没落令嬢は恨んだ侯爵に甘く口説かれる

如月一花

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第十七話

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 マッケンジー家とは口も聞くなと教わっていたせいか、それは雷に打たれたような衝撃だった。尊敬の念と優しさを存分に感じて、夜会に出れば目で追っていた。
 知らず知らずのうちに、イーニッドの良さを痛感し、奥手なことだって分かっていく。
 彼女をこの手に出来ればと思うのに、届かないもどかしさが余計に恋心を燃えさせた。
 そんなに想った女性を傷物になど。
「ガウェイン。入れ込んでいるのは知っている。美貌の持ち主だと宮中でも有名だ。その細腕でメイドのようにクッキーを焼いたり給仕をしたりしていたことも、一部では有名なのだよ。いい加減、私の立場も考えてくれ」
「お断りします。あなたの操り人形じゃない。それに、一部では有名とは? そのことはイーニッドの家族しか知らないと思っておりましたが」
「フン。妻を娶って歯向かうようになって。だが――もう相手は用意してある」
 顎を摩りながら、アランはにたりと笑った。
 ガウェインは奥歯を噛みながら、じっと睨みつける。
 自分の意志など関係ないと、成人してもなお思い知らされて、怒りは沸々と湧き上がるばかりだ。
「明日にでも、邸に来るだろうから。早々に相手をしてやりさない。客間でなく、寝室で」
「お断りします! しっかりと話せば、自分にその気持ちがないと理解出来るでしょう」
「いいや、物分かりの良い、賢い娘でね。子作りが遅れているから力を貸して欲しいと言ったら、すぐに名乗り出てくれた」
「そんなバカな。どこの令嬢です? 今すぐに手紙を」
「そんなことで揺らぐと思うのか? たっぷりと金を弾んでいるのだから」
「金……」
 それを聞いて、近隣令嬢が邸に上がるのではないと思った。
 街の娘や村の娘が買われてきたのだ。
 子を成せば、その娘もすぐに捨てられてしまう。
 そんなことはさせないと、ガウェインはすぐに踵を返した。
 書斎を出ると、むかむかする思いでいっぱいになる。
 明日にでもその娘は身なりを整えて、邸に上がるのだろう。
 金を握らせたと言っていたが、いくらになるのか。
(父はいつだって、人を道具にしか思っていない!)
 そのやり口に腹を立てつつ、自分も書斎に籠り、執事長を呼んでアランの見つけだした女性を見つけるように命じた。見つかる可能性は低いが、手がかりがあれば、邸に来るなと言える。
 それに、邸に来た時、イーニッドは誤解をするだろう。
 子が出来ないことに存在意義なないと、勝手に悩むかもしれない。
 自分達の仲を引き裂かれるものかと、ガウェインは頭を搔きむしった。


 ***


 ガウェインが書斎に籠ってしまうので、イーニッドは庭の散策でもしようかと思っていた。王都にひとりで出かける気分にはならない。
 今だ、マッケンジー家の長女がソレク家に嫁いだことは噂話になっているからだ。
 それだけじゃない。
 ガウェインは口にしないが、ゴシップ記事が自分達のことを面白ろおかしく書きたてているのを、メイドを通じて知った。
 どうするかと訊かれたが、自分にはどうすることも出来ない。
 ガウェインだって知っていて放っているのだろうし、イーニッドが新聞社に乗り込めば、新たなゴシップ記事が出来上がってしまう。
 最近仲良く出来ていたと思ったが、ガウェインもここのところ書斎に籠り始めた。
 結局、自分達の仲などその程度なのだと、ぐらついていた心は寂しさにまみれていく。
 ゴシップ記事は嘘だ、なんでもない。その一言が欲しいのに、はぐらかすなんて。
 イーニッドが窓辺に椅子を持ってきて座り、ぼんやりと空を見つめていた。
 メイドが生けてくれた薔薇の香りが部屋に微かにして、気分は落ち込みつつも心地は良い。
 ふわふわと浮く雲のように、自分の立場は危ういのだなとぼんやりと考える。
 すると、扉をノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
「失礼します。少し、お話が」
 メイドが顔色を変えながら、イーニッドを見つめた。
 結婚式以来、ずっと世話になる彼女にもう心を許して、悩みもなんでも相談していた。
「どうかした?」
「ガウェイン様が、愛人を……」
「どういう……意味?」
 ぼんやりと見ていた雲を見ているのに、勝手に涙が溢れてくる。ぽろぽろと頬を伝い落ちる。必死で指で拭うが止まらない。
 メイドの前で泣くなんて恥ずかしいと慌てるが、溢れるばかりだった。
 彼は自分を見ていてくれると思い込んでいたし、自分に尽くしてくれていた。
 それが、どうしていきなり裏切るのだろう。ガウェインは自分のことを好きだとあれほど言っていたのに、嘘だったのだろうか。
これでは、わずかに信じて想いを寄せていることは愚かじゃないか。アランのように裏切り嘲笑うつもりで甘い言葉を囁いていたのだろうか。
何がなんだか分からなくなりそうだ。
「アラン様がお決めになったようです。ガウェイン様がそれに従うとは思えませんが」
「私がいつまでも純潔を貫いているからね。怒りを買ったんだわ。ガウェインだって、本当は怒っているのかもしれない」
「ガウェイン様はそんなお方ではありません。ですが、明日、ここに女性が参ります。どうか、取り乱すことなく部屋にいてください」
「え、ええ」
 メイドは淡々と伝えてくる。
 部屋から出るなと言われても、そんな様子を盗み聞くつもりなどない。
 それに、ガウェインからはその話は聞いていないのだ。
 シラを切れると思っているのかもしれないと思えてくる。
「ガウェインはなんて思っているのかしら。私はいらないと思っていると思う?」
「そんなわけありません。今、なんとか出来ないかと奔走しているそうです」
「……そう」
 その言葉を信じることが出来ず、イーニッドはメイドを下がらせた。
 イーニッドは何も考えたくないと、空を見つめ続けた。
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