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第一章
第30話 【ルクリア商会の動き・2】
しおりを挟むエルドさんの登場により、席に座っていなかった俺や他の人達も席に座ると、エリスさんが司会を任され会議が始まった。
会議を黙って聞いていた俺は、その内容に驚いた。
冒険者ギルドを頼らず、素材の取引等を〝全ての商業ギルド〟で新たなシステムとして導入するという話だった。
商業ギルドでは今後、冒険者ギルドの様に素材を持ち込めば相応の報酬で買取を行うという内容。
「冒険者ギルドの仕事の一部を奪い取るって事だよな……」
王都の冒険者ギルドに対しての対応としては、各地の冒険者ギルドから抗議をされそうな内容で俺は心配になった。
「一つ、質問してもよろしいか? その商業ギルドの素材の買取は、冒険者ギルドから抗議をされそうな内容だがその辺は考えられておるのか?」
俺の心配と全く同じ心配をしていたのか、会議に参加しているおじさんがエリスさんに質問をした。
「大丈夫です。既に商業ギルドと冒険者ギルドで話し合いを済ませており、素材の買い取り額に関しては統一するように設定しております。冒険者ギルドとしても、素材の持ち込みで仕事に支障が出る所もあるようなので仕事の一部を任せられるなら嬉しいと仰られていました」
「既に話し合い済みでしたか、いらぬ心配をしたようだ」
「いえ、大丈夫です。他にご質問のある方はいますか?」
エリスさんとそう言うと、他にも質問する者が現れ話し合いは続いた。
価格統一はずっと続くのか?
変動する場合、その度に両ギルドで話し合うのか?
そんな話から、他にも難しい話なども会議では討論が行われた。
会議室にはルクリア商会と商業ギルドの重役、更には王都の主要な商会の幹部や長達が集まっており。
そんな凄い人達の会議を近くで聞いていた俺は、話の内容の難しさと凄い人物の多さに脳の処理が追いつけなかった。
そんな俺とは違って、この場に集まってる人達は疲れた様子は無く、今後の新しい取り組みに対し各々楽しそうにしていた。
「アルフ。初めての会議に参加した感想はどうだった?」
陽が完全に沈み、時間的にこれ以上は厳しいとなって会議の続きは明日に持ち越す事になった。
そうして会議を無事終えた俺は、疲れ果てて直ぐに立つことは出来なかった。
「……俺には厳しい空間でした。商人って、イメージでは物の売買だけかと思ってましたが、あんな難しい事も話し合ってたんですね」
「今回は色々と特別だったから、明日にも続くような会議になったが。普通のルクリア商会だけの会議でも一日費やす事あるから、早い内にあの空間を経験できたのは良い事だと思うぞ。アルフもあの空間にいつかは慣れないといけないからな」
「はい……出来るだけ早く慣れる様に頑張ります」
師匠にそう言われた俺は、本当に慣れるか心配に思いつつそう言葉を返した。
それから俺は商会の建物から寮の方に帰ろうとしていると、一人の女の子が俺と目が合った。
「ッ!」
女の子は俺の顔を見るとビクッと反応して、隣の男性の後ろに隠れてしまった。
そして俺はその男性の方を見ると、その方が前にエルドさんから次期商会長でエルドさんの息子だと紹介されたエリックさんだと気づいた。
エリックさんは女の子の反応を見て、俺と師匠の方へと視線をやり、俺と師匠の存在に気付いたようだった。
「やあ、アルフ君。久しぶりだね。元気にしてた?」
「はい、お久しぶりです。エリックさん」
エリック・ルクリア。
茶色の髪を短髪に揃え、青い瞳をした男性。
今はエルドさんの補佐役を務めていて、次期会長として色んな業務に携わってる優秀な人。
エルドさん曰く、偶に天然だから心配に思う事はあるらしいが、そこを補う程の能力があると言っていた。
また美人な奥さんと娘が居るという事は知っていて、今後会わせるよと紹介された時に言われた。
「ほらっ、アリス。隠れてないでアルフ君に挨拶をしないと、アリスが会いたいって言ったから今日は来たんだろ?」
「う、うん……は、初めましてアリス・ルクリアです。お爺ちゃんを助けてくれてありがとう」
アリスと名乗った女の子は、緊張した様子で俺に対してエルドさんを助けたお礼を言ってきた。
成程、この子は前にエリックさんが言ってた娘なんだろう。
腰辺りまで伸びてる長髪の髪は青く透き通った色をしていて、瞳の色も髪色と一緒の青い瞳をしていた。
なんとなくだが、エリックさんの優しい雰囲気を女の子からも感じる。
「初めまして、アルフレッドです」
女の子が挨拶をしたので俺も挨拶を返すと、顔を赤くしてエリックさんの後ろに隠れてしまった。
前に娘の話を聞いた時に、凄く人見知りな子だとは聞いていたけど、本当にかなりの人見知りのようだ。
「そうだ。アレン君にちょっと話したい事があったんだけど、今から少しいいかな? アルフ君、アリスの事を少しの間だけ頼めるかい?」
「はい。いいですけど」
エリックさんの言葉にそう返すと、師匠と一緒にこの場から去っていった。
そして残された俺は、オドオドしてるアリスに「その、今から夕食だけどご飯食べた?」と聞くと首を横に振り。
「まだ食べてないです……」
と、小さな声で言ったので俺はアリスに「一緒に夕食を食べに行かない?」と食堂に誘った。
人見知りだし、断るかなと思ったがアリスも会議が終わるのを待っていてお腹が空いていたのか。
俺の誘いに頷き、俺とアリスは一緒に食堂に向かった。
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