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第一章 曇った向上心
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案の定、OUTのときも茉紀がインチャージを演じていた。
舞香はゲストが差し出した番号札を受け取り、裏に入りその番号のハンガーのところで止まった。12と彫られた水色の丸い番号札とハンガーに付いている番号を確認する。
「お待たせいたしました、十二番でござい……」
カウンター前にはゲストが誰もいなかった。おそらく他の参加者に呼ばれたか、トイレに行ってしまったのか、どちらかだろう。
舞香は、黒い薄手のジャケットを持ったまま、ホワイエ全体を見回したが、持ち主のゲストが来る気配がない。
(どんな人だっけ……)
舞香はゲストの顔をまぶたの裏に思い浮かべてみたが、顔の輪郭も髪型もあやふやだった。
(服装は?何色の服だっけ……?)
背が高いかどうかも、どんな雰囲気だったかも、何もかも思い出せない。考えれば考えるほど、ゲストのイメージが砂嵐の中に紛れていくようだった。
ゲストがすぐそこに居ても、その人が持ち主だと分からないだろう。舞香は、鋭い視線を走らせたまま、落ち着かない様子で待っていた。
「ゲストがみんな帰ってもまだ取りに来ないようなら、忘れ物としてフロントに引き継いでください」
ゲストが疎らになり、ホワイエには静かな雰囲気が漂っていた。茉紀はそんなホワイエを背にして、淡々と指示してきた。その口調は丁寧で敬語も使っているにもかかわらず、威圧感があった。
カウンターの横付近で立ち話をしていたゲスト二人が今度はゆっくりと歩きながら、エレベーターに近づいて行った。二人のおしゃべりはまだ続いている。
左側の女性は水彩画風の模様の入ったカットソーを着ていた。
(あの青とピンクと白の模様を私、知ってるかもしれない……)
この黒ジャケットの持ち主かもと思ったが、舞香には自信がなかった。エレベーターが二人を乗せて行ってしまうと、それと入れ替わりに五階にエレベーターが到着した。降りてきたのは慌てた様子の年配の女性。舞香の手元の黒ジャケットを見ると、急いで駆け寄り話しかけてきた。
「外に出たらちょっと寒くて……この中暑いから忘れちゃうんですよー」
舞香から丁寧な手つきでジャケットを受け取ると、再び降りて行った。
舞香は誰もいなくなったホワイエを一周して忘れ物がないか確認していた。これは五階クロークのクローズ業務の一つだ。クローズというのはクロークカウンターを閉めることで、それは「営業時間終了」という意味になる。
ちょうど一番奥の宴会場前まで来たときに、舞香はソファに黒いジャケットが掛けてあるのを見つけた。
(あれ?さっきの年配女性の忘れたジャケットて……もしかしてこれ?)
舞香は、はっと息を呑んだ。すると、後ろから声がかかる。振り向くと、青とピンクと白の水彩画風の柄のカットソーを着た女性が立っていた。
「先ほど十二番で預けたんですが、受け取るのを忘れてしまって……」
舞香は、とっさに言葉が見つからず、ゲストに対してあからさまに不安そうな顔をしてしまった。
舞香はゲストが差し出した番号札を受け取り、裏に入りその番号のハンガーのところで止まった。12と彫られた水色の丸い番号札とハンガーに付いている番号を確認する。
「お待たせいたしました、十二番でござい……」
カウンター前にはゲストが誰もいなかった。おそらく他の参加者に呼ばれたか、トイレに行ってしまったのか、どちらかだろう。
舞香は、黒い薄手のジャケットを持ったまま、ホワイエ全体を見回したが、持ち主のゲストが来る気配がない。
(どんな人だっけ……)
舞香はゲストの顔をまぶたの裏に思い浮かべてみたが、顔の輪郭も髪型もあやふやだった。
(服装は?何色の服だっけ……?)
背が高いかどうかも、どんな雰囲気だったかも、何もかも思い出せない。考えれば考えるほど、ゲストのイメージが砂嵐の中に紛れていくようだった。
ゲストがすぐそこに居ても、その人が持ち主だと分からないだろう。舞香は、鋭い視線を走らせたまま、落ち着かない様子で待っていた。
「ゲストがみんな帰ってもまだ取りに来ないようなら、忘れ物としてフロントに引き継いでください」
ゲストが疎らになり、ホワイエには静かな雰囲気が漂っていた。茉紀はそんなホワイエを背にして、淡々と指示してきた。その口調は丁寧で敬語も使っているにもかかわらず、威圧感があった。
カウンターの横付近で立ち話をしていたゲスト二人が今度はゆっくりと歩きながら、エレベーターに近づいて行った。二人のおしゃべりはまだ続いている。
左側の女性は水彩画風の模様の入ったカットソーを着ていた。
(あの青とピンクと白の模様を私、知ってるかもしれない……)
この黒ジャケットの持ち主かもと思ったが、舞香には自信がなかった。エレベーターが二人を乗せて行ってしまうと、それと入れ替わりに五階にエレベーターが到着した。降りてきたのは慌てた様子の年配の女性。舞香の手元の黒ジャケットを見ると、急いで駆け寄り話しかけてきた。
「外に出たらちょっと寒くて……この中暑いから忘れちゃうんですよー」
舞香から丁寧な手つきでジャケットを受け取ると、再び降りて行った。
舞香は誰もいなくなったホワイエを一周して忘れ物がないか確認していた。これは五階クロークのクローズ業務の一つだ。クローズというのはクロークカウンターを閉めることで、それは「営業時間終了」という意味になる。
ちょうど一番奥の宴会場前まで来たときに、舞香はソファに黒いジャケットが掛けてあるのを見つけた。
(あれ?さっきの年配女性の忘れたジャケットて……もしかしてこれ?)
舞香は、はっと息を呑んだ。すると、後ろから声がかかる。振り向くと、青とピンクと白の水彩画風の柄のカットソーを着た女性が立っていた。
「先ほど十二番で預けたんですが、受け取るのを忘れてしまって……」
舞香は、とっさに言葉が見つからず、ゲストに対してあからさまに不安そうな顔をしてしまった。
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