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第二話
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ロバートだけでなく、派閥内の侯爵の足を引っ張り、自分の主張をなんとしても通そうとしていた。彼を恐れて皆擦り寄るものの、ロバートは自分の意見を曲げなかったのだ。
その結果、地方に飛ばされることになったのだが――。
ロバートのしたことは間違いではないと思う。
でも、家族全てが領地に追いやられてしまうことを思うと、ソレク候が怖くなる。
ソレク候は王に進言し、近々図書館の改築が行われるそうだ。
しかしそれは、ロバートの案である。
ソレク候が憎くく、スカートの裾を握って俯いた。
結い上げた金色の髪の毛がたらりと垂れて、頬に触れる。
いつの間にか涙が頬を伝い、ピンク色のデイドレスを汚し始めた。
(泣いたら駄目よ、イーニッド。泣いたら……。泣いたら……駄目よ)
そう考えても、あまりの悔しさと悲しみに、涙は溢れて止まらずいつの間にかしゃくりあげるように泣いていた。
ぐらっと馬車が止まると、兄妹が目を覚ました。
目を擦りながら、イーニッドの方をぼんやりと見つめている。
「泣いてるの?」
不思議そうに見つめる弟は、まだ五歳だ。妹は十歳。
イーニッドは十九歳で、一番年上になり泣いているわけにはいかない。
「泣いてないわ。それより! 着いたみたい」
イーニッドは努めて笑顔を作り、ふたりの肩を抱いた。
幼いふたりを思うと、田舎にはきちんとした学校もなく、ただ遊びまわるしかない。
教育が整わないことを父は憂いたのに、逆に不憫な目にさせられるなんて。
胸が掴まれるように痛み、まだじんわりと涙が出そうになるので慌てて擦る。
「ほら、窓から見えるでしょう?」
「あっ……」
従者が扉を開けてくれると、ふたりが飛び出した。
後から追うイーニッドは、王都の装飾のある邸と違い堅牢な造りの邸にごくりと生唾を飲んだ。
ここに来る途中でも雨が降ったが、気候の変化が激しいと聞いている。
王都の装飾がある邸など建てたら、雨風に飛ばされて危ないのだろう。
「行きましょうか」
イーニッドは気落ちした態度を兄妹に悟られないように、手を引いた。
中に入れば、先に向かったロバートがティールームで待っている筈だ。
従者が扉を開けてくれると、中からロバートが現れた。
「やあ、大変だったね」
「お父さま! お尻が痛いわ」
飛びつくように抱き着くと、ロバートは苦笑している。
ところで、メイドや執事の姿が見えない。
身体を離して辺りを見ていると、ロバートが言いにくそうに口を開いた。
「邸にいるメイドと執事は合わせて三人。今は買い物をしていて出ているのと、村に用があっていない。ここの中のことは自分でやらないといけないんだ」
「……嘘でしょう? だって、王都で沢山のメイドが手を振って見送ってくれたじゃない」
「残念だが、ここで雇うだけの金がないんだ。彼らには別の仕事を探してもらうように頼んだ」
イーニッドはくらっとした。
何もかも奪われたと思い、馬車で泣いたばかりだった。
でもまさか、メイドや執事までいなくなるなんて思わない。
また涙が溢れそうになっていると、弟が不安そうに見上げてきたので努めて笑みを見せた。
「わ、分かったわ! 私、なんとかやってみる」
「イーニッド。悪いな」
ロバートが申し訳なさそうに声を掠れさせた。
泣きたい気持ちは自分も同じだと思いつつ、泣かないと決めたのだ。
「厨房に行って、お茶を淹れてくるわ」
「疲れているんだ。少し休みなさい」
「皆飲みたいでしょ? お茶くらい平気よ。無理だったら、ワインを持ってくるわ」
「ああ。すまない」
ロバートがイーニッドの手をぎゅっと握り、背を丸めた。
本でお茶の淹れ方は知っているし、きっとなんとかなるだろう。なんとかしてみせる。
王都の生活は終わったのだ。
兄妹をティールームに行かせると、自分は地下の厨房に急いだ。
足は重く、フリルたっぷりのドレスが面倒になってくる。
(もう、ここの生活に慣れないといけないのね)
***
「またイーニッドが作ったのか?」
ロバートがティーカップを傾けながら、優しく微笑んだ。
弟たちは少し不格好なクッキーに手を伸ばして、頬をほころばせている。
領地へ来て、一か月経つがまだ慣れないこともあった。
それでもなんとかロバートを支えて、帳簿も教えてもらいながら付けられるようになった。王都ではやらなかった菓子作りを初めて、少しばかりの楽しみを得ている。
今日のクッキーは上々だが、初めて焼いたクッキーは焦げてしまった。
それを弟が美味しいと言って食べてくれたのは忘れられない。
妹はこんなクッキーは初めてと笑っていた。
「美味しいかしら?」
イーニッドもクッキーを摘まむと、口に入れた。
甘みが広がり、我ながら良く出来たと思う。
メイドが丁寧に教えてくれたおかげだ。
忙しい合間をぬって、いつも丁寧にイーニッドに尽くしてくれる。
紅茶を注いでいくと、兄妹はどんどんクッキーを摘まんでしまう。
その結果、地方に飛ばされることになったのだが――。
ロバートのしたことは間違いではないと思う。
でも、家族全てが領地に追いやられてしまうことを思うと、ソレク候が怖くなる。
ソレク候は王に進言し、近々図書館の改築が行われるそうだ。
しかしそれは、ロバートの案である。
ソレク候が憎くく、スカートの裾を握って俯いた。
結い上げた金色の髪の毛がたらりと垂れて、頬に触れる。
いつの間にか涙が頬を伝い、ピンク色のデイドレスを汚し始めた。
(泣いたら駄目よ、イーニッド。泣いたら……。泣いたら……駄目よ)
そう考えても、あまりの悔しさと悲しみに、涙は溢れて止まらずいつの間にかしゃくりあげるように泣いていた。
ぐらっと馬車が止まると、兄妹が目を覚ました。
目を擦りながら、イーニッドの方をぼんやりと見つめている。
「泣いてるの?」
不思議そうに見つめる弟は、まだ五歳だ。妹は十歳。
イーニッドは十九歳で、一番年上になり泣いているわけにはいかない。
「泣いてないわ。それより! 着いたみたい」
イーニッドは努めて笑顔を作り、ふたりの肩を抱いた。
幼いふたりを思うと、田舎にはきちんとした学校もなく、ただ遊びまわるしかない。
教育が整わないことを父は憂いたのに、逆に不憫な目にさせられるなんて。
胸が掴まれるように痛み、まだじんわりと涙が出そうになるので慌てて擦る。
「ほら、窓から見えるでしょう?」
「あっ……」
従者が扉を開けてくれると、ふたりが飛び出した。
後から追うイーニッドは、王都の装飾のある邸と違い堅牢な造りの邸にごくりと生唾を飲んだ。
ここに来る途中でも雨が降ったが、気候の変化が激しいと聞いている。
王都の装飾がある邸など建てたら、雨風に飛ばされて危ないのだろう。
「行きましょうか」
イーニッドは気落ちした態度を兄妹に悟られないように、手を引いた。
中に入れば、先に向かったロバートがティールームで待っている筈だ。
従者が扉を開けてくれると、中からロバートが現れた。
「やあ、大変だったね」
「お父さま! お尻が痛いわ」
飛びつくように抱き着くと、ロバートは苦笑している。
ところで、メイドや執事の姿が見えない。
身体を離して辺りを見ていると、ロバートが言いにくそうに口を開いた。
「邸にいるメイドと執事は合わせて三人。今は買い物をしていて出ているのと、村に用があっていない。ここの中のことは自分でやらないといけないんだ」
「……嘘でしょう? だって、王都で沢山のメイドが手を振って見送ってくれたじゃない」
「残念だが、ここで雇うだけの金がないんだ。彼らには別の仕事を探してもらうように頼んだ」
イーニッドはくらっとした。
何もかも奪われたと思い、馬車で泣いたばかりだった。
でもまさか、メイドや執事までいなくなるなんて思わない。
また涙が溢れそうになっていると、弟が不安そうに見上げてきたので努めて笑みを見せた。
「わ、分かったわ! 私、なんとかやってみる」
「イーニッド。悪いな」
ロバートが申し訳なさそうに声を掠れさせた。
泣きたい気持ちは自分も同じだと思いつつ、泣かないと決めたのだ。
「厨房に行って、お茶を淹れてくるわ」
「疲れているんだ。少し休みなさい」
「皆飲みたいでしょ? お茶くらい平気よ。無理だったら、ワインを持ってくるわ」
「ああ。すまない」
ロバートがイーニッドの手をぎゅっと握り、背を丸めた。
本でお茶の淹れ方は知っているし、きっとなんとかなるだろう。なんとかしてみせる。
王都の生活は終わったのだ。
兄妹をティールームに行かせると、自分は地下の厨房に急いだ。
足は重く、フリルたっぷりのドレスが面倒になってくる。
(もう、ここの生活に慣れないといけないのね)
***
「またイーニッドが作ったのか?」
ロバートがティーカップを傾けながら、優しく微笑んだ。
弟たちは少し不格好なクッキーに手を伸ばして、頬をほころばせている。
領地へ来て、一か月経つがまだ慣れないこともあった。
それでもなんとかロバートを支えて、帳簿も教えてもらいながら付けられるようになった。王都ではやらなかった菓子作りを初めて、少しばかりの楽しみを得ている。
今日のクッキーは上々だが、初めて焼いたクッキーは焦げてしまった。
それを弟が美味しいと言って食べてくれたのは忘れられない。
妹はこんなクッキーは初めてと笑っていた。
「美味しいかしら?」
イーニッドもクッキーを摘まむと、口に入れた。
甘みが広がり、我ながら良く出来たと思う。
メイドが丁寧に教えてくれたおかげだ。
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紅茶を注いでいくと、兄妹はどんどんクッキーを摘まんでしまう。
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