暴食のヴァージル~最凶の殺し屋と友達になりました~

百花

文字の大きさ
34 / 64

第三十四話

しおりを挟む
 ダフネとエミリアーノはカミルの町からハハビナの町に行く寄合馬車に乗り、凹凸のある道に揺れながら狭苦しく座っていた。
 何故ならあの三人がこの馬車を利用していたからである。

「あの二人……ずっとあの調子ですよ」

 エミリアーノが小声でダフネに、光のない目でそう言った。彼の視線の先には黒髪の女性を自らの足の上に乗せ、片時も離さない茶髪の青年の姿があった。
 決して快適ではない馬車である。女性一人の重さを上に乗せ続けるなど、大した献身ぶりだった。
 金髪の青年の方はもう慣れているのか、全く気にもせず目を閉じて転寝をしているようである。

「あの容姿だしな。牽制の意味もあるんじゃないか」

 茶髪の青年は街中でも頻繁に女性達に振り向かれていたほどの顔立ちである。
 しかし彼女達は恋人を見る彼の目を見て、早々に諦めて残念そうに視線を外していた。
 いくら見た目が良くても、これだけ恋人に張り付いている男性に寄りつく気概のある女性は少ないだろう。

「いいなぁ……恋人と一緒に旅とか。僕なんか作る暇もないのに」
「仕事が恋人でいいだろ」
「酷い。誰のせいで……」

 ぶつぶつと呟くエミリアーノにダフネは聞こえないふりをした。此処までエミリアーノを引っ張ってきたのはダフネであるから、時間的な制約は間違いなくダフネのせいである。
 彼に機会がそもそもあったのかは知らないが。

「でも、本当に彼等は強いんですか? 無駄足にならないと良いんですけど」
「恐らくな。ギルドでモンスターの情報を見てたにも関わらず、ハハビナの町を態々選んで行くのがその証拠だ。あそこの周辺には今、バジリスクが出る」

 エミリアーノは碌に情報も覚えていないままダフネについて来たのか、隣で絶句した。
 バジリスクは蛇型のモンスターで、猛毒を持ち視線だけで人を石化させる。
 対策をしようにも視線を避けるという事がそもそも難しく、ギルドに依頼が来ても進んで討伐したがる者はいない厄介なA級モンスターだった。

「……カミルに帰ってもいいですか?」
「一人でな」

 冷たく突き放すと、エミリアーノは膝を抱えて泣くふりをした。それを無視しつつ、ダフネはギルドの受付係から聞いた話を思い出す。
 ギルドで最近、難易度の高いモンスターが人知れず消えているという事が相次いでいるという。
 場所を移動したような痕跡もなく、どうやら誰かが討伐したもののギルドに報告していないのではという話だった。
 そんな事をするメリットは一体何だろうか。ギルドに報告すれば、名誉も危険に応じた賞金も手に入るというのに。
 ふと、ダフネの冒険者としての感覚が何かを捉える。それが何か正体を掴もうと、外を確認するために立ち上がろうとした。
 しかしその前に馬車が急に止まった。まだ目的地のハハビナの町には遠い距離だというのに。

「何があったんでしょう?」

 エミリアーノの問いに答えたのは御者だった。

「お客さん、すみませんがこれ以上進めません。引き返すので、乗って一緒に帰るか自分の足で進むか決めてください」
「何があった?」
「オークのマーキングがそこら中についています」

 違和感の正体はそれだったようだ。
 強いモンスターが現れた時、それまでその場所を縄張りにしていたモンスターが移動するのはよくある事だ。オークもバジリスクに追われて場所を移動したのだろう。
 あの三人がどう動くか見ていると、どうやら馬車を降りる選択をしたらしい。

「私達も降りるか」

 馬車は五人を降ろすと、そそくさとカミルの町に引き返して行った。
 残されたダフネ達が先を行こうと足を進めると、馬車を共に降りた連帯感からか黒髪の女性がダフネに向かって笑顔を向ける。

「こんにちは」
「どうも」

 彼方から話しかけてくれたのは好機だった。ダフネは普段よりは愛想よく返事を返す。

「大変な事になっちゃいましたね」
「……別に、よくある事だろう」

 実際モンスターが溢れているこの世界では、この程度の事は日常茶飯事だった。
 女性は驚いたような顔をして勉強になります、と口にする。どうやら旅に慣れていないらしい。

「所で、どうしてこの先の町へ行くんだ?」
「え、えっと……観光です!」

 下手な嘘だった。この辺りに名所となるような場所は無い。オークのマーキングを越えて行くような理由でもなかった。
 けれどこれでどうやら隠さねばならない事情がある事は分かった。
 あえて追及もせず、ダフネは「そうか」と相槌を打つ。
 ダフネ達に友好的な態度なのはこの女性だけで、後の二人の青年はどうでもよさそうな表情をして会話には混じらない。
 ならば、今後お願いをする時の為に彼女とは仲良くなっておかなければならないだろう。
 適当な話題を振ろうと口を開きかけた所で、先を歩いていた二人の青年が同時にぴたりと足を止めた。

「数が多いな。オズワルド、お前が一人でやれ」
「ええーっ、そうしてもいいけど滅茶苦茶目立つよ? 僕の二つ名忘れた? ヴァージル」

 どうやら茶髪の青年がヴァージルで、金髪の青年がオズワルドらしい。
 そして彼等から少し遅れて、ダフネもこの場所に近寄る気配を感じ取った。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

処理中です...