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がくえん・裏!~なぜ悪役令嬢はバッドエンドに至ったのか
●09裏-2_攻略対象その1は調査へと向かった!
しおりを挟む「よく来てくれた! ラバン!」
「元気そうだね、クラウス。見舞いは必要なかったかな?」
「いや、そんなことはない。手厚い看病を頼むよ」
話は戻って、イザラがブルネットにお説教されているころ。
ラバンはクラウスの見舞いへ訪れていた。
砕けた態度で迎えるクラウス。
婚約者であるイザラを含め、他の貴族の前では、決して見せない姿だ。
それでいいのかと思う一方、ラバンとしては、理解できなくもない。
クラウスは第一王子だ。身内の内外かかわらず味方も敵も多い。対するラバンは王族ではあるが、その序列は第三位。三位とはいっても、従兄弟というやや遠めの血縁。仮に国王に第三子が生まれれば、順位はさらに落ちるだろう。いわば、予備の予備の予備という状態。身内の内外かかわらず敵は少なく、味方に引き入れようとする勢力が多い。野心さえ抱かなければ、素晴らしい立ち位置。ラバンの両親は、この絶妙な位置を守ろうと、ラバンにどの勢力ともつかず離れずの距離を取るよう求め、ラバンもそれに応えてきた。
といって、ラバンからすれば、さほど努力をした覚えはない。
ただ、両親に言われるがまま、あらゆる勢力の貴族のパーティにまんべんなく顔を出し、早く帰りたいがために調子よくうなずいていただけだ。
自由に使える時間と金を与えられたラバンにとって、貴族のパーティより、趣味の化学や薬学に費やす方が楽しかったのだ。当初、クラウスの事も、「パーティで出会った有象無象の貴族のひとり」程度にしか認識していなかったくらいである。
が、クラウスの方からすれば、どうだろう。
もの心ついた頃から危険な地位にいて、王や側近から「与えられた」友達しか知らないクラウスにとっては、まともに付き合う事が出来る唯一の相手。しかも、最低限の礼節を持ちながら、まともに話を聞いてくれる。クラウスがラバンを「普通の」友達と見るには、十分な理由だろう。
「流行り病だと聞いてね、薬草を持ってきたよ。
イザラ嬢の作り出した特効薬と合わせれば、治りが早くなるはずだ」
「これは――北方の山脈にしか生えないという薬草じゃないか?
ずいぶん貴重なものだと聞くが……」
「まあ、私は趣味に時間も金もつぎ込んでいるからね。
それより、クラウスの方こそ、よく知っているな?」
「いや、実は、キミなら来てくれるだろうと思って、話のタネに薬学の本を読んでいたんだ」
軽く笑って返すクラウス。
無理をしている様子はない。
顔色も悪くないようだ。
噂通り、流行病とはいっても大した症状ではないのだろう。
これなら少し休めばすぐ回復しそうだな。
見舞いの後にこっちが感染した、なんてこともなさそうだ。
そんな軽い観察をしながら、ラバンは薬草を細かく千切り、机の上にあったカップに入れると、ポットから湯を注いで、差し出した。
「本来なら、こんな紅茶のような使い方じゃなく、じっくり加熱するのがいいんだが、まあ、これでも効果はあるだろう」
「ああ、ありがとう、ラバン」
疑うことなく口をつけるクラウス。
まったく、毒草だったらどうするんだ。
ちょっとは警戒したらどうかね?
などという小言が思い浮かぶが、相手は第一王子。
機嫌を損ねられても面倒だ。
特に何も言わず、手持ち無沙汰に部屋を見渡す。
趣味の弊害というべきか、目についたのは、本棚にある薬学の本。
新品のようで、美しい装丁の、分厚い教本だ。
初学者にも分かりやすく書かれた名著で、ラバンも世話になったことがある。
懐かしさを覚えたラバン、勝手知ったる友人の部屋、といわんばかりに、特に断りも入れず、その本を手に取ろうとし――途中で、薬草辞典の方が目についた。
ずいぶん読み古したようで、少しよれが目立つ、薄い本だ。
こちらは軽い内容のようで、薬草を採集する際に手元で開いて確認するために書かれたものだろう。
少し悩んだ挙句、ラバンは薄い本を手に取った。普段から読んでいる分厚い専門書より、薄くても軽い一般向けの本の方が気になったのだ。あるいは、薬草の採集か何かの時に役に立つかもしれない。
辞典を開く。
中には、男同士が絡み合う春画が広がっていた。
閉じる。
表紙は確かに、薬草画集だ。
いや、違った。
よく見ると、カバーと表紙の大きさがわずかにずれている。
薬草画集はカバーだけだ。
少しずらすと「ドージンシ・ウスイホン」などという表紙が見える。
つまりは、中身は立派なエロ本だったのである。
しかも、バラ色な内容のエロ本だったのである。
クラウスは、こちらに気づいた様子はなく、優雅にカップを傾けている。
無言でもう一度ページを開くラバン。
そしてそれを、クラウスの目の前に広げた。
薬を吹き出すクラウス。
「なかなかに独特な趣味だな、クラウス」
「待て! ラバン! これは、あれだ!
母上だ! 母上から贈られてきたものだ!」
「自分の子どもにこれを贈るとは、アイリス王妃は素晴らしい母親だな、クラウス。
どう考えても贈られてきたのはこっちの教本の方だろう、クラウス。
こっちの辞典は明らかに使い込まれているぞ、クラウス。
性欲処理用品はもう少しマシなところへ隠したまえ、クラウス」
「いや、本当なんだ!
この間、王宮に戻った時!
母上の本棚にあった辞典を、私が本物と思い込み、譲ってもらったものなんだ!
母上も中身が何か忘れていたようで!」
「自分の母親をスケープゴートにするのは止めたまえ、クラウス。
使い込まれている方は否定しないのかね、クラウス。
予想外の訪問に慌てて本棚へ放り込んだ姿が目に浮かぶようだぞ、クラウス」
「だから、違うといっているだろう!」
「何がどう違うというんだ、クラウス。
一応言っておくが、私にそちらの性癖はないぞ、クラウス。
まさか私を相手に妄想していないだろうな、クラウス」
「いや、それは……」
そ こ で 図 星 み た い な 顔 を す る ん じ ゃ な い !
叫びそうになったラバンだが、なんとか飲み込んだ。
あまり突っ込んで、一部の婦女子が喜びそうな展開が現実になってはたまらない。
自分にそちらの適正はないのだ。
クラウスはクラウスで、よき理解者を見つけてくれればいい。
そう判断したラバンはさっさと話を切り上げにかかった。
「私はそろそろ失礼するよ。
ちょっと趣味、じゃない、薬学の調査で、フラネイル領のリヴァンク村に行かなければならないからね」
「ラバン!? ちょっと待ってくれ! その村にはイザラが……」
「ああ、大丈夫、イザラ嬢には、まだ何も言わないから安心してくれ給え」
叫ぶクラウスから逃げるように、部屋の扉を閉める。
自分で言っておいてなんだが、何を安心しろというのだろう?
いかん。具体的な想像を始めると、背筋が寒くなって来た。
身の危険を本能的に感じ、扉の前にいた衛兵に金貨を差し出すラバン。
「王子は重症だ。
薬を渡しておいたから、
決 し て 、
絶 対 に 、
何 が あ っ て も、
部屋から出さぬように」
「はっ! お任せください、ラバン様!」
いやはや、まさか、クラウスがここまでこじらせていたとは。
王位継承者というのは、やはりいろいろと抱えているものなのだろうか。
久々に身の危険を感じた。
ここはさっさとリヴァンク村へ逃亡、もとい、視察へ行かせてもらおう。
時期的にも、あと数日で夏休みだ。
いい気分転換になるし、薬を投与された家畜を観察なり解剖なりすれば、「神の種」の解毒のヒントを得られるかもしれない。
ラバンは寮へ戻ると、休暇中の予定を伝えるべく、使用人へと連絡を入れた。
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