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がくえん・裏!~なぜ悪役令嬢はバッドエンドに至ったのか
●09裏-3_攻略対象その1は悪役令嬢に出会った!
しおりを挟むフラネイル領リヴァンク村。
王都から遠く、馬車を乗り継いでも数日はかかる距離で、どちらかというと辺境と呼べる地方に位置する田舎町である。
北には辺境らしい農地がひろがり、南には交易路が通っているものの、少し西には別の交易路との交点となる巨大な交易都市が、東には辺境伯領の城塞都市が広がっているせいで、「田舎町」以上には発展しない。
そんな小さな村の小さな宿屋に、いかにも貴族が乗っていますというかのような、豪奢な馬車が止まった。
降りてきたのは、長身を執事服で包んだ、灰色の髪の男。
男は警戒、というより威嚇するように軽く周囲を見渡した後、慣れた動きで馬車のドアの横へと控える。
同時、馬車から真っ赤な絨毯が伸びた。
場違いな絨毯に足をつけたのは、ラバン。
いかにもうんざりした顔で、控える執事服の男に問いかける。
「いつも思うのだが、こういうのは無駄じゃないかね、セバスチャン?」
「左様でございますな、ラバン様」
「左様だと思うんなら、止めて欲しいのだが」
「左様でございますな、ラバン様」
「つまり、君の自制心ではどうしようもないと言いたいのかね?」
「左様でございますな、ラバン様」
会話の通り、セバスチャンと呼ばれた男は、ラバンの執事兼護衛――なのだが、クラウスの擁する衛兵と比べると、どうにもやる気が足りない。何を聞いても「左様でございますな」を連発し、淡々と王族の様式美を強行し続ける。
さっさと首にしたいところだが、護衛の腕に限っては超一流。過去の武勇伝も壮絶で、なんでも隣国との戦争で、なんとかいう武術で大立ち回り、勲章まで授与されたという。そんな人物をそう簡単には首にするわけにもいかず、結果、どうでもいい役割、すなわちラバンの思いつきのお供に使われている。
要は、厄介払いである。
厄介者を押し付けるなと言いたいところだが、予備の予備とはいえ、第三王子が思い付きを好きに実行できる代償と思えば、やむを得ないのも事実。
「い、いらっしゃいませ!
お、お、お部屋は、最上階の部屋をご用意させていただいておりますっ!」
こうして、宿屋の受付嬢を委縮させても、受け入れるしかないのだ。
ラバンはうんざりした顔を何とか笑顔に変え、受付嬢に詫び代わりのチップを与えてから、案内された部屋へと向かった。
他の部屋よりも豪華な装飾の扉を開けると、それなりの調度品で彩られた内装。
バルコニーからは、緑に彩られた白い壁が並ぶ街を一望できる。
窓を開くと、夏の暑い、しかし不快でない風が部屋を通り抜けた。
「なかなかいい部屋じゃないか」
「左様でございますな、ラバン様」
「まあ、我々が来たのは観光ではなく調査だから、少し休んだらすぐにフラネイルの農場に向かう事になるがね」
「左様でございますな、ラバン様」
「そこは、かしこまりました、と言って、準備を始めるところではないかね」
「左様でございますな、ラバン様」
まわりくどいやり取りを交わしてから、ようやく準備を始めるセバスチャン。
準備、といっても、大したことはない。動きやすい服装に着替え、セバスチャンが巨大なバックパックを背負い、ラバンは調査に使う試薬やら、サンプルを採取するためのビンやらが入った小さなカバンをひっかけるだけだ。
まったく、動き出せばすぐ終わるのだから、茶番に余計な時間を使わなければいいものを。
口に出すとさらに時間がかかりそうな感想を飲み込み、「行こうか」と声をかけるラバン。セバスチャンはいつもの「左様でございますな」で答え、ドアへと歩き出そうとする。
が、その前に、部屋のドアが「鳴った」。
ノックではない。
ガチャガチャと、鍵のかかった錠をいじる音が響く。
顔を見合わせる二人。
硬直は一瞬。
バックパックを下ろし、ナイフを引き抜いて扉越しに様子を伺うセバスチャン。
ラバンはサーベルを引き抜き、部屋の奥で待機。
軽く視線を合わせた後、セバスチャンが、扉を開く。
同時、男が飛び込んできた!
素早く身をかがめ、セバスチャンが足払いをかける!
勢いのまま突っ込んできた男かに、サーベルを突きつけるラバン!
が、男はサーベルを掴んだ!
いや、掴んだ、と言っていいものか。
男の腕は、植物のツタのような触手で出来ていたのだから。
(っ! まるで寄生虫だな!)
サーベルの刃を這いずりまわる触手に抱いた本能的な嫌悪感に任せて、サーベルを振りほどこうとするも、細い見た目にそぐわぬ強い力に阻まれる!
が、セバスチャンのナイフが一閃!
斬り飛ばされる触手!
自由になったサーベルを、容赦なく男の胸に突き立てるラバン!
男は引きつったように身体をはねさせ――力尽きたように、倒れ込んだ。
沈黙。
しかし、すぐに死んだ男の腕から、肉を引き裂くような音が響いた。
死体の腕が異様に膨らみ、皮膚を破いて、触手が這いずり出す。
それは蜘蛛の脚のように動き、本体らしき、緑色の丸い物体を引きずり出した。
――神の種。
部室で見た種子に比べると大きく膨張しているが、それは間違いなく、ナイアの作った「神の種」だった!
しかし、驚く間もなく、セバスチャンのナイフが、神の種を貫く!
触手は痙攣(けいれん)を繰り返し――、やがて動きを止めた。
「――死んだな。とりあえず、これはサンプルとして持って帰っておくか」
「左様でございますな、ラバン様」
「こういう時くらいまともに話すべきだと思うんだがね、セバスチャン」
「左様でございますな、ラバン様」
「思うだけでなく、実行に移したまえ、セバスチャン」
「……」
無言で明後日の方向を向くセバスチャン。
しかし、その目には警戒の色がはっきりと見える。
ふざけたやり取りで主の緊張を解きつつ、異常事態の分析を進めているのだろう。
護衛に限れば、優秀な男なのだ。
「とりあえず、受付へ向かおう。宿の従業員が何か知っているかもしれない」
「左様でございますな、ラバン様」
「気を付けてくれたまえ。寄生虫が一匹とは思えない」
「左様でございますな、ラバン様」
セバスチャンの先導で部屋を出るラバン。
それとほぼ同時、隣の部屋の扉が開いた。
反射的に構える二人。
部屋から出てきたのは――メイド服の女。
メイドはこちらに気が付くと、素早くナイフを構え、
「待って! ブルネット!」
しかし、イザラの声で、動きを止めた。
(そういえば、クラウスがイザラ嬢も薬草を取りにリヴァンク村へ向かったと言っていたな)
メイドの陰から顔を出したイザラに、眉をひそめるラバン。
が、どこか戸惑った様子のイザラに、すぐに表情を改める。
あまり不安を刺激するわけにはいかない。
「久しぶり……でもないかな、イザラ嬢。
ここで、何が起こっているかは把握しているかね?」
「いえ、お久しぶりです。何が起こっているかは何も……ものすごい音がしましたが、何かあったのですか?」
「ああ、先ほど、妙なのに襲われてね」
先ほどの襲撃を伝えるラバン。
もっとも、「神の種」の話は省き、「魔物のようなもの」とだけ伝えている。
公爵令嬢、それも未来の王妃にジョーク宗教という自らの汚点を伝えるわけにはいかない。
イザラは大きく目を見開き、メイドの方はそんなイザラの手を取った。
「帰りましょう、お嬢様! ええ、今すぐ!」
「お、落ち着いて、ブルネット!
魔物はラバン様が倒してくださったのでしょう?」
「なりません!
今度という今度は、お嬢様の身の安全を優先させていただきます!
古来より人間に寄生する魔物は感染症のように広がると決まっています!
もはや、この村全域が危険というくらいは考えなければ!
『空想生物全集』にもそう書いてありました!」
「そ、そう? ちょっと興味がある本ね、ブルネット」
メイドに詰め寄られ、困惑を深めるイザラ。
セバスチャンといい、どうにもこう扱いにくい従者が多いのだろう?
ラバンはとりあえず落ち着かせようと、話に割り込んだ。
「いや、イザラ嬢、そちらのメイドの言う通り、危険な事は確かだ。
大事を取って避難した方がいいだろう」
「ですが、クラウス様の薬草を取らないと……」
が、返ってきたのはクラウスの身を案じる言葉。
あんなエロ本愛用者は放っておけと言いそうになるのを何とか抑えて、なんとかしてイザラが納得する理由をひねり出す。
「私もクラウスの見舞いに行ったのだがね。
症状を見るに、ここに自生する薬草より、もう少し東の国境側……タイタス領で採れる薬草の方が効果が高いようだ」
「タイタス領というと……満月草ですか? 上薬草と言われている?」
「そう。流石によく勉強しているね」
「いえ、そんな。それより、上薬草はフラネイル領の商人が独占していると聞きます。私が行っても、売ってもらえないのでは?」
「私が紹介状を書こう。今ちょっと遊んでいる宗きょ――失礼、クラブの関係で、向こうの商人とも伝手があるんだ。それに、王子のためとでも言えば、いくらでも協力してくれるさ。商人にとっても、王族と顔を繋ぐのは大きなメリットになるからね」
軽くセバスチャンと目を合わせる。
バックパックを下ろすと、中から証書を取り出すセバスチャン。
この手のフィールドワークを続けていると、急に金が必要になる事があり、念の為にと持ち歩いているものだ。
「そこまでして頂けるのであれば、お受けいたします。
何から何まで申し訳ありません」
「いや、君も未来の王族だからね。このくらいはするさ」
証文にサインを入れ、手渡す。
ぜひとも早く王族になって、早くクラウスを何とかしてくれ、と祈りながら。
「ラバン様はどうなさるのですか?」
「もう少し、この近辺を調べてみるつもりだ。元々、この村に立ち寄ったのも、調査が目的だったからね」
「それは――危険なのでは?」
「なに、私も予備の予備とはいえ、王族だ。民がいる街を放置は出来ないよ」
遠回しに一緒に逃げようという誘いを断る。
イザラも、それはと言いよどんだものの、強く勧めてこないあたり、貴族の義務を理解しているのだろう。
もっとも、ラバンの方は貴族の義務など理由の半分にもなっていない。
原因が本当に神の種だったなら、証拠隠滅のついでに研究用のサンプルを持ち帰ろうと企んでいるだけだ。
「では、私はタイタス様に兵士を出すようお願いしてみます。
ラバン様も、お気をつけて……」
そんなラバンの内心など知らず、最後まで心配をにじませながら、部屋へと戻っていくイザラ。
慌ただしい音が聞こえるあたり、荷物をまとめているのだろう。
なんていい娘なんだ。
将来は立派な女王として国を治めてくれるだろう。
婚約者のせいで、その気苦労はすさまじいことになりそうだが。
せめて、この村の問題くらいはこちらで何とかしなければ。
保身と趣味に多少のやる気を加えながら、ラバンは宿の階段を下りて行った。
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