ダイカン王国も含めて騎士仮面物語の中で聞いたこともない国の名前からしてゲームの世界に飛び込んだわけではないのだろう。
もしかしたらβテストのゲーム世界かも知れないが騎士仮面物語の事しか考えてなかった俺には知る由もないな。
「あの……なにかお気に障りが……」
「いやいや、何も無いよ。さっ、行こうか」
「は、はい、……うっ!」
「フロウローズどうしたっ?」
「申し訳ありません、まだちょっと……その痛みが……」
そう言われてすぐに分かった、彼女は生娘になるまで治療され、それを昨日の内に散らされたばかり。新たな傷が出来ているのと変わりがないのだ。
ポーションや現行回帰の法を使えば痛みはなくなるだろうがもしかしたら完全なる命の霊薬と同様に処女膜まで元に戻るかもしれない、そう思った俺は彼女の後ろに回りスッと抱き上げた。
「きゃっ!」
「こうして抱えていけば良いさ。痛くはないだろう?」
「ダ、ダメです……その、ずっと洗ってないので……臭いとか……」
「ははは、大丈夫。フロウローズは分からないのかも知れないけれどね、すっごく甘い花の香りがするんだよ?」
「本当ですか?私にそんな匂いが?」
「うん、本当。だからそんな事気にしなくて良いんだから」
そう言って笑顔で抱えたフロウローズをギュっと強く抱きしめると安心したように寄り添いながら力を抜いていった。
「こんな優しい夢が見れるなんて……もう永遠に覚めないで欲しい」
「夢じゃないさ、フロウローズが望めばずっとこうしていられる」
「……望みます。ずっとこうしていて欲しい」
「うん」
真っ直ぐに、柔らかく、そして縋るような眼差しで俺を見つめるフロウローズは、俺の頬に手を添えて見つめ合うように誘導するとそっと目を閉じて止まっていた。
これは何かを待っている。
そんなものは素人DTだった俺にだって判る。キスだ!
こんなシチュエーションに出会えるとは。青空の下でお姫様抱っこにキスを求められる……気分はまさにドラ◯エの主人公。
鼻息が荒くなるのが自分でもわかる。だから気づかれない様に息を止めてゆっくりと顔を近づけていく。
フユっと柔らかな感触の後に鼻先をくすぐるフロウローズの肌の感触がこそばゆくも堪らないほど気持ちがいい。
ほんの数秒、唇を合わせそして少しだけ離す。
お互いの息遣いを肌で感じられる距離で見つめ直す、透き通る様な淡い青色の瞳が潤みを増して今にも溢れ出そうなのを見てもう一度キスをする。
フロウローズは離さないと意思表示をする様に首に腕を回して強く抱きしめ返してくれた。二人が満足するまでずっとキスをしていたかったが息の限界を感じた俺は名残惜しく一度強く押し付けてから唇を離した。
じっくりと見るフロウローズの目には涙の跡が残っていて求める様にじっと見つめてくる彼女にとてつもない照れを感じてしまった。
照れくささに負けて顔を背けるがフロウローズを抱く腕の力はさらに強めると安心した様に寄り掛かり頭を肩に預けてきてくれた。
暫し無言の時が過ぎるがそれはとても幸せな時間だった。
遠慮しあったり、探り合ったりなどの気まづさの時間ではなく、お互いが求め合って安心している、そんな時間。
「そろそろ、フロウローズの事を聞かせてくれないか?どうしてあんな事に?」
そう発した俺の言葉に腕の中でフロウローズの身体に力が入るのを感じ、添えていた手が俺の服を強く掴む。
「……私を地獄に墜としたのは……夫です」
ガラガラと俺の中で色々と崩れ落ちていくのを感じながらフロウローズの言葉の意味を一生懸命に理解しようとしていた。
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