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第三十四話
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ダフネとエミリアーノはカミルの町からハハビナの町に行く寄合馬車に乗り、凹凸のある道に揺れながら狭苦しく座っていた。
何故ならあの三人がこの馬車を利用していたからである。
「あの二人……ずっとあの調子ですよ」
エミリアーノが小声でダフネに、光のない目でそう言った。彼の視線の先には黒髪の女性を自らの足の上に乗せ、片時も離さない茶髪の青年の姿があった。
決して快適ではない馬車である。女性一人の重さを上に乗せ続けるなど、大した献身ぶりだった。
金髪の青年の方はもう慣れているのか、全く気にもせず目を閉じて転寝をしているようである。
「あの容姿だしな。牽制の意味もあるんじゃないか」
茶髪の青年は街中でも頻繁に女性達に振り向かれていたほどの顔立ちである。
しかし彼女達は恋人を見る彼の目を見て、早々に諦めて残念そうに視線を外していた。
いくら見た目が良くても、これだけ恋人に張り付いている男性に寄りつく気概のある女性は少ないだろう。
「いいなぁ……恋人と一緒に旅とか。僕なんか作る暇もないのに」
「仕事が恋人でいいだろ」
「酷い。誰のせいで……」
ぶつぶつと呟くエミリアーノにダフネは聞こえないふりをした。此処までエミリアーノを引っ張ってきたのはダフネであるから、時間的な制約は間違いなくダフネのせいである。
彼に機会がそもそもあったのかは知らないが。
「でも、本当に彼等は強いんですか? 無駄足にならないと良いんですけど」
「恐らくな。ギルドでモンスターの情報を見てたにも関わらず、ハハビナの町を態々選んで行くのがその証拠だ。あそこの周辺には今、バジリスクが出る」
エミリアーノは碌に情報も覚えていないままダフネについて来たのか、隣で絶句した。
バジリスクは蛇型のモンスターで、猛毒を持ち視線だけで人を石化させる。
対策をしようにも視線を避けるという事がそもそも難しく、ギルドに依頼が来ても進んで討伐したがる者はいない厄介なA級モンスターだった。
「……カミルに帰ってもいいですか?」
「一人でな」
冷たく突き放すと、エミリアーノは膝を抱えて泣くふりをした。それを無視しつつ、ダフネはギルドの受付係から聞いた話を思い出す。
ギルドで最近、難易度の高いモンスターが人知れず消えているという事が相次いでいるという。
場所を移動したような痕跡もなく、どうやら誰かが討伐したもののギルドに報告していないのではという話だった。
そんな事をするメリットは一体何だろうか。ギルドに報告すれば、名誉も危険に応じた賞金も手に入るというのに。
ふと、ダフネの冒険者としての感覚が何かを捉える。それが何か正体を掴もうと、外を確認するために立ち上がろうとした。
しかしその前に馬車が急に止まった。まだ目的地のハハビナの町には遠い距離だというのに。
「何があったんでしょう?」
エミリアーノの問いに答えたのは御者だった。
「お客さん、すみませんがこれ以上進めません。引き返すので、乗って一緒に帰るか自分の足で進むか決めてください」
「何があった?」
「オークのマーキングがそこら中についています」
違和感の正体はそれだったようだ。
強いモンスターが現れた時、それまでその場所を縄張りにしていたモンスターが移動するのはよくある事だ。オークもバジリスクに追われて場所を移動したのだろう。
あの三人がどう動くか見ていると、どうやら馬車を降りる選択をしたらしい。
「私達も降りるか」
馬車は五人を降ろすと、そそくさとカミルの町に引き返して行った。
残されたダフネ達が先を行こうと足を進めると、馬車を共に降りた連帯感からか黒髪の女性がダフネに向かって笑顔を向ける。
「こんにちは」
「どうも」
彼方から話しかけてくれたのは好機だった。ダフネは普段よりは愛想よく返事を返す。
「大変な事になっちゃいましたね」
「……別に、よくある事だろう」
実際モンスターが溢れているこの世界では、この程度の事は日常茶飯事だった。
女性は驚いたような顔をして勉強になります、と口にする。どうやら旅に慣れていないらしい。
「所で、どうしてこの先の町へ行くんだ?」
「え、えっと……観光です!」
下手な嘘だった。この辺りに名所となるような場所は無い。オークのマーキングを越えて行くような理由でもなかった。
けれどこれでどうやら隠さねばならない事情がある事は分かった。
あえて追及もせず、ダフネは「そうか」と相槌を打つ。
ダフネ達に友好的な態度なのはこの女性だけで、後の二人の青年はどうでもよさそうな表情をして会話には混じらない。
ならば、今後お願いをする時の為に彼女とは仲良くなっておかなければならないだろう。
適当な話題を振ろうと口を開きかけた所で、先を歩いていた二人の青年が同時にぴたりと足を止めた。
「数が多いな。オズワルド、お前が一人でやれ」
「ええーっ、そうしてもいいけど滅茶苦茶目立つよ? 僕の二つ名忘れた? ヴァージル」
どうやら茶髪の青年がヴァージルで、金髪の青年がオズワルドらしい。
そして彼等から少し遅れて、ダフネもこの場所に近寄る気配を感じ取った。
何故ならあの三人がこの馬車を利用していたからである。
「あの二人……ずっとあの調子ですよ」
エミリアーノが小声でダフネに、光のない目でそう言った。彼の視線の先には黒髪の女性を自らの足の上に乗せ、片時も離さない茶髪の青年の姿があった。
決して快適ではない馬車である。女性一人の重さを上に乗せ続けるなど、大した献身ぶりだった。
金髪の青年の方はもう慣れているのか、全く気にもせず目を閉じて転寝をしているようである。
「あの容姿だしな。牽制の意味もあるんじゃないか」
茶髪の青年は街中でも頻繁に女性達に振り向かれていたほどの顔立ちである。
しかし彼女達は恋人を見る彼の目を見て、早々に諦めて残念そうに視線を外していた。
いくら見た目が良くても、これだけ恋人に張り付いている男性に寄りつく気概のある女性は少ないだろう。
「いいなぁ……恋人と一緒に旅とか。僕なんか作る暇もないのに」
「仕事が恋人でいいだろ」
「酷い。誰のせいで……」
ぶつぶつと呟くエミリアーノにダフネは聞こえないふりをした。此処までエミリアーノを引っ張ってきたのはダフネであるから、時間的な制約は間違いなくダフネのせいである。
彼に機会がそもそもあったのかは知らないが。
「でも、本当に彼等は強いんですか? 無駄足にならないと良いんですけど」
「恐らくな。ギルドでモンスターの情報を見てたにも関わらず、ハハビナの町を態々選んで行くのがその証拠だ。あそこの周辺には今、バジリスクが出る」
エミリアーノは碌に情報も覚えていないままダフネについて来たのか、隣で絶句した。
バジリスクは蛇型のモンスターで、猛毒を持ち視線だけで人を石化させる。
対策をしようにも視線を避けるという事がそもそも難しく、ギルドに依頼が来ても進んで討伐したがる者はいない厄介なA級モンスターだった。
「……カミルに帰ってもいいですか?」
「一人でな」
冷たく突き放すと、エミリアーノは膝を抱えて泣くふりをした。それを無視しつつ、ダフネはギルドの受付係から聞いた話を思い出す。
ギルドで最近、難易度の高いモンスターが人知れず消えているという事が相次いでいるという。
場所を移動したような痕跡もなく、どうやら誰かが討伐したもののギルドに報告していないのではという話だった。
そんな事をするメリットは一体何だろうか。ギルドに報告すれば、名誉も危険に応じた賞金も手に入るというのに。
ふと、ダフネの冒険者としての感覚が何かを捉える。それが何か正体を掴もうと、外を確認するために立ち上がろうとした。
しかしその前に馬車が急に止まった。まだ目的地のハハビナの町には遠い距離だというのに。
「何があったんでしょう?」
エミリアーノの問いに答えたのは御者だった。
「お客さん、すみませんがこれ以上進めません。引き返すので、乗って一緒に帰るか自分の足で進むか決めてください」
「何があった?」
「オークのマーキングがそこら中についています」
違和感の正体はそれだったようだ。
強いモンスターが現れた時、それまでその場所を縄張りにしていたモンスターが移動するのはよくある事だ。オークもバジリスクに追われて場所を移動したのだろう。
あの三人がどう動くか見ていると、どうやら馬車を降りる選択をしたらしい。
「私達も降りるか」
馬車は五人を降ろすと、そそくさとカミルの町に引き返して行った。
残されたダフネ達が先を行こうと足を進めると、馬車を共に降りた連帯感からか黒髪の女性がダフネに向かって笑顔を向ける。
「こんにちは」
「どうも」
彼方から話しかけてくれたのは好機だった。ダフネは普段よりは愛想よく返事を返す。
「大変な事になっちゃいましたね」
「……別に、よくある事だろう」
実際モンスターが溢れているこの世界では、この程度の事は日常茶飯事だった。
女性は驚いたような顔をして勉強になります、と口にする。どうやら旅に慣れていないらしい。
「所で、どうしてこの先の町へ行くんだ?」
「え、えっと……観光です!」
下手な嘘だった。この辺りに名所となるような場所は無い。オークのマーキングを越えて行くような理由でもなかった。
けれどこれでどうやら隠さねばならない事情がある事は分かった。
あえて追及もせず、ダフネは「そうか」と相槌を打つ。
ダフネ達に友好的な態度なのはこの女性だけで、後の二人の青年はどうでもよさそうな表情をして会話には混じらない。
ならば、今後お願いをする時の為に彼女とは仲良くなっておかなければならないだろう。
適当な話題を振ろうと口を開きかけた所で、先を歩いていた二人の青年が同時にぴたりと足を止めた。
「数が多いな。オズワルド、お前が一人でやれ」
「ええーっ、そうしてもいいけど滅茶苦茶目立つよ? 僕の二つ名忘れた? ヴァージル」
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