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不思議な少女
しおりを挟む今よりはるか昔、人々は願った。
ーどうか我らに、生きるための力をお与えください。
我らはその力で、この国をより良くして行くことを誓いますー
神は言った。
ー良いだろう、そなた達の願い受け入れようー
遠く、空の彼方から、その地に一筋の光がさした。
その光は、1人の女の腹の中に入り、ゆっくりと消えていった…
月日は流れ、ここ、ソウム国では今日も、勇ましい男たちの、剣術の声が響き渡っている。
世界中の国の中でも、トップクラスの武力を誇るソウム国。
強いのは武力だけではなく、経済力、人口、全てがこの世界で最強だ。
国民は皆、ソウム国の民であることに誇りを持ち、また、国を盛り上げていこうと毎日奮起している。
そんなソウム国の王宮には、ある小さな部屋がある。
広さ約6畳ほどの、石でできた部屋。
その中央には、他より少し高くなった舞台のような場所がある。
そこには、まるで王族を思わせるかのような美しい衣装を纏った少女がいる。
彼女の名前はフィオ。
年齢は14歳ではあるが、いつも3歳は上に見られるほど落ち着いた女の子だ。
長いまつ毛、背中まで伸びた美しい黒髪。
そして、見る者全てを引き込んでしまいそうな程綺麗な赤い瞳。
初めてフィオを見た人は、思わず見惚れて言葉を失ってしまうしまうほどだ。
「フィオ様、2週間後の天気はいかがでしょうか?」
フィオの目の前に居る細身の男が、縋るような目でそう問いかけた。
彼は、2週間後に行われる管弦祭の指揮を任されている。
万が一雨などになろうものなら、上役から酷く叱咤されるだろう。
フィオはそっと目をつぶり、暫く静かに息をする。
「そうですね……
2週間後は朝から夜までずっと太陽が見えます。ただその日はどうやら風が強いようですので、油断なされないよう。」
「誠でございますか。ありがとうございます。」
男は、それを聞き、深々と頭を下げた。
顔を上げた時、男は満面の笑みでフィオを見つめていた。
フィオはそれに対し目を細め、口元に静かに笑みを浮かべた。
男は満足そうに、足取り軽やかに部屋を出ていく。
男が完全に出ていったのを確認し、フィオはふぅと、小さくため息をついた。
「フィオ、大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ、お母様。」
フィオの母、マイアが疲れ気味な娘に近寄り、声をかけた。
マイアはこの小さな部屋で、毎日フィオの近くに座っている。
片時も姿勢を崩さずいるため、足は常に痺れていた。
「ただ、今日でもう12人目ですもの、流石に疲れまして。」
「そうね。皆それだけフィオを頼りにしているのよ。
だって、あなたは選ばれた者なのだから。」
マイアは娘の長い髪を櫛で梳かしながら、そう言った。
我が娘ながら、惚れ惚れするような美しさ。
本当に自分が産んだ娘なのか、マイアはたまに疑問に思ってしまう。
フィオの父も、マイアも、お世辞にも美しいとは言えない。
そんな2人から、フィオのような子が生まれるとは、本当に不思議な事だ。
しかしこれは、選ばた者には当然の事なのだ。
「選ばれた者…」
フィオはマイアに髪を梳いてもらいながら、小さく呟いた。
物心ついた時から、フィオには不思議な力があった。
それは主に3つで、1つ目は未来を見る力。
ただこれは、全てが見えるわけではなく、天候や災害など、自然が起こすことだけである。
どこの国がいつ攻め込んでくるなど、人が起こす事は見ることが出来ない。
2つ目は、獣を操る力。
幼い頃から、鳥や羊、馬などと会話ができ、彼らはいつもフィオの言うことに従った。
まるでフィオを主人だと思っているかのように。
3つ目は、人を癒す力。
傷ついた者に手をかざすだけで、その者はたちまち元気になってしまう。
残念な事に病気や老衰などは治すことができない。
他にも恐らくあるのだろうが、フィオ自身よく分かっていない。
分かっているのは、この力を持っているのは自分だけだと言うこと。
ソウム国では、十数年に1度、たった1人だけフィオの様に不思議な力を持つ子、通称ビィフィアが生まれるらしい。
それの力は昔、神より授かった力で、選ばれ者にしか与えられない。
そして、選ばれた者は王宮に招かれ、生まれてから亡くなるまでずっと、ソウム国の為に尽くさなければならない。
選ばれた者の容姿は皆等しく、赤い瞳に美しい容姿だ。
この小さな部屋の壁にかかっている肖像画、初代ビィフィアも、フィオの様に美しく、赤い瞳を持っている。
フィオは、無意識のうちに、ギュッと手に力を込めた。
すると、コンコンと、2度、扉を叩く音がした。
「もし、入っても良いか?」
低く、どこか威厳を感じさせるような声。
フィオはその声が誰のものか分かると、直ぐに姿勢を正す。
マイアも急いでフィオの傍から離れ、元いた位置へ戻った。
「はい、どうぞ、お入りになって下さいませ。」
ギーっと扉の軋む音がして、声の主が現れた。
キリッとした眉毛に、への字に曲がった口。
そして、体格の良い体から醸し出される威圧感。
彼は、この国の王、ソラン王だ。
王族に相応しい質の良い布でできた着物を纏い、ドシドシと大股でフィオの方へ向かってくる。
フィオとマイアは、三つ指をつき彼を迎える。
「ソラン王様、お越し下さいまして、誠にありがとうございます。
本来であれば私の方から伺わねばなりませんのに、わざわざ足を運んでいただき、大変申し訳ございません。」
「良い良い、気にするでない。フィオよ、頭を上げよ。」
「はい。」
王からの許しが出ると、フィオはゆっくり顔を上げる。
その時、ソラン王とバチっと目が合ってしまった。
しまった…と思い、目を逸らそうとしたがそれは失礼にあたる。
フィオは平然とした態度で、ソラン王の目を見つめる。
内心は嫌で嫌でたまらない。
なぜなら、ソラン王の目はいつも何かを企んでいるようで、フィオの心をざわつかせるからだ。
本能で、この人は危険だと感じていた。
「フィオ、これから私が聞く事に答えよ。」
「…はい。私が答えられることであれば、なんなりと。」
「次に隣国が攻め入るのは何時だ?」
「…申し訳ございません。分かりません。」
ソラン王の眉毛がピクリと動いた。
これは明らかに不満を持っている表情だ。
お前はこんな事も分からないのか?そう言いたげな顔でフィオを見ている。
「ソラン王様もご存知の通り、私に見ることができますのは自然の事のみでございます。
人の起こす事柄については見ることが出来ないのです。」
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