14 / 45
第五章
第十四話
しおりを挟む
ロードリックとの距離が縮まらないまま、時間だけが漫然と過ぎていく。リビングで読書をしつつも、頭の中は文面を追ってはいなかった。
どうすればロードリックに好きになって貰えるだろう。そんな事ばかり考えてしまう。
プレゼントを沢山してみる?
編みあがった手袋はもう彼に渡してある。偶に私服で過ごせる日があれば使っていて、気に入ってはくれているのだろう。けれどどちらかというと、私への気遣いの範囲な気もしてくる。
そもそも何が欲しいのかもよく分からない。財力があり、殆ど何でも手に入る人へ物を送るのがとても難しい事であるのを、この状況になって初めて知った。
そうなると無難な必ず必要とされるような男性用小物……例えば財布などに落ち着いてしまうのだろうが、私は監視されている身である。
天来衆の人達の態度が少し和らいではいるが、外出を許可してくれるまでに信頼を得ているとも思えなかった。唯一外出の許可を条件付きで認めてくれそうなのはロードリックであるが、まさか本人に理由を説明する訳にもいかない。
悶々と悩んでいると、傍で紅茶を入れてくれていたザラさんが小さく笑う声が聞こえた。
「心ここにあらず、ですね。さっきから頁が動いていませんよ」
見透かされた事が恥ずかしく、頬が赤くなってしまう。
「え、と。そんな事は」
「ロードリック様の事ですか?」
誤魔化す前に言い当てられてしまった。姉のような雰囲気の彼女には意地を張り辛く、大人しく頷いて肯定した。
「天来衆の皆さんにはまたロードリックの邪魔をするなって言われるかもしれないけど、折角夫婦になったからにはもっと仲良くなりたいんです」
「……そうですよね。クラリス様は人間ですものね」
その声は何処か遠く、在りし日の誰かを思い出しているのを伝えてくる。けれどすぐさま気を取り直し、ザラさんは言った。
「皆の気持ちも分かりますが、私はクラリス様のお好きになさったらいいと思います。転ぶかもしれないと、ずっと子供を抱えて歩くのが愛情だとは思いませんから」
彼女の例えが私にはよく分からなかった。そしてザラさんはそれを説明してくれる気配もなく、言葉を続ける。
「それで、何かいい案は思いつきました?」
「それがちっとも。お金で買えるようなものは全部もっていますし、私が何か作っても気を遣わせるだけな気がしてしまって」
「それなら、デートはいかがでしょう?」
「デート?」
「はい。気分転換に外に行きたいと言えば、連れ出して下さるんじゃないですか?」
自分では考え付かなかった提案に目を見開いた。
「それです」
何とも自然な誘い方である。尊敬の眼差しをザラさんに向け、早速実行しようと思った所で懸念すべき事を思い出す。
「でも最近とても忙しいみたいなんですよね。今日もずっと書斎に籠りきりですし」
忙しくなると言っていた通り、ロードリックは夜遅くまで作業をしているようだった。
仕事の邪魔にならないようにそっとしているので、顔を合わせる機会がそもそも少なくなっている。
「ええ。ですから少し様子を見に行ってくれませんか? 丁度一息つけると思うんです」
「書斎に入っても大丈夫ですか?」
「扉を軽く叩いてみて下さい。取り込み中なら言って下さると思います」
ザラさんに背中を押され、彼に会いに行ってみる事にした。二階の書斎前に立って中の音に聞き耳を立ててみると、書類を纏めるような音が聞こえてくる。
勇気を出して、軽く扉を叩いてみた。
「……はい」
「私です。クラリスです」
扉にロードリックが近づいてくる足音が聞こえる。そして扉が開かれ、今日初めて目にした彼の姿に驚いた。
何度見ても見とれてしまう整った顔立ちは変わらないが、目の下にくっきりとした隈が浮き上がっている。病を抱える薄命の美人。そんな雰囲気だった。
「どうしましたか?」
ロードリックは珍しく私が書斎の扉を叩いた事に首を傾げていた。
「ずっと籠っているから心配になってしまって。……寝てないんですか?」
「ええ。昨日は少し遅くまで作業がありまして。ご心配ありがとうございます」
そう言って目頭を指で解している。相当疲れが蓄積しているようで、心なしか声にも覇気がない。こんな状態のロードリックを見て外出など言いづらくなってしまった。
「少しだけ、休まれてはどうでしょうか?」
ザラさんが様子を見に行くのを勧める訳だ。こんな状態を何日も続けていたら、本当に倒れてしまうだろう。
ロードリックは私の顔を虚ろな目でぼうっと眺め、首を縦に振った。
どうすればロードリックに好きになって貰えるだろう。そんな事ばかり考えてしまう。
プレゼントを沢山してみる?
編みあがった手袋はもう彼に渡してある。偶に私服で過ごせる日があれば使っていて、気に入ってはくれているのだろう。けれどどちらかというと、私への気遣いの範囲な気もしてくる。
そもそも何が欲しいのかもよく分からない。財力があり、殆ど何でも手に入る人へ物を送るのがとても難しい事であるのを、この状況になって初めて知った。
そうなると無難な必ず必要とされるような男性用小物……例えば財布などに落ち着いてしまうのだろうが、私は監視されている身である。
天来衆の人達の態度が少し和らいではいるが、外出を許可してくれるまでに信頼を得ているとも思えなかった。唯一外出の許可を条件付きで認めてくれそうなのはロードリックであるが、まさか本人に理由を説明する訳にもいかない。
悶々と悩んでいると、傍で紅茶を入れてくれていたザラさんが小さく笑う声が聞こえた。
「心ここにあらず、ですね。さっきから頁が動いていませんよ」
見透かされた事が恥ずかしく、頬が赤くなってしまう。
「え、と。そんな事は」
「ロードリック様の事ですか?」
誤魔化す前に言い当てられてしまった。姉のような雰囲気の彼女には意地を張り辛く、大人しく頷いて肯定した。
「天来衆の皆さんにはまたロードリックの邪魔をするなって言われるかもしれないけど、折角夫婦になったからにはもっと仲良くなりたいんです」
「……そうですよね。クラリス様は人間ですものね」
その声は何処か遠く、在りし日の誰かを思い出しているのを伝えてくる。けれどすぐさま気を取り直し、ザラさんは言った。
「皆の気持ちも分かりますが、私はクラリス様のお好きになさったらいいと思います。転ぶかもしれないと、ずっと子供を抱えて歩くのが愛情だとは思いませんから」
彼女の例えが私にはよく分からなかった。そしてザラさんはそれを説明してくれる気配もなく、言葉を続ける。
「それで、何かいい案は思いつきました?」
「それがちっとも。お金で買えるようなものは全部もっていますし、私が何か作っても気を遣わせるだけな気がしてしまって」
「それなら、デートはいかがでしょう?」
「デート?」
「はい。気分転換に外に行きたいと言えば、連れ出して下さるんじゃないですか?」
自分では考え付かなかった提案に目を見開いた。
「それです」
何とも自然な誘い方である。尊敬の眼差しをザラさんに向け、早速実行しようと思った所で懸念すべき事を思い出す。
「でも最近とても忙しいみたいなんですよね。今日もずっと書斎に籠りきりですし」
忙しくなると言っていた通り、ロードリックは夜遅くまで作業をしているようだった。
仕事の邪魔にならないようにそっとしているので、顔を合わせる機会がそもそも少なくなっている。
「ええ。ですから少し様子を見に行ってくれませんか? 丁度一息つけると思うんです」
「書斎に入っても大丈夫ですか?」
「扉を軽く叩いてみて下さい。取り込み中なら言って下さると思います」
ザラさんに背中を押され、彼に会いに行ってみる事にした。二階の書斎前に立って中の音に聞き耳を立ててみると、書類を纏めるような音が聞こえてくる。
勇気を出して、軽く扉を叩いてみた。
「……はい」
「私です。クラリスです」
扉にロードリックが近づいてくる足音が聞こえる。そして扉が開かれ、今日初めて目にした彼の姿に驚いた。
何度見ても見とれてしまう整った顔立ちは変わらないが、目の下にくっきりとした隈が浮き上がっている。病を抱える薄命の美人。そんな雰囲気だった。
「どうしましたか?」
ロードリックは珍しく私が書斎の扉を叩いた事に首を傾げていた。
「ずっと籠っているから心配になってしまって。……寝てないんですか?」
「ええ。昨日は少し遅くまで作業がありまして。ご心配ありがとうございます」
そう言って目頭を指で解している。相当疲れが蓄積しているようで、心なしか声にも覇気がない。こんな状態のロードリックを見て外出など言いづらくなってしまった。
「少しだけ、休まれてはどうでしょうか?」
ザラさんが様子を見に行くのを勧める訳だ。こんな状態を何日も続けていたら、本当に倒れてしまうだろう。
ロードリックは私の顔を虚ろな目でぼうっと眺め、首を縦に振った。
0
あなたにおすすめの小説
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―
佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。
19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。
しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。
突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。
「焦らず、お前のペースで進もう」
そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。
けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。
学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。
外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。
「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」
余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。
理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。
「ゆっくり」なんて、ただの建前。
一度火がついた熱は、誰にも止められない。
兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる