光の果てに至るまで

松原塩

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6 兄弟

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 アメアの母親は死霊術師だった。死霊術は死者を甦らせ意のままに操る、神の摂理に悖る禁忌の魔法である。
 甦った死者に自我はない。死体を操る最悪の人形遊びだ。
 母は傭兵として各地を飛び回る傍ら、生前の意識を保ったまま死者を甦らせる方法を研究し、アメアにも死霊術を厳しく叩き込んだ。
 彼女は、アメアが生まれてすぐに亡くなった父親を甦らせたかったようだ。死体はとうに朽ち果て、それで一体何を甦らせるつもりだったのだろう。兄弟たちの目から見ても、母は狂気に呑まれていた。
 イザイアは母に強く反発していた。死霊術師なんて碌な職業ではない。アメアに強制させるべきではない。死者を弄ぶ最低の行為だ。そう糾弾しては激しい喧嘩をしていた。
 結局母親は傭兵として出稼ぎに行った先で死んだ。これでもう泣きながら死霊術を訓練し、下手くそだと殴られることもないし、アメアを庇う兄と母が怒鳴り合うところも見なくて済む。アメアは心底ほっとした。
 それからはイザイアが家計を支えるため働きに出るようになった。
 イザイアも傭兵として働いていたが、快活で強く、困っている人を見捨てておけない兄は、アメアの自慢であり憧れであった。
 子犬と間違えて拾ってきた狼のファングを連れて、イザイアはあちこちを飛び回っていた。アメアを養うためでもあり、死霊術師でなくとも自分は戦える、人のためになることができるのだと躍起になっているようでもあった。
 自分のためとはいえ、兄と顔を合わせることが少なくなったことに、アメアは寂しさを感じていた。自分もそばで、兄の役に立ちたい。治療術師になれば、忙しく働く兄の支えになれるのではないかと考えた。
 兄の嫌う死霊術師として働く気はなかった。アメア自身も、その力を忌まわしく思っていたからだ。
 治療術師の魔法は、死霊術師の行使する魔法とは全く異なる。死霊術師だけが、どの魔導士とも異なる異端なのだ。一般的な魔法が神の力を借りるものであるのに対し、死霊術師の魔法は「神が捨てた方の力」を借りる。具体的にそれが何なのかアメアにもよくわかってはいなかったが、たしかに死者を弄ぶような魔法は神の御業ではないだろう。
 とにかく、全く違う力の流れ、力の使い方を覚えなければならなかった。一から独学で覚えるのは大変だったが、これまで死霊術を扱うために送った苦難の日々と比べれば大したことはない。
 そうしてアメアが二年かけて治療術師としての資格をとって、いよいよ兄の役に立てると思っていた頃だった。
 イザイアが森で死んだ。
 護衛の仕事の最中、森で魔物に囲まれて、ほかの護衛達と健闘したが敵わなかったのだという。イザイアに守られ、命からがら逃げのびた依頼人から聞かされた。
 アメアはすぐに走り出した。
 今駆け付けたところで遅すぎる。今更アメアにできることなどもう何もないのに、ただ必死に兄を探した。
 街はずれの森の中、魔物の気配に囲まれて、死霊術師として研ぎ澄まされた感覚で死の気配を辿った。
 魔物が近付けばほとんど無意識に死霊術を行使する。動く死体は主人であるアメアを守った。
 気付けば雨が降り出し、泥だらけになった足でもがくように走り、やがて赤褐色の髪の青年が血まみれで横たわっているのを見付けた。地面には血が染み込み黒く変色している。傍らには動かない狼が寄り添うように倒れていた。
 体が震えて、心臓の音がうるさい。
「にいさん」
 呼びかける声は雨音よりもかすかで、兄からの返事はなかった。
「兄さん」
 崩れ落ちるように傍らに膝をついた。
 アメアは兄を愛していた。
 兄弟の枠を超えた感情だ。たった一人、心の拠り所だった人だ。
 血の繋がった兄への恋慕など、許されるはずがない。伝えるつもりもなかった。叶えるつもりもなかった。
 雨が血を洗い流し、泥と混じっていく。頭が真っ白で、何も考えられない。
 アメアは、死者を甦らせる魔法を知っている。

 瞼を開いた兄に泣きながら縋り付いた。愛している、ごめんなさい、そう泣いて縋って、俺も愛していると抱き締め返してくれた。
 それが本当に本物のイザイア自身の意思なのだと、どうして断ずることができようか。



「だからオレは兄さんを愛しているけど信用できないし、心の整理がつくまで距離を置きたいんです」
 本人の隣で気だるげに言い切るアメアに、ジェイスは言葉が見付からなかった。
「やっぱり俺を捨てるつもりなんじゃないか!」
「そうじゃないって何度も言ってるだろ。兄さんはどんな形になってもオレの兄さんだし、どうなったってオレは兄さんが好きなんだから」
 鬼気迫る形相で、イザイアがアメアの両肩を荒々しく掴む。動揺するでもなく言い返すアメアの様子を見るに、きっと幾度となく繰り返されたやりとりなのだろう。
「俺はお前を愛している、これは間違いない俺の本心なのに」
「それだってオレが無意識に操って言わせてるのかもしれない」
「俺はずっと俺のままだ、どうしたら信じてくれるんだ」
「信じたって……それが本当だって、神が許さない、こんな関係」
 イザイアから目を逸らして呻くようにアメアが言う。はは、と場違いな乾いた笑い声が隣から聞こえた。
「神はお前たちの恋愛などに興味はない。神を言い訳にせず好きにするがいい」
 レイが呆れたような顔つきで言う。それは確かにそうだろう、神――レイはジェイスにしか興味がない。ジェイスは自分で考えておいて気恥ずかしくなった。
 アメアとイザイアからしたら、突然神の意志を代弁する異常者に見えたことだろう。微妙な空気が流れた。
「それよりアメア、お前、死者を甦らせることができるのか?」
 真顔のレイに、ジェイスが顔を顰める。彼が甦らせたい人間など一人しか居ない。
「俺じゃ不満ってこと?」
 レイの肩に手を置き、ずいと顔を寄せて不機嫌そうに言う。耳元で喋られて驚いたのか、レイが両耳を押さえて驚いた顔でジェイスから身を引いた。
「ちが、違う、そんなことはない」
「じゃあ誰を生き返らせたいって?」
「違う、べつに、聞いただけだ」
「ああそう」
 全く納得していないジェイスの声はそっけなく、レイの表情が歪む。その泣きそうな顔を見ると胸が痛むが、「勇者テオバルドの魂を持っているから愛している」は受け入れられても、「本当はお前よりテオバルドの方がいい」だとしたら看過できない。
 そんなの、結局本当にはジェイスのことは愛していないではないか。気持ちが沈んだ。
「何の話ですか?」
 戸惑ったような、面倒そうな声で問いかけるアメアに、ジェイスは投げやりに答えた。
「俺は勇者の生まれ変わりで、レイは勇者が好きだから生き返らせたいんだって」
「そんな、そんなこと言っていない」
「へえ」
 揺れる声で必死に言うレイを軽く流す。彼のことを好きでも、今は一切信用できない。
「いきなり生まれ変わりとか言っても信じられないよな」
 ジェイスはレイの過去の姿を思い出すに従って、段々自分の魂は本当にかつて勇者であったのだと思えるようになってきたが、他人からしたら与太話もいいところだろう。
 しかしアメアは胡乱な目でレイをちらりと見てから、首を振った。
「いえ、信じます。なんかまあ、そういうことがあってもおかしくないんじゃないですか」
 意外そうな顔でアメアを見ると、彼は小さく溜息を吐く。
「オレはそもそも、なんでジェイスがレイと一緒に居るのか不思議だったんです。レイはなんか……すごいですし。そういう事情がある方が、逆に納得できます」
「そうか。で、勇者はもう俺として転生してるわけだけど、生き返らせることとかできるのか?」
「無理ですよ。たとえ転生してなくたって、百年も前に死んだ人間、体が残ってないでしょう。生き返ってもどの程度本人の人格が残っているのか保証できないですし」
 その言葉は自身の兄にも刺さる言葉だろう。隣からイザイアが非難めいた視線を向けていたが、アメアは涼しい顔で無視した。
「だってさ。残念だったな」
 レイに向けて言うが、うなだれてしまった彼から反応はない。長い髪に遮られて、表情も見えなかった。まるで苛めているみたいで良心の呵責を感じたが、今は優しくしてやる気分になれなかった。

 アメアはもう少しイザイアと話し合ってみると言うので、ジェイスとレイは一旦宿に戻った。レイは一刻も早くここを発ちたいようだったが、アメアを置いて行くわけにはいかないし、兄弟の間にわだかまりを残したまま強引に引きずっていくこともできない。
 ジェイスはしばらくぼけっとベッドで横になっていた。組んだ腕を枕に天井を見つめる。
 情けないと思う。
 好きな相手に優しくすることもできず、悲しい顔ばかりさせて。
 もやもやして心が晴れない。
 勇者よりも俺のことを好きにならせてやると、言ってやれたらよかった。しかしそんなことができる気がしない。だってレイは世界を滅ぼしても構わないくらい勇者を愛している。そんな烈しい想いをどうしたら奪うことができるのか、想像もつかなかった。
 気付けば陽が落ちて部屋は真っ暗になっていた。外は風が強いようで、がたがたと窓が鳴り、ざわざわと葉擦れの音が聞こえる。
 そこに、控えめなノックの音が飛び込んだ。
「……はい」
 気怠く答えると、普段よりずっと弱々しいレイの声がした。
「入ってもいいか」
 今はあまり顔を合わせたくなかった。返事を躊躇っていると、ジェイス、と消え入りそうな声が懇願するように畳みかけてくる。追い返すのはさすがに忍びなかった。
「……どーぞ。鍵あいてるよ」
 ドアを開けてレイが入って来る。暗い室内ではシルエットしか見えなかった。
「明かり点けてくれる?」
 のそりと起き上がる。ドアの傍にあるスイッチを押せば、室内の照明石が光る仕掛けになっているが、レイは動かなかった。
「レイ?」
 訝る声を上げると、レイはベッドに座るジェイスの元へゆっくりと歩いて来た。少し距離を置いて立ち止まる。
「お前を……傷付けて、すまなかった。お前よりテオバルドがいいとか、そんなの本当に考えたことがなくて、だって私にとってはどちらも同じ『お前』で……、それなのに、もしもテオバルドに会えるのかもしれないと思ったら、つい……。すまない、怒らないでほしい」
 すっかり消沈した声で懺悔される。ジェイスよりレイの方がはるかに傷付いたような風情で、なんでこのひとはこんな声で謝ってくるんだと不思議でさえあった。ジェイスが理不尽に怒っているのだと少しくらい憤ってみせればいいのに。そんな勝手なことを思ってしまうのは罪悪感のせいだ。
「……怒ってないよ」
 レイのことが哀れで、自分のことが情けなくて、そう返すしかなかった。
 ベッドから降りてレイに近付こうとすると、怯えたようにレイがじりじりと後退る。
「怖い?」
 レイが下を向いてぶんぶんと頭を横に振った。
「怖がらせてごめんな。俺はさ……どうしたらレイが俺を好きになってくれんのか、ずっと考えてた」
 ぱっとレイが顔を上げる。
「私は、お前をずっと愛している」
「じゃあ抱き締めてもいいか?」
 ぎくりと体を強張らせるレイに、小さく溜息を吐いた。
「もし俺がテオバルドだったら、レイは抱き締めさせてた?」
 想像通り返事をしないで押し黙っているレイに、諦観にも似たものが浮かぶ。
「暗いな。明かり点けよう」
 レイを怯えさせないようにできるだけ何も気にしていないような明るい声を装い、ドアの隣にあるスイッチを押して明かりを点ける。眩しさに一瞬目が眩んだ。
「いい」
 唐突な返事が何を指すのかわからず、ジェイスはレイを振り返る。
「なに?」
「抱き締めていい」
 赤い目が、怯える小動物のようにジェイスを見上げている。ジェイスは腕を組んで眉を下げた。
「俺の機嫌取ろうと思ってる? いいよそんなことしなくて」
「違う。お前が、私の愛を信じてくれないなら……抱き締めたら、信じられるなら、してもいい」
 ジェイスは真顔になってレイの前に立った。両手を伸ばすと、慌てたようにレイが早口で言う。
「お、お前が信じてくれないからこうするだけで、お前はいずれ女と……っ」
 聞き飽きた戯言は、抱き締めるとぴたりと止まった。ドクドク心臓の音がうるさいのは、ジェイスとレイのどちらだろうか。
 腕の中でレイは身を固くしてじっとしている。
「レイ……」
 小さく囁くと、その肩がびくりと跳ねた。
「レイもそろそろ信じてくれよ。俺の気持ちを、一過性の夢みたいに言わないでくれ」
「だって……」
 口ごもったレイはジェイスの肩に頭を預け、小さな声で呟いた。
「ゆるされるわけない……」
「誰に? “神が許さない”?」
 レイが頭を振る。長い銀髪がさらさらと揺れる。
「お前に……」
 溜息を吐きそうになるのを深呼吸して堪えた。その「お前」はきっと、ジェイスでなくテオバルドだ。
 ジェイスが体を離すと、レイが不安げに見上げてくる。かわいい顔してるな、頭のどこかで場違いに思う。レイの顔を見ていると全てがどうでもよくなってくるから良くない。
「俺と勇者が別物だったとして、それでも俺のこと好きかどうか考えてみて」
 彼の表情を見れば、いや見なくても、もう言いたいことなんてわかる。レイにとっては勇者とジェイスは同一なのだ。だが、ジェイスのレイに対する気持ちを、勇者が許さないだなどと言われても知ったことではない。過去の自分にはすっこんでいてほしい。
「じゃあ俺夕飯買ってくるから」
 何か言おうとするレイの額に軽く口付けると、彼は真っ赤になって黙った。思考が吹き飛んでしまったレイに、ジェイスは笑う。
「勇者と別物の俺に、レイが興味なかったとしてもさ。……そのうち勇者より俺のこと選ばせてやるから覚悟しとけよ」
 ジェイスが出て行ったドアが閉まる音で、レイははっと我に返り、危険があるかもしれないからと後を追った。



 兄がアメアを愛していると言うのが、本当に彼自身の人格から出た言葉なのかわからない――本当は、確かめる手段があることを知っている。恐くてずっと目を逸らしていただけだ。
 本来のイザイアはアメアのことをただの弟としか見ていなくて、今のイザイアはアメアが無意識に操って都合のいい睦言を吐き出しているだけのただの操り人形かもしれない。
 そんなの虚しいだけなのに、早く確かめればいいだけなのに、アメアにはできなかった。
 嬉しかったからだ。
 最愛の兄が、愛していると言って触れてくれることが。血の繋がった兄であり、甦らせてしまったアンデッドであり、二重に倫理に悖る行いであるのに、どうしても嬉しかった。抱き合っていると幸せだった。
 イザイアの顔を見ていると、もう少し、まだこの夢に浸っていたいと、ずるずると先延ばしにして、日夜愛欲に溺れてしまう。だから距離をとった。
 離れてしまえばこの気持ちも忘れられるかと思ったが、別にそんなことはなかった。忙しくしているうちは意識せずに済むが、顔を見てしまったらもうだめだ。兄弟であることも、アンデッドであることも、何もかも全てどうでもよくなる。アンデッドの冷たい肌でさえ愛しくなる。
 アメアは、イザイアを誘って散歩に出ていた。足元には狼のファングも一緒だ。
 ファングに肉体は無く、魂だけがアメアに付き従ってくれている。イザイアには肉体があるが、生前と同じ魂があるのかどうかわからない。
 家の周囲はちょっとした森のように木が生い茂っており、人通りはなかった。死霊術師であった母が人目を嫌い、この場所を棲家としたのだ。今となってはアメアにも都合がいい。イザイアは傍目には普通の人間にしか見えないが、何が起こるかわからないからだ。人目を避けるに越したことは無い。
 陽が沈んで、辺りはすっかり暗くなっていた。木々の影に遮られて、月の光も頼りにならない。けれど死霊術師のアメアは闇と親和性が高く、視界には困らなかった。
 幼い頃、母が仕事で出かけている時には、この森で兄と遊んでいた。運動神経がいいイザイアはするすると木に登り、それが格好良く見えたものだ。
 散歩しようと常にないことを言い出したアメアに何かを察したのか、イザイアも黙ったまま隣を歩いている。夜風が涼しい。
 ある程度進んだところで足を止めた。気まずげな顔で何から喋ろうかと逡巡するアメアの足元に、ファングが励ますようにじゃれついてくる。屈んで、その背中をわしわしと撫でた。ファングはイザイアの狼だったが、子狼の頃は仕事に出るイザイアに代わってアメアが世話をしていたから、アメアにもよく懐いていた。
「アメア」
「黙れ」
 命令形で言うと、イザイアは少し驚いたような顔で口を閉ざした。主である死霊術師には逆らえない。イザイアも例外でないことを確認して、アメアは小さく息を吐いた。
 イザイアの話を聞いたら、また決意が鈍ってしまうかもしれない。
 アメアはイザイアに向き直り、最愛の兄を睨むように見上げた。
「其の人格の意識を落とし、我の問いにだけ答えよ。事実のみ返答を許す」
 ふっとイザイアの目が翳る。不自然なほど顔から表情が抜け落ち、感情のこもらない声ではい、と返答があった。
「名乗れ」
「イザイアです」
「主人の名は」
「アメアです」
 兄に丁寧な言葉で喋られるのはどうも落ち着かないが、そんなところで怯んでいる場合ではない。アメアは続ける。
「お前の人格は後天的に生まれたものか? それとも生前から続くものか」
 緊張に生唾を飲み込むアメアの前で、イザイアは機械的に淡々と答えた。
「生前から同じ個体であると認識しています」
 まずひとつ懸念は払拭できた。甦ったアンデッドが兄の真似をしているのではなく、これは兄自身なのだ。それだけでもひどく安堵してしまう。
「主人に何か、」
 冷静に喋ろうとしても、恐ろしさで喉が詰まる。なんとか声を絞り出した。
「何か、感情を……抱いているか?」
「恋をしています」
 恋、という言葉に心臓が跳ねた。ぎゅっと拳を握ると、ファングが足元で心配そうに小さく吠える。
「その、感情は」
 喉が渇いて声がかすれた。俯きそうになるのを堪える。
「その感情は、いつから……持っているものだ」
 沈黙が落ちる。ざわざわと葉の鳴る音が耳についた。その静寂に寒気がする。
「わかりません」
 視界が歪んだ。やはり植え付けられた偽りの感情だったのか。絶望しかけるアメアに、イザイアは切れ切れに口にする。
「気付いたら、まだ子供なのに、あなたを好きで――俺は……俺は……弟なのに、お前に恋をして、死ぬ間際までお前のことがずっと気がかりで」
「兄さん!?」
 落としたはずのイザイアとしての意識が、明らかに浮上してきている。命令に逆らったことで負荷がかかったのか、イザイアは顔を顰めて片手で頭を押さえ、よろめいた。
「お前の幸せのためなら俺はあのまま死んだ方がよかった。でもお前が泣くから、俺は、お前を守ってやらないと……」
「兄さん!」
 がくんと膝から崩れるイザイアを抱きとめた。
 二人は同じように、罪悪感を抱いたまま恋をしていた。恋をしていたのだ。
 静かな森で、しばらく抱き合っていた。
 もしも兄が、兄の姿をした操り人形でしかなかったのなら。この場でただの死体に戻して埋めてしまうつもりだった。



 翌朝、ジェイスとレイが泊まる宿まで訪れたアメアは、清々しい雰囲気を纏っていた。
 駅に見送りに来ていたイザイアと軽く抱き合ってから別れる様子は、仲が良い兄弟そのものにしか見えない。
 汽車に乗ってしばらく経ってから、ジェイスは斜め向かい、窓際に座るアメアに恐る恐る声をかけた。
「お兄さんとは仲直りできたのか」
 窓の外を見ていたアメアがジェイスに視線を向け、いつになく不敵に笑う。
「ええ、まあ」
 その表情を見るにアメアの納得する結果にはなったのだろう。よかったな、と声を掛けると、どうも、とそっけなく返された。
 次の目的地は学術の都エスピアだ。レイはジェイスの隣に座って、窓の外を眺めている。
「着いたらせっかくなんで図書館行きたいです。エスピアには大きい図書館があるって聞いて」
「いいな。ちょっと疲れたし何日かゆっくりしないか?」
 レイに向かって問いかける。彼はこちらを向いてジェイスの目をじっと見つめ、ワンテンポ遅れて、構わない、と言った。その後もじっとジェイスの目を見ている。
「え、ん? なんかあった?」
 レイの赤い目に見詰められるとそわそわと落ち着かなくなる。レイはふいとそっぽを向いた。
「いや」
「え、何ですか? 喧嘩してるんですか?」
「してないけど」
 訝るアメアに、困惑しつつ答える。もう一度レイの様子を窺うが、彼は車窓に目を向けたままだった。

 宿を確保してすぐ、アメアは図書館に出掛けて行った。
「じゃあ俺たちはデートしようか」
「デート……」
 レイが軽く眉根を寄せてジェイスを見てくる。その言葉に引っかかるだろうとは予め分かっていて、断られるだろうとも予想していた。それでもジェイスが出掛ければ、レイはジェイスを守るために着いてくるだろうから結果は同じだ。
「わかった。行こう」
 だから首肯されて、逆に驚いて咄嗟に言葉が出てこなかった。
「ジェイス?」
 驚きのあまり黙ってしまったジェイスに、レイが首を傾げて顔を覗き込んでくる。
「ああいや、悪い、行こう」
 気が変わらない内にと、ジェイスはレイを連れて宿を出た。
 大通りには大きな建物が立ち並び、大勢の人が行き交っている。大きな港を持ち、様々な文化が集まって栄える都なだけあって、博物館にオペラ座に美術館、更には様々な国のレストランまで並んでおり、デートにはもってこいだ。遠くの方には宮殿のような建物まで見える。あれは一体何だろうか。
「オペラとか好き?」
 ジェイスにとっては縁遠く優雅な趣味だという認識しか無いが、レイには似合うかもしれない。そんなジェイスの気持ちとは裏腹に、レイは真顔で首を振った。
「人間を見ても楽しくない」
 そうだった、この男は勇者を喪った悲しみで人類を滅ぼそうとした男だった。人が演じるものになど興味はないだろう。
「人間好きじゃないのに、俺を人間とくっつけようとしてるのか?」
「私の好悪はお前の幸せに関係ないだろう」
「なんかすごいな……」
 きっぱりと言い切るレイにいっそ感心してしまう。神であるがゆえの感性なのだろうか。
「あ、えー……、博物館……」
 通りすがりに配られたビラを見て、博物館ならどうだと言いかけたが、元々全知全能だった神に博物館もどうなんだと言い淀む。しかしレイはビラを興味深げに覗き込んだ。そこには、深海の珍しい巨大魚が展示された旨が記されている。
「ん? こういうの好き?」
「光の届く範囲のものはいつでも知覚できたが、深海は光が届かないからあまり見る機会が無かった」
「よし行こう!」
 レイは本当にジェイスにしか興味がないのかもしれないと心配したところだったので、ジェイスは安心して博物館に向かった。
 それにしても相変わらずレイは人目を集める。人が多いところを歩くと殊更実感する。レイの冷たく優雅な美貌は気軽に声を掛けるには躊躇われるものがあるおかげで、実際に口説かれるようなことがないのだけが幸いだった。
 到着した博物館の窓口でチケットを購入して中へ入る。薄暗く落ち着いた内装のそこは静かで、広いおかげかあまり混んではいない。順路に添って進んで行くと、目当ての巨大魚の標本が目立つ場所に展示されていた。目玉なだけあって、触らないようにと距離をとって張られたロープの前に人だかりができている。
 細長い巨大魚の全長はジェイスの身長よりも長く、少し遠くからでもよく見えた。
「近く行ってみようか」
「いい」
 レイは人だかりを避けた少し遠くから、興味深そうに展示を眺めていた。ジェイスはその横顔を眺める。しばらくそうしていると段々と頬が赤くなったので、レイがジェイスの視線に気付いたのだなと分かった。
 レイは頬を染めたままどこか非難めいた目でジェイスを見てきたが、特に何も言わない。可愛い顔してるなと暫く見つめていた。はたから見たら恋人同士が見つめ合っているように見えるのだろうか。実際はいつまで経っても恋人になれないのに。
 出口に近付くとカフェが併設されていたので、そこで軽食を摂った。会計をすると、お土産だと言って小さな袋を渡される。中身は花の種だった。
「私はいらない」
 レイが袋を差し出してくる。
「花は嫌い?」
「植える機会がない」
「そっか」
 受け取った瞬間に閃いた。
 花だ。花を育てるのはいいのではないだろうか。花だとすぐ枯れてしまうかもしれないから、樹木の方がいいかもしれない。
 ジェイスが丹精こめて植物を育てて、レイに守って欲しいと頼めば、彼は世界を滅ぼすような凶行に及ぶこともないのではないか。
 ジェイスは何も易々と死ぬようなつもりはないが、人間である以上いつかは寿命を迎える。対して神であるレイはいつまで生き続けるのか、もしかしたら永遠を生き続けるのかもしれない。ジェイスが死んだ時、今度こそ絶望して世界を滅ぼされたりしては困る。だから種を植えるのだ!
 とてもいい考えのように思えたが、ジェイスは今のところ植物を育てられるような土地など持っていない。
「レイ、邪神斃したら家とか買ってさ、一緒にこの種植えないか」
 それまでに金を貯めなければいけない。邪神を斃した後も当然のようにレイと共に過ごしているのを思い描いて提案すると、彼は困ったような顔をして黙り込んだ。
「……もしかして、邪神を斃したらそこでお別れとか思ってる?」
「邪神を斃したらお前は英雄になる。私などいなくても必ず幸せになれる」
「レイが居なくて幸せになるとか想像できないんだけど」
 ジェイスが思い描く幸せなんて、今となってはもうレイの姿しか浮かばない。
 レイがジェイスの隣で笑って、いつものように少し恥ずかしがって寄り添ってくれていたらそれだけでいいのだ。ジェイスはきっと誰よりもレイに優しくする。レイはおいしいものでも食べて、安心して眠って、ジェイスの隣が居場所なのだと思ってくれたら。
「大丈夫だ。お前は絶対に幸せになる」
 力強く言い切るレイには、何も伝わっていないのだろう。ジェイスは幸せになる想像ができないと言っているのではなくて、レイに傍に居てほしいのだと言っているだけなのに。苦笑した。
 カフェから出ると、何やら外は異様な空気で、遠くから咆哮のようなものが聞こえた。大分距離があるようで大通りが狂乱に陥っているような様子はないが、道行く人々は落ち着かない。咆哮が聞こえた方を不安げに見遣る者、そちらから逃げて来たと思しき者、逆に興奮した様子で咆哮の聞こえた方へ駆けて行く者と様々だった。
「魔物か?」
 街中に突然魔物が現れることはそう無いが、ダンジョンから魔物が這い出てくることはある。そういった事態に備えて警備隊が巡回しているはずだが、近辺に居るとも限らない。
「レイはアメアを呼んできてくれ。俺は先に向かう」
 アメアが居る図書館がどこだか知らないが、レイはアメアの実家へも勝手知ったる様子で案内してくれた。今だってきっとアメアの所在が分かるだろう。
 しかしレイは渋い顔になる。
「危険だ。私はお前と行く」
「俺が怪我してからアメアを探しに行くより、先に連れて来た方がいいだろ? 頼む」
 重ねて言えば、レイはあまり納得していないような顔で頷いた。
「……分かった。危ないと思ったら退け」
 レイと別れ、ジェイスは魔物が居るであろう方向へ走り出した。逃げてくる人と逆の道を辿ればいいだけなので、迷うことはない。
 やがて街の最中に、シャボン玉の膜のような色をした壁が見えてくる。近場で聞くと耳を劈く咆哮は、その障壁の向こうから響いていた。
 声の主は小型の翼竜だ。小型とは言っても、人の背丈の倍くらいはある。体表の鱗が金属めいた光を放っていて、唸り声と共に吐き出す炎が障壁に弾かれては散っていた。
 魔法で障壁を作り出して街への被害を防いでいるのは、茶色の髪を肩で切りそろえた少女だ。両手を翳してぶるぶると震えているのは、恐怖でなく疲労のせいのようだった。
 やはり警備隊はまだ到着していない。ほかに居るのは冒険者と思しき青年たち数人だけだった。負傷者を介抱しているようだ。
「どういう状況だ」
 近くに居た冒険者に訊ねると、彼は顔を引きつらせて早口で答える。
「俺たちを追ってダンジョンから出てきちまったんだ! 鱗が硬くて刃が通らないし、魔法耐性もある。少人数じゃ無理だ、警備隊が到着するまで待つしか……」
「なるほど」
 それから障壁で防御している少女の傍らへ向かう。
「あとどれくらいいけそうだ」
「警備隊が来るまで」
 少女は翼竜から目を離さないまま答えた。額に汗が浮いている。
「意気込みじゃなくて事実として」
「……耐えなきゃいけないんです、集中切れるから黙っててください」
 ぎりぎりで持ちこたえている様子なのに勝気な口調で、ジェイスは口角を上げた。
 目前の翼竜は、以前鉱山の町ブレニアで戦った石の巨人よりは小さい。どちらの方が硬いのかは分からないが、レイに強化された剣ならおそらく何だって斬れる。
 ジェイスは剣を抜き、障壁へと歩を進めた。
「これって通れるのか?」
 返事がない。振り向くと、少女が驚いたような顔でジェイスを見ていた。
「……一人で……?」
「あんただってやるしかないんだろ。一緒だよ」
 少女はごくりと唾を呑み込み、硬い表情で答えた。
「……翼竜の火炎が収まったタイミングで、一瞬だけ障壁を解除します」
「頼む」
 翼竜が火炎を吐くと、熱こそ伝わらないものの空気がびりびりと震える。呼吸するように火炎が途切れた瞬間、ジェイスは障壁の向こう側へと飛び込んだ。
 途端に熱せられた空気に包まれて、全身から汗が噴き出す。炎の直撃を受けなくとも、蒸し焼きになりそうだ。
 翼竜の黒い目がジェイスをぎろりと睨み、前足が振り下ろされる。飛び退って避けると、石畳が砕けて礫が弾けた。かすっただけで大怪我は免れないだろう。レイの錯乱する姿が目に浮かぶ。できる限り傷を負わないようにしなければならない。
 ジェイスは攻撃を避けながら、黒い剣を振るう。鈍い音を立てて刃は弾き返されたが、鱗のかけらが細かく散るのが見えた。ジェイスの剣の方が辛うじて強度は上のようだ。
 もっとだ。もっと集中すれば斬れる。段々と視界が狭くなって、世界が自分と翼竜だけになる。耳元で自分の血が流れる音だけが聞こえた。
 翼竜の呼吸が読める。火炎を避けて跳躍し、首へと剣を振り下ろす。今度は半ばほどまで刃が通った。黒い血がしぶき、翼竜が雄叫びを上げて暴れまわる。翼竜の体を蹴って着地し、また飛び掛かっていく。
 剣を振る腕が重い。まただ。体が剣に追いつかない。鋭い爪が迫るのを、身をよじって回避する。
 足へ向かって剣を振り抜くと、今度こそ竜の肉体を断ち切った。片足を失った翼竜が咆哮し、翼をはためかせて舞い上がろうとする。
 まずい。逃げられたら追う手段がない。
 にわかに焦りを感じたその瞬間、人影が上から飛び込んできて、太陽を反射する大剣が竜めがけて振り下ろされた。
 竜の首が地面に落ちる重い音で、はっとジェイスは我に返り、周囲のすべての音が戻って来た。ひどい動悸がする。
 また剣に引っ張られていた。我を忘れて剣を振るうなんて、戦闘狂の有様だ。自分が剣を支配できなければいけない。
 苦々しい面持ちで、翼竜にとどめを刺した人物を見上げる。首が落ちて崩れ落ちた竜の体の上に、青年が堂々たる風情で立っていた。
「助かった、ありがとう」
「いや、あなたが健闘して弱らせてくれたおかげです。怪我はありませんか」
 青年が身軽に地面へと降り立つ。光を浴びると金にも見える茶色の髪を後ろに撫でつけた、精悍な顔立ちの男だ。背が高く声も良く通り、絵に描いたような好青年だった。
「俺は大丈夫」
 返しながら後ろを確認すると、障壁を張っていた少女が膝に手を突いて肩で息をしている。その隣に、レイとアメアが立っていた。すぐにレイが心配げな面持ちで駆け寄ってくる。
「ジェイス。大丈夫だったか」
「大丈夫大丈夫、怪我もしてないし」
「我が主よ!」
 突然大きな声で叫ばれて、ジェイスは嫌な予感と共に青年を振り返る。この場にそんな呼び方をされるような相手は一人しか居ない。青年は真っ直ぐにレイを見ていた。
「どうして私を置いて行かれたのですか。どうか帰ってきてください」
 青年がつかつかと大股で歩み寄ってくる。黙っているレイを見遣れば、彼は戸惑った顔で頬を赤くしていた。
「は?」
 思わず苛立った声が出た。
 今までレイが自分以外にそんな表情を見せたことがあったか? ジェイスのことを愛していると言ってはばからず、ほかの人間に一切興味が無かったレイが?
「誰? 知り合い?」
 笑顔を作ったつもりだが、目が笑っていない。低い声で問いながら、レイの腰を抱いて引き寄せた。一瞬で耳まで真っ赤になったレイが混乱して、ジェイス、放してくれ、と言うのも耳に入らない。
 頭に血が昇っているのは、レイの腰を抱くところを目にした青年も同じだった。
「我が主よ! この男は何ですか!?」
「いや俺が聞いてんだけど」
「そのお方に馴れ馴れしく触るな!」
「は? あんたはレイの何なんだよ」
 言い合いに、ようやく到着した警備隊が割って入る。
「遅くなりました、状況の確認を……え? 魔物はもう倒されてるんですか?」
 その声に、今しがた翼竜を倒したばかりで、ここは市街で人前なのだという状況を思い出す。冷静さを取り戻したジェイスは、長く息を吐いた。
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