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第一章
第28話 【料理教室・4】
しおりを挟む買い物を終えた俺は家に戻って来て、使いの人が来るまで待つことにした。
そうして陽が沈みかけようとした時間帯、家にラントリス家の使いの人がやって来て俺は馬車に乗ってラントリス家へと向かった。
「何度来ても慣れないな……」
せっけんの話をする為、最初に来てから数回俺はラントリス家に来た事がある。
しかし、未だにこの広い敷地と大きな家に慣れない。
そして、家の中に入った俺はアイザックさんとエレナさんと挨拶を済ませると、直ぐに調理場へと向かった。
「流石に広いですね。いつもここで料理をしてるんですか?」
「そうだね。普段はここまで人はいないが、お嬢様に料理を教えた人が来ると知って見物に来てるみたいだね」
そう教えてくれたのは、アイザックさん達と挨拶をした際に紹介された。
ラントリス家に仕えてる料理人達の長、料理長のデリックさん。
儀式で料理系に関係する能力を貰い、幼い頃からラントリス家の料理人として働いて、20歳で料理長となった凄い人だ。
「食材だけど、ここにある物は何でも使っても良いよ」
「これ全部、食材なんですか!? す、凄い量ですね……」
「アイザック様やエレナ様は勿論、その他にも多くの人が働いてるからね。これでも一週間分くらいの食材だね」
案内されたのは調理場に隣接している食糧庫なのだが、そこには大量の食材が置かれていた。
中には保存期間が長い物もあるだろうけど、それでも凄い量の食材だった。
見たことのない食材などもあり、俺は一先ず確認から始める事にした。
「……欲しい物が全部あった」
あの後、デリックさんと別れて俺は食糧庫の中を見て回り、ここには俺が求めていた食材が沢山あった。
その中には勿論、米もありこの世界にも米がある事を知れた事だけでもかなりの収穫だった。
そして調味料に関しても、醤油や味噌、みりん等の調味料も発見した。
ただ少し味見したのだが、記憶してる味と似てるが少し違うなと感じたた。
「まあ、そもそも世界が違うから多少の製法に違いがあるんだろうけど、鑑定してみる限りだと俺の知ってる調味料だし、これは使えるな……」
その後も俺は食糧庫を見て回り、良い感じのレシピを考えついた俺は食材を持って調理場へと戻って来た。
まずはしっかりと手を洗った俺は、最初に米を炊く所から始めた。
炊飯器なんて便利な物はなく、土鍋で炊く事にした。
正直、初めて土鍋で米を炊くから成功するか心配だが、そこは俺の勘と【調理】スキルに頼るしかない。
「折角、醤油とかあるなら角煮でも作ろうかな? 卵もあったし、煮卵にして米と一緒に食べたら……って、ダメだ。今日はアイザックさん達に振舞うんだから」
醤油や味噌を見つけたせいか、俺は自分の食べたい物を優先して考えていた。
俺は寸前の所で思いとどまったが、既に手は動かしていた。
ここから別の料理を作るにも、食材の無駄になってしまう。
俺はそれだったら誠心誠意美味しい物を作る為、本気で調理の続きを行った。
「お待たせしました」
「いつも以上に美味しそうな匂い……クリス君、今日は何を作ったの?」
「はい。食糧庫を見た際、初めて見る調味料があり試しにそれらを使って調理してみました。メインはボア肉の角煮です。添え物として煮卵を付けております」
驚き固まっているアイザックさんとエレナさんを置いて、ノアさんは今日の献立について聞いて来た。
そして俺からそう聞くと嬉しそうに食べ始め、遅れてアイザックさん達も食べ始めたが一口食べてまた固まってしまった。
「く、クリス君、これは本当に君がこの時間で作ったのかい?」
「はい。そうですけど? 何か問題がありましたか?」
「いや、デリックの前でいうのもあれだが、こんなに美味しい料理を食べたのは初めてで驚いてるんだ」
この部屋にはデリックさんも居て、アイザックさんは申し訳なさそうな表情をしながらそう言った。
「アイザック様、そう思われても仕方ありません。私はクリス君の調理姿を見てましたが、実力が自分よりも高いと感じましたので」
「デリックがそう思うとは、クリス君の腕は相当高いんだろうな……」
その後、アイザックさんは無言で食べ進めて行き、エレナさんに至っては食べ始めてから一言も喋らず食べ進めた。
「クリス君、美味しい料理を作ってくれて感謝する。これだけの腕があれば、ノアに料理を教えられたのも納得がいくよ」
「ええ、本当にね。正直、クリス君の料理は今まで食べた事もない位に美味しかったわ」
アイザックさん達は俺の料理を気に入ってくれたのか、レシピを買いたいと言われた。
俺はそれに対して、米と調味料をどうやったら購入できるのか教えて欲しいと頼んだ。
すると、米や調味料はラントリス家が懇意にしている商会が持っているらしく、そこと俺を繋げてくれると約束してくれた。
そう言われた俺はレシピをデリックさんに教え、アイザックさん達の分と一緒に作っておいた自分の夕食を食べた。
その後、馬車でアリシアさんの家まで送ってもらった俺は、今日は良い収穫だったと気分よく寝れた。
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