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7巻

7-2

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「カイ君達にもちゃんと新しいスキルを教えるよ」

 俺の言葉を聞いて、二人は笑みを浮かべた。
 やがて、オークの棲息せいそく地に到着する。
 五人でオークを探し始めると、三体の群れを発見した。さっそく四人に戦ってもらう。

「ローグ、正面の一体を足止め。メイナとルネは両脇の二体の注意を引いて」

 カイ君がそう指示を出すと、三人がすぐに動きだす。連携力で言えば、そこらのCランク冒険者とは比べものにもならないほど鍛えられている。
 それに模擬戦のときにも感じていたが、個々の能力もレムリード王国にいた頃より大分強くなっている。
 特に後衛組のメイナちゃん達は『無詠唱』で魔法をすぐに撃てるため、味方へのサポートが速い。

「カイ! まだか!?」

 正面の個体を一人で引き受けていたローグ君が叫ぶ。
 カイ君はその言葉に「今!」と合図した。
 ローグ君がオークの持っていた武器をはじき、後ろに下がった。
 カイ君はローグ君と入れ替わるようにオークへと突っ込み、上から剣を振り下ろす。
 オークが真っ二つに斬り裂かれ、他の二体が動揺しだした。
 そのすきを見逃さず、カイ君達は四人で連携して残りのオークも仕留めたのだった。
 ただ倒すだけならメイナちゃん達の魔法だけでもなんとかなったと思う。だが、カイ君達は俺に連携力を見せるために今のような戦い方をしたのだろう。
 実戦の姿を見ていると、本当に見違えるほどみんな強くなっているというのがより一層分かった。特にカイ君は元からリーダーとしての素質があったが、レムリード王国で俺が教えたことをちゃんと吸収してすごく成長している。
 オークを解体して素材を集めたカイ君達は、残った部分を燃やして俺の近くへ寄ってきた。

「ラルクさん、どうでしたか? 僕達の戦いは」
「すごく良かったよ。みんな強くなっていて驚いた」
「ラルクさんに見てもらおうと思って、みんなで頑張ったんです。みんな、ラルクさん驚いたってさ!」

 カイ君が呼びかけると、ローグ君達は子供のようにはしゃいで嬉しそうに笑みを浮かべた。
 その後、魔物が出ないところまで戻ってきた俺達はちょっと早い昼食をとることにした。
 昼食は家で俺が作ってきた弁当だ。カイ君達は美味しそうに食べてくれた。
 食事中、俺はカイ君達にこれまでどんな修業をしていたのかを聞いてみる。

「そうですね。とりあえず、ラルクさんに教わったことを毎日復習して、鍛錬も欠かさずやってました。強くなるのに近道はない、頑張って鍛錬することで少しずつ強くなれるっていうラルクさんの言葉を信じて、どんなに疲れてても最低二時間は鍛錬の時間を作ってました」

 カイ君のあとに、ローグ君が続けて話す。

「最初の頃はつらかったです。ラルクさんがいたから自分達も頑張れたんですけど、ラルクさんがレコンメティスに帰ったあとは教えてもらったことの反復練習だけだったので……やめたいって気持ちもありましたけど、カイから『ラルクさんに会ったときに失望されてもいいの』って言われて、また頑張ろうって思えるようになりました」

 メイナちゃんとルネちゃんも頷いてそれぞれ発言した。

「カイ君以外は一度、心が折れました。本当に頼もしいリーダーです」
「カイ、ラルクさんと会って本当にリーダーとしてすごく成長したよね」

 カイ君はその言葉に頬を赤くして「ら、ラルクさんの前で恥ずかしいだろ」と言った。

「ふふっ、カイ君は本当に俺のこと好きなんだね」

 冗談めかしてそう言ってみたら、カイ君はさらに真っ赤になった。

「ッ! そ、その……僕、あんなに熱心に教えてもらったことがなかったので嬉しかったんです」

 カイ君のあせったような姿を見て、俺達は思わず噴き出してしまったのだった。


 それからしばらく休んだあと、今度は俺の戦いをカイ君達に見せることにした。

「ラルクさんの戦う姿、見せてくれるんですか!?」
「別にそんな驚くようなものじゃないけどね」

 目を輝かせるカイ君達に俺はそう言い、剣を取り出して魔物の気配がするほうへ向かう。
 そうして見つけたのは、カイ君達が戦ったのと同じ三体のオークだった。
 まず初めに俺は両脇のオークに『火属性魔法』を放つ。すると、二体のオークはたちまち丸焦まるこげになってしまった。
 一瞬で仲間を殺されて驚き戸惑っているオークに接近し、剣で両腕を斬り落とす。最後に首をサッとねた。これでおしまい。
 うん、最近街の依頼ばかりで体を動かしてなかったからなまっていないか心配だったけれど、そんなことはなかったな。

「ラルクさん、すごくカッコ良かったです!」

 オークの死体を『便利ボックス』に入れていると、カイ君達が走り寄って満面の笑みを浮かべながらそう言った。
 そこまですごいことをしてないが、こうして尊敬の眼差まなざしを向けられると嬉しい気持ちになるな。
 さて、もうそろそろいい時間だし、今日は帰ってゆっくり休もう。



 2 弟子との訓練


 カイ君達の実力を見た次の日。俺は今日も彼らと一緒に行動を共にしている。
 今日のやることは四人のステータスチェック。昨日の戦闘を見てから、この子達のステータスがどんな感じなのか確認したかったんだよな。でも、昨日は王都に帰ってきたらもう遅い時間だったから後回しにしていた。
 ということで今日はみんなを自宅のリビングに集め、カイ君達にステータスを見てもいいか聞いた。全員問題ないとのことだったので、『鑑定眼』を発動する。

「それじゃ、まずはリーダーのカイ君から見てみるね」
「はい! よろしくお願いします!」

 カイ君はそう元気良く返事をした。


【 名 前 】カイ・サマル
【 年 齢 】13
【 種 族 】ヒューマン
【 性 別 】男
【 状 態 】健康
【 レベル 】36
【 S P 】140
【  力  】1024
【 魔 力 】942
【 びん しょう 】1076
【 器 用 】997
【  運  】59
【 スキル 】『剣術:3』『気配察知:2』『集中:3』『信仰心:2』『身体能力強化:2』
       『火属性魔法:1』
【特殊 能力】『剣気』
【 加 護 】『サマディエラの加護』
【 称 号 】『加護を受けし者』


「へ~、攻撃魔法も覚えているんだね。昨日は使ってなかったけど、使わない理由とかあるの?」
「はい、メイナ達の魔法を見てたら僕も使いたくなって、教えてもらったら習得できました。でも覚えたばかりなので、戦闘ではまだうまく使えないんです。余計な技を使って、メイナ達の邪魔もしたくないので、使いこなせるようになるまで実戦では使用を控えています」
「なるほど、いい判断だと思うよ。習得したばかりのスキルを戦闘で使って、味方の邪魔をするっていうのはよくある話だからね。そこをちゃんと考えて我慢してるのは偉いな」
「えへへ、ありがとうございます!」
「それにしても、カイ君の能力値はバランスがいいね。剣がメインなのに、なんで魔力のあたいもこんなに高いんだろう?」
「多分、僕が【特殊能力】の『剣気』を使っているからだと思います。これは魔力を剣に集中させてより強度と斬れ味を高める能力なんです」

 ……えっ? それ強くないか?
 剣士なら誰でも欲しがる能力だ。そんな能力をカイ君は持っているのか。

「これは前から持っていたの?」
「いえ、ラルクさんと別れたあとに知らない神様に加護をもらったんですけど、そのときに一緒にもらったんです」
「……そういえば、カイ君にサマディさんの加護が付いているな。もしかしてカイ君達に加護と能力を与えたのってサマディさんか?」

 俺はみんなに聞こえない声でそうつぶやいた。
 でもそんなこと、ありえるのか?
 そう思った俺はカイ君達に「ちょっと待ってて」と言い、自室のお祈り部屋に移動してサマディさんのところに会いに向かった。
 お祈り部屋にある像の前に座り、目をつむって強く念じる。こうすることで、サマディさんのいる神界に行くことができるのだ。
 しばらく念じて目を開けると、サマディさんが目の前に立っていた。

「おや、ラルク君。久しぶりだね」
「久しぶりです、サマディさん。突然やってきてすみません。いきなりの質問で失礼なんですけど、カイ君達に加護と能力を渡したんですか?」
「うん、四人にそれぞれ与えたよ。ラルク君が気に入った子だったから、助けになればいいなって思って。迷惑だったかな?」
「いえ、そんなことはありません。カイ君達に加護と能力を与えてくださり、ありがとうございます」

 頭を下げると、サマディさんは「お礼なんて別にいいよ~」と軽く手を振りながら言った。
 サマディさんに別れを告げ、現実世界に戻ってくる。
 四人が短期間であんなに強くなった理由が分かった。サマディさんの力添えがあったからだったんだな。
 もちろんカイ君達の頑張りもあるだろうが、それだけで片付けられないほど成長していたから、何か他の理由があるなと思っていた。

「しかし、四人それぞれに加護と能力をあげるって、サマディさんには感謝しないとな」

 サマディさんに心からお祈りをして、カイ君達の待っているリビングに戻る。
 彼らは俺が突然出ていったことに、「な、何か失礼なことをしましたか!?」と焦っていた。

「いや、ちょっとね……カイ君達には言っておくけど、みんなに加護を与えてくれた神様と俺、仲がいいんだよね。それでちょっと聞きたいことがあったから聞きに行っただけだよ。ところで確認なんだけど、ローグ君、メイナちゃん、ルネちゃんも神様から加護と能力をもらったんだよね?」

 俺の言葉にローグ君達はコクリと頷く。
 すると、カイ君が目を丸くして質問してきた。

「あの、ラルクさんって神様とも友達なんですか?」
「……友達っていうか、恩人だね。俺が孤児だったにもかかわらず、こうして今があるのはカイ君達に加護を与えた神様――サマディさんのおかげなんだ」
「なるほど、そうだったんですね! 僕達、突然知らない神様から加護をもらって困惑していたんですけど、今度から毎日欠かさずお祈りをしますね!」

 カイ君がそう言うと、ローグ君達も熱心に頷いていた。
 俺は気を取り直し、カイ君のステータスについて話を戻す。

「戦いの動きから『剣術』のスキルはかなり高いと思っていたけど、スキルレベルが3になっていたんだね」
「はい。これもラルクさんのところに会いに来る少し前に上がりました。加護をもらってからすごく早く成長すると感じていたんですけど、やっぱり神様のおかげだったんですね」
「それもあるけど、一番はカイ君が頑張ったからだと思うよ。加護も万能というわけではないからね」

 そう褒めると、カイ君は目に涙を浮かべて「ありがとうございます」と言った。
 カイ君、なんか俺のことをしたいすぎじゃないか? 
 ……別に悪い感じはしないからいいけど、そこまでキラキラした目で見られるのは慣れてないから、見つめないでほしい。
 そんなことを思いながら俺は次に、ローグ君のステータスを見ることにした。


【 名 前 】ローグ・サマル
【 年 齢 】13
【 種 族 】ヒューマン
【 性 別 】男
【 状 態 】健康
【 レベル 】37
【 S P 】110
【  力  】1247
【 魔 力 】785
【 敏 捷 】894
【 器 用 】1045
【  運  】64
【 スキル 】『剣術:2』『盾術:3』『集中:2』『挑発:2』『信仰心:2』
       『身体能力強化:3』
【特殊 能力】『絶対防御』
【 加 護 】『サマディエラの加護』
【 称 号 】『加護を受けし者』


 ローグ君は前に出てパーティの盾役となることが多いからか、やや力にかたよった能力値をしている。
 魔力を使うようなスキルを持ってないこともあり、魔力の数値が明らかに低い。

「ローグ君は近接タイプの能力値をしているね」
「はい。前に出てみんなを守るのが役目だから、魔法を使う場面もないですし」
「確かにそうだね。それでこの『絶対防御』っていうのは、どんな能力なの?」
「名前の通り、全ての攻撃を防御する能力です。たとえ範囲技を使われたとしても、攻撃がカイやメイナ達に向かったとしても、全て俺に引き寄せられ防御するんです。ただ、使用回数に制限があって、一日十回までしか使えません」

 なるほど、俺の【神技:神秘の聖光】と似たような制限付きの能力というわけか。
 だけど、一日十回ってかなりの回数使えるな。そこまで強力なら五回とか三回でも十分だと思うけど、カイ君達のためにサマディさんが少し多めに設定したんだろう。
 あまり過保護に守りすぎると成長を止めてしまうけど、このくらいならちょっと無茶ができる程度だからいいと思う。
 あと気になるスキルと言えば……

「へえ、『身体能力強化』はローグ君のほうがスキルレベルが高いね。ローグ君のほうが先にスキルを習得したの?」
「はい、俺のほうが少しだけ早かったです。カイの悔しがってる顔、そのとき久しぶりに見ましたよ」

 ローグ君が笑みを浮かべながら言うと、カイ君は「二日違いだからそんな違わないだろ」と反論していた。
 二日違うだけでローグ君のほうがスキルレベルが高いのは、やはりサマディさんが与えた能力のおかげだろうか? 『身体能力強化』と『絶対防御』は相性がいいことも関係していそうだ。

「ちょっとの差だし、すぐに追いつくよ! ここで修業してる間に並んでやるからな!」

 カイ君の言葉にローグ君は落ち着いた様子で「おう一緒に訓練しような」と声を掛けていた。
 ローグ君のステータスを見終わった俺は、次にメイナちゃんのステータスを見ることにした。


【 名 前 】メイナ・サマル
【 年 齢 】13
【 種 族 】ヒューマン
【 性 別 】女
【 状 態 】健康
【 レベル 】35
【 S P 】100
【  力  】678
【 魔 力 】1241
【 敏 捷 】745
【 器 用 】914
【  運  】62
【 スキル 】『火属性魔法:3』『水属性魔法:2』『信仰心:3』『魔力強化:2』
       『魔力制御:2』『無詠唱:3』『集中:2』
【特殊 能力】『魔力蓄積』
【 加 護 】『サマディエラの加護』
【 称 号 】『加護を受けし者』


 すでに分かっていたが、彼女にも加護と能力が与えられている。
『魔力蓄積』? なんか名前からして使えそうだな。

「メイナちゃんは魔力特化って感じに成長しているね」
「はい、カイ君やローグ君みたいに前で戦うことはないので魔力ばかりです。ですけど、その代わり魔法の腕はかなり上がりました」
「そうみたいだね。スキルレベル3って大分高いほうだし。それでメイナちゃんのもらった特殊能力はどんな効果なの?」

 そう聞くと、メイナちゃんは『魔力蓄積』について説明してくれた。
 どうやら、自身が保有できる量以上の魔力を蓄積し、いつでも使うことが可能になる能力らしい。自身の魔力だけでは倒すのが難しい魔物が相手でも、貯め込んだ魔力を使えば魔法の威力を上げて倒せるようになるのだとか。
 うん、魔法使いにとっては絶対に重宝するスキルだな。

「サマディさん、本当にいい能力をみんなに与えてるみたいだね。これに関しては、俺も欲しいくらいだ」
「えっ? ラルクさんって元の魔力が桁違けたちがいに多いですし、いらないんじゃないですか?」
「……言われてみれば確かに、今はそこまで必要ないかも」

 昔だったら欲しかったけど、今このスキルが自分に必要か考えると微妙なところだ。俺よりアスラのほうが欲しがりそう。
 そんなことを考えながらメイナちゃんのステータスを見ていると、カイ君達に比べて『信仰心』のスキルレベルが高いことに気付いた。

「メイナちゃんはカイ君達よりたくさんお祈りをしていたの?」
「あっ、はい。レムリード王国の教会ではお祈りの時間があったから、よくしていました。カイ君とローグ君はその時間外で遊んでいることが多かったんですけど」
「……なるほど」

 カイ君とローグ君がばつが悪そうな顔をしていたので、俺は慌ててフォローする。

「ま、まあ加護をもらったのにお祈りしないのは失礼だけど、それはサマディさんに加護をもらう前の話だしね。これからちゃんとサマディさんにお祈りすればいいと思うよ」

 見たこともない神様へのお祈りなんて適当になりがちになるのは分かる。

「はい! これからはちゃんと毎日します!」
「俺もします!」

 カイ君とローグ君は心を入れ替えたように宣言した。

「うん、それならいいよ。さてと、それじゃあ最後はルネちゃんのステータスだな」

 最後に回してしまったルネちゃんに向けて、『鑑定眼』を発動する。


【 名 前 】ルネ・サマル
【 年 齢 】13
【 種 族 】ヒューマン
【 性 別 】女
【 状 態 】健康
【 レベル 】34
【 S P 】80
【  力  】641
【 魔 力 】1103
【 敏 捷 】841
【 器 用 】1021
【  運  】66
【 スキル 】『水属性魔法:2』『無属性魔法:2』『信仰心:3』『魔力強化:2』
       『魔力制御:2』『弓術:2』『治療術:2』『気配察知:2』『集中:3』
       『無詠唱:1』
【特殊 能力】『聖眼せいがん
【 加 護 】『サマディエラの加護』
【 称 号 】『加護を受けし者』


 ルネちゃんは前に出るというよりサポーターの役割だからだろうけど、それにしても覚えているスキルが多いな。

「ルネちゃんはスキルの数がこのパーティで一番豊富だね。いろんなことに挑戦してきたの?」
「はい、私にはカイ達みたいに前に出て戦う力はないですし、メイナみたいに魔法の力もないので自分にできることを探して訓練していました」

 ルネちゃんは自信なさげにそう言った。
 続いて俺は、特殊能力の詳細を聞いてみる。名前からだとどういった能力なのか想像できなかったが、その説明を聞いて俺は「サマディさん、やりすぎでしょ……」と小声で口にした。
『聖眼』とは鑑定系スキルの上位スキルに当たり、素材の鑑定はもちろんのこと、生物に使うとどこに異常があるのかすぐに分かるといった効果があるらしい。
 つまり味方の状態異常を一瞬で把握できるだけでなく、どんな敵でもたちまち弱点を把握することが可能ということだ。
 いやいやいや! サマディさん、なんて能力を渡してるんだよ! これ普通に最強格のスキルでしょ!?

「……やっぱり、私のだけおかしなほど強い能力ですよね」

 どうやらルネちゃんも自分の特殊能力の強さに気付いているらしい。


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