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第一章
第29話 【王城・1】
しおりを挟む異世界生活を始めて二ヵ月が経ち、早くも生活が安定している事に自分ながら感心した。
「お店のおかげでそこの売上だけで暮らせる程だからな……」
俺の作ったせっけんは、未だに人気が絶えず行列が出来る程では無いが、一日を通して数百個毎日売れている。
この人気は他国まで行っており洗浄効果は勿論の事、環境にも配慮された作りをしているので種族問わず人気みたいだ。
「レインさんに聞いた感じ、エルフからも人気みたいだしな」
エルフ族は元々、綺麗好きが多く水浴びをよくする種族らしい。
そんな種族の元に俺の作ったせっけんが届くと、それはもう凄い人気が出た。
「クリス君、休憩は終わりだよ。訓練の続きをしようか」
「はい! よろしくお願いします!」
そう声を掛けて来たのは、俺の訓練を見てくれているレインさん。
最近、俺は冒険者ギルドで依頼を受けつつ、レインさんとアリシアさんから訓練をつけて貰っている。
「ようやくお店の事とか色々が落ち着いたみたいだね」
「そうですね。正直、国を超えてあんなに人が来る事は予想できませんでした」
「確かにそうだね。その中にはエルフ族も居たし、本当に色んな国からクリス君のせっけんを求めて未だに来てるみたいだね」
訓練を終え、レインさんと昼食を食べながら店の話となった。
「それに王都でも、クリス君のせっけんを皆が使えるようにとシャワー室だけの施設も作られたみたいだしね」
「そうですね。あれのおかげで、より購入者が増えたので売ってる側からしたら嬉しい限りです」
国は民の為、王都に実験目的でシャワーが浴びれる施設を作った。
その結果、更に俺のせっけんは売れて王都の殆どの人が体を綺麗するようになった。
その実験結果を見て、国は王都や複数の都市部に同じような物を作る動きをしている。
「しかし、国を動かす程の事をクリス君はしたから近い内に王城から呼び出しを受けたりするんじゃない?」
「いや、そんなまさか~。だって、ただせっけんを売っただけですよ?」
「だけどそのせっけんは、王家も気に入る程の物だよね?」
「……あはは」
昼食後、俺は気分転換に街の外へと依頼を受けてやって来た。
久しぶりの討伐依頼で、時間を掛けて探そうと見て回っていると、森を入って直ぐに目標を見つけてしまった。
「王城から呼び出し、無いとは言い切れないよな……」
討伐を終えた俺は、近くの切り株に座ってそう溜息交じりに呟いた。
「貴族を相手に喋るのは慣れて来たけど、流石に王族にはまだ心が持たなそう」
店の事があり、多くの貴族や貴族の使いとこれまで対応してきた。
そのおかげで貴族相手には、臆せず喋れるようになって来たけど王族は話が違う。
「レインさんがあんな事を言ったから気にしてるけど、まだ王城から何も言われてないし、もしかしたら気にし過ぎなだけかも知れないからな!」
そう俺は思い、久しぶりの森だから採取をして王都へと戻って来た。
そして報酬を受け取り、アリシアさんの家に戻ってきた。
「クリス君、お父様から聞いたけど近い内にクリス君を王城に呼びたいそうよ」
「……マジですか?」
その日の夜、アリシアさんとノアさんを連れて帰って来てそのノアさんから驚く内容を聞かされた。
「まあ、あのせっけんは王族も気に入る程の物だったし、あのせっけんのおかげで国が賑わってるからそれの話がされるんでしょうね」
「アリシア。自分は関係ない見たいな顔してるけど、貴女も一緒に呼び出されるみたいよ」
「なっ、何で私も!?」
「そりゃ、クリス君と一緒に暮らしてるからじゃないかしら? 勿論その日、クリーンヒルト家の当主。アリシアのお父様も居るらしいわ」
ノアさんのその言葉を聞いて、アリシアさんは「今から遠くに依頼で出掛けようかしら」と逃走を企てようとした。
「無駄よ。既に手は回されると思うわよ。アリシアが良く知ってるでしょ、そういう無駄な事が通用しない事は」
「……私も行くって事は、ノアも行くのよね?」
「そうね。多分、クリス君と関係性のある私とアリシアが居ればクリス君も緊張しないで済むと思われたんじゃないかしら?」
「俺のせいですみません。アリシアさん……」
そう俺が謝罪すると、アリシアさんは「気にしないで大丈夫よ」と言ってくれた。
その翌日、家に王城から使いの人がやって来て招待状を受け取った。
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