暴食のヴァージル~最凶の殺し屋と友達になりました~

百花

文字の大きさ
33 / 64

第三十三話

しおりを挟む

 カミルの冒険者ギルドはモンスター討伐依頼の受発注だけではなく、ギルド公認の商店や休憩室が備えられている大きな施設を所有していた。
 受付カウンター近くに置かれた椅子に座るのはA級冒険者であるダフネと、その相方のB級冒険者エミリアーノの二人だ。
 ダフネは肩までの長さの金髪を後ろで括り、鋭い視線を行き交う冒険者達に向けている。
 剣を主体に戦う為筋肉はついているものの顔立ちは美しく整っており、男が多いこの場所で彼女にちょっかいをかける者がいないのは偏にA級の実力者であるからだった。
 一方エミリアーノは緑髪の青年であり、気の弱そうに見えるのはダフネの顔を窺っているからだろう。支援型の魔術師で、この二人組は最近カミルにやってきた冒険者達の中でも一際優秀だった。

「雑魚ばかりだな」

 吐き捨てるようなダフネの言い方に、周りに聞かれてやしないかと肝を冷やしたエミリアーノが慌てて言った。

「ダフネ、駄目ですって。口に出しちゃ!」
「だがそうだろう? 私達よりも強い者が、どれだけいる」

 それにはエミリアーノも同意して、諦めたように溜息を吐く。
 二人はある事情により強い冒険者を探していた。首都にはS級の冒険者も複数所属していたのだが、彼らの依頼を受けてくれる者はいなかった。それで仕方なくカミルにまで足を延ばしたのである。
 この近隣ではカミルが一番大きなギルドで、情報収集力も、所属冒険者数も地域で一番多い筈だった。
 しかしやはり規模が首都に劣るからか、めぼしい者はいない。
 ダフネがカミルの町に見切りをつけようかと考えた所で、気になる三人組が目に入った。
 腰から剣を下げた明るい茶髪の青年と、魔術師らしき金髪の青年。そして如何にも一般人に見える華奢な黒髪の女性だった。
 男性二人のギルドに慣れた様子と、興味深げに視線をさ迷わせている女性の姿が対照的だ。

 妙な組み合わせだな。

 金持ちが娘に護衛を二人つけたのだろうか。
 冒険者証であるプレートを付けていないので旅人に違いない。ギルドにはモンスターの情報も集まって来るので、旅人が旅程を決める為にこの場所に来るのはよくある事だった。

 まあ、どうでもいいか。

 興味を失って視線を外すと、ダフネの耳に近くの冒険者達の下世話な会話が聞こえてくる。

「見ろよ。あの慣れてない感じ。ああいうのが一番、乱れると凄いんだよな」
「二人もコブ付きじゃねぇか。お前の顔じゃ混ぜてもらえねぇよ」
「いや、案外頼めば一晩ぐらい相手してもらえるんじゃねぇの」

 どうやらあの黒髪の女性に対して、下卑た話をしているようだった。

 くだらない。

 ダフネに面と向かって言ってくる馬鹿は全てねじ伏せて来たが、他の女性に対するものも聞いていて不快にはなる。
 しかしどうやら階級だけは高い者もその会話に混じっており、面倒事を避ける為に聞いていないふりをした。
 一瞬、茶髪の青年が彼らに向かって視線を向けた気がした。
 気のせいかとも思う僅かなその動作。しかし何故か……ダフネの全身を悪寒が支配した。

「な……」

 今のは一体なんだ?

 その正体を掴みかねている内に、三人組はギルドを出て行ってしまう。

「エミリアーノ。気が付いたか?」
「はい? 何かあったんですか?」

 エミリアーノだけではない。この場にいるダフネ以外の全員が、何も起きなかったかのように振舞っている。
 しかしあれは間違いなく気のせいなどでは無い。
 モンスターとの戦いに身を置くダフネは、幾度となくその根拠のない勘のようなものに助けられてきた。何かが起きたのだと確信する。

「ぎゃぁあっ!」

 突然の叫び声に視線を向ければ、先程の下世話な会話をしていた冒険者の足首から鮮やかな血が噴き出していた。
 何が起きたのかも分からないまま、彼は自分の足首を必死で押さえている。
 斬られたような傷だが、腱まで届いていれば今後の生活に深刻な影響が出るかもしれなかった。

「うわぁ……こんなギルド内で、一体誰がやったんでしょうね」

 エミリアーノの言う通り、周囲の者達はお互いに顔を見合わせるばかりで誰がやったのか見当もついていないようだった。
 此処は曲がりなりにもギルドである。多数の冒険者が集まる中で誰にも気付かれずにそんな事を出来る者がいたとしたら間違いなく相当な実力者だろう。
 堪えきれない喜びでダフネの口角が上がっていく。

「エミリアーノ。行くぞ」

 見つけた。

「えっえっ? ダフネ、どうしたんですか?」

 何も分かっていないエミリアーノが突然立ち上がったダフネに驚きつつ後を追う。
 外に出れば、道の先に素知らぬ表情で平然と歩く三人の姿があった。
 あの、明るい茶髪の青年は間違いなく実力者だろう。金髪の青年の実力までは分からないが、彼と共に組んでいるのだからB級以下という事はないに違いない。
 女性からは穏やかな一般人の気配しか感じず、彼女が戦う事はなさそうだった。暫くして明るい茶髪の青年が彼女を見る愛おし気な視線から、恋人なのだろうと気が付く。

「エミリアーノ。まだ確証はないが……彼らが探していた者かもしれない」
「あの三人ですか? 確かに二人は戦えそうですけど、プレートを付けていませんよ?」

 彼の指摘の通り、問題の一つは彼等がギルドに所属していないように見える事だった。

 事情があるのか?

「僕は何となく、彼らは避けた方が良いかと思います。普通の冒険者や傭兵ではなさそうですし」
「選択肢はない。既にギルドを通して、依頼を受理してくれる者はいなかったのだから」

 多少の問題なら目を瞑るつもりだ。こちらは既に正規の方法で散々探した後なのである。
 協力してくれるならばたとえ犯罪者であろうと構わない。

 けれどまずは……彼等の実力を確かめないとな。

 焦る気持ちを抑え、しっかりと見極めようとダフネは彼等に鋭い視線を向けた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

処理中です...