没落令嬢は恨んだ侯爵に甘く口説かれる

如月一花

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第二十一話

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  ***

「イーニッド」
「……ん……」
「起きてください」
「……でも……もう少し寝かせて欲しいの」
 イーニッドは枕に顔を埋めて、柔らかい感触を楽しむ。
 今日は湖畔で散策をする予定だったが、身体が鉛のように重い。
 丘陵地帯であんなことがあったせいか、余計に何も考えたくなくなる。
 アランから好かれることはないと思っていたが、あんな目に合うとは思わなかった。
「イーニッドは俺をほったらかしでもいいのですか?」
「だめよ……。でも……」
 イーニッドはなんとか瞼をあけると、目の前にガウェインの顔がある。
 何事だと思い目を瞬かせていると、すぐに唇を塞がれた。
 甘い感覚に包まれて、互いに求めるようにキスをしてしまう。
 怖かったせいもあるし、今日はその日の為に期待したせいもある。
 全てが全く違う意志に妨害されて、凄く辛くてたまらない。けれどそのせいでたった一度のキスが欲しくてたまらなくなってくる。
 怖かった分、ガウェインからはやさしさが欲しい。
 蕩けるようなキスに、イーニッドは息をいつの間にか弾ませていた。
「そんな顔をして」
「はぁはぁ……眠い……だけよ」
「最後に確認をさせてください。俺を好きですか?」
「ええ。好き。私のことを誰より考えてくれているもの」
「じゃあ、あなたの全てが欲しい言っても、受け入れてくれます?」
 ガウェインが優し気に微笑み、そっとイーニッドの唇を撫でた。
 その誘いに乗るように、イーニッドはこくりと頷いた。
 イーニッドは自分からキスをして欲しいと、首に手を回すと、もう一度濃密なキスが始まる。
 ふたりの距離が更に深くなるように、空気が熱を帯びて互いの身体もあつくなっていた。
 その日、イーニッドとガウェインは初めて結ばれ、より深い仲になった。


  ***


「イーニッド、もう一度キスをさせてください」
「駄目よ。誰が見てるか分からないわ」
「誰もいない湖畔です。ねえ、いいでしょう?」
 ガウェインと結ばれて以来、彼は更にイーニッドに甘くなっている。
 しかし、この湖畔に来るまでに自分達は大変な目にあったのだ。
 ガウェインが呑気なのか、キスなどしている暇はないと言いたいのだが――。
 イーニッドは目を瞑り、そっとガウェインの背の高さに合うように背伸びした。
 すると、すぐに口づけられて深く重なるキスになる。
(ガウェインったら!)
 そう思いつつ受け入れてしまい、頬を赤らめて首に腕を回してしまう。
 すっかりイーニッドもガウェインの虜だ。
 湖畔を一周する間に、一体どれだけキスをすることになるだろう。
「イーニッド」
「はい」
「少し、帰るのを早めたいのですが」
「ええ。それは構わないわ。だって、ガウェインだって忙しいでしょう?」
 そう言ったものの、イーニッドには予感があった。
 彼が父を追い落とす為の準備をするのだと。
 今日この日の約束は破ることなく果たしてくれ、そして、結婚した時に言っていた、領地に住まうマッケンジー家を王都に呼ぶことを果たしてくれるんだろう。
「私は、あなたと一緒よ」
「ありがとうございます。では、もう一度キスを」
「だ、だめっ」
 そう言いつつ、ガウェインが強引にキスをするのでイーニッドは身を捩って逃げるしかなかった。


  *** 
    

 宮廷の真っ白な巨大な柱や豪華な造りと、巨大なフレスコ画がを見る度に、ガウェインは身が引き締まる。
 湖畔でたっぷりとイーニッドを堪能し、充分に気分も晴れた。
 もはやアランは実父でもなんでもないと、あの日、馬車に細工された木のねじをポケットに忍ばせている。
 今日は宮廷貴族が集まり、王に進言をする為に議会を開いていた。
 王もその場に居合わせ、話を聞いているのだ。
 もはや、自ら出向くしかない。
 長い大きな廊下を歩くと、その奥に重厚な造りの両扉があった。
 その奥だ。
 しかし、衛兵が立ち、槍を掲げている。
 いくら自分がソレク家の人間であると告げても、きっと無駄だろう。
 何かないかと思っていると、不意にひとりの衛兵がその場を去った。
 その瞬間を見計らって、ガウェインは扉に向かって走る。
 衛兵に力づくで止められるが、ガウェインは「ソレク家のガウェインだ! 無礼だぞ!」と叫び続けた。
 しかし、思っていたとおり、衛兵は力を緩めることはなかった。
 もはや宮廷内にアランの息のかかっていない者などいない。
 マッケンジー家だけが王に真実を伝え、発展的なことを言っていたのだ。
 それを追いやり、自分だけが権力を得ることに手段も選ばない。
 そのことが情けない。
 ガウェインが叫んでいると、ぎっと扉が開いた。
「王が、中に入れと言っております」
 見たことがない男が、一礼してガウェインに言う。
 ドアの前で騒いだことが、王の耳に通ったらしい。
 とはいえ、決して良いイメージではないし、どう思われるかもわからない。
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