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第一章
第63話 【注目の的・3】
しおりを挟むそうして訓練を終え、夕食と風呂を済ませた俺は自室のベッドに横になり、明日の事を考えていた。
「明日から迷宮か~、楽しみだな!」
俺はようやく迷宮に行けるとなり、楽しさから全く眠気が来ない。
「早く寝た方が良いって事は分かってるんだけど、全く眠くならないんだよな……」
目を瞑って何とか寝ようとしているが、自分でも分かる程に迷宮が楽しみで少し興奮状態となっている。
だけど、寝ないと師匠に迷惑を掛けてしまうのも分かってるから、俺は眠気が来ないままベッドに横になり目を瞑り続けた。
「何とか眠れた……」
あの後、一時間程眠気が来ないまま目を瞑っていた俺は、なんとか寝る事が出来て朝を迎えた。
寝て起きた事に対して、こんなに安心したのは初めてだ。
「アルフ君。嬉しそうだけど、何かあったのかしら?」
食堂に行くと俺の顔を見て、おばちゃんからそんな事を言われた。
「実は、今日から二日間師匠と迷宮に行ってくるんです」
「あら、そうなのね。迷宮は冒険者にとって夢のような所だものね。怪我しないように頑張ってね」
「はい!」
そうおばちゃんから言われた後、体力を付けて行った方が良いと思った俺は、いつもは一回しかしてないが二回おかわりをした。
食後、自室に戻ってきた俺は久しぶりに装備を着けて商会の方へと向かった。
「準備万端みたいだな」
商会の一階で待機していると、師匠がやって来てそう俺に言った。
それから俺と師匠は、行く前にエルドさんの所に寄らないといけない為、一緒にエルドさんの仕事部屋に向かった。
「ふむ、久しぶりにアルフのその姿を見るが以前よりも筋肉が付いて来て、様になってるな」
「はい。特にこの師匠が居ない期間は、身体を鍛えようと色々とやってましたので」
「聞いておる。エリスから短期間であれだけ身体の作りが変わるのは、アルフだけだと言っていたな」
エルドさんはそう言うと、二日間の日程について師匠に聞いた。
「それでアレン。迷宮は何処に行くか既に決めておるのか?」
「はい。王都近くだと、変な輩に会う可能性もあるので王都から約五時間程移動した所にある【初心の迷宮】に行こうと思います」
【初心の迷宮】の情報は、主に低級の魔物が出現する迷宮で初心者が挑戦するには丁度いい迷宮となっている。
既に攻略済みの迷宮で全部で10階層、5層を超えた所に安全地帯があり、そこで寝泊りする事も出来る。
昨日、迷宮の名前を聞き調べた際に出て来たのはこれくらいだ。
「あの迷宮は攻略済みではありますが、殆ど人が寄り付かないのでアルフのレベル上げには最適だと思います」
「確かに迷宮自体に価値ほぼないが、今回の目的はアルフのレベル上げだからな」
師匠の言葉に対し、エルドさんは納得した様子でそう言った。
その後、俺と師匠はエルドさんの仕事部屋を出て、師匠が用意していた馬車に乗り込んだ。
「ここから迷宮までそのまま行くから、忘れ物とかは無いか?」
「はい。大丈夫です」
「よし、それじゃ行くか」
そう師匠は言うと、馬を動かして商会を出発した。
王都から迷宮まで約五時間程ある為、俺はその時間を有効に使おうといつも見たいに馬車の荷台の中で魔法の訓練をする事にした。
最近、俺がやってる訓練方法は右手で【水属性魔法】の訓練をして、左手で【風属性魔法】の訓練を行っている。
これをする事で、二つの属性魔法は勿論の事【並列思考】のスキルレベルも同時に上げられる。
「そんな芸当出来るのは、アルフくらいだろうな……両手で違う魔法を使うなんて、かなり難しい技なんだぞ」
この訓練方法を見た師匠は、呆れた様子でそう言っていた。
しかし、既にこのやり方に慣れてきている俺は、特に違和感も感じず三つのスキルレベルを同時に上げている。
「アルフ、一つだけ言っておくとあまり訓練に夢中になるなよ? 迷宮に到着したら、休憩は少し取るつもりだが迷宮にそのまま入るんだからな」
「はい。分かってます。ちゃんと無理のない範囲で頑張ります」
「本当は何もするなって言いたい所だけど、アルフには難しいだろうからな……」
訓練を頑張ると言った俺に対して、師匠は呆れた様子でそう言った。
それから一時間程、移動していると急に上空に強い魔力を感じ取った。
それは師匠も同じで、馬車を停めて臨戦態勢を取った。
「いや、この魔力は敵じゃないな」
しかし、臨戦態勢をとっていた師匠はそう言い空を見上げた。
俺も師匠と同じように空を見上げると、そこには見覚えのある黒いワイバーンが飛んでいた。
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