11 / 11
終章
しおりを挟む
春の近付いた、日差しが暖かい朝だった。
「ジェイス! 見てくれ、芽が出ている」
庭に埋めた種に水遣りするのが、レイの日課だ。抱き合った翌朝でも元気に外に出て、ブリキのじょうろで水を与えていた。いつ芽が出るのかとわくわくしながら世話をするレイを見るのが好きで、ジェイスはいつもその姿を窓から見守っていた。
それがついに実ったのだというレイの明るい声に、ジェイスは横着して窓をひらりと飛び越えて庭に出た。
「ほんとか」
レイの隣に立ってみれば、たしかに足元にはちいさな可愛らしい芽がぴょこぴょこと飛び出している。
春が来てダンジョン巡りを始めたら、こんな風に毎日面倒を見てやることはできない。ちゃんと育ってくれるだろうかと不安になる一方で、神であったレイが手ずから水を与えた植物が早々に枯れるとも思えない、根拠のない自信があった。
どんな花が咲くだろう。いつか庭いっぱいに緑が茂るだろうか。レイのためにも、美しい庭にしていきたい。
いつか考えたことを伝えるなら今だと思った。
「レイ。いつか俺が死んだら、この庭を守っていってくれるか?」
きょとんとした顔でレイが見上げてくる。この無垢な顔をする男を、いつかはひとり置いて逝かなくてはならないという事実に胸が痛んだ。
ジェイスが居なくなっても自暴自棄にならないように。二人で過ごした日々を大切な思い出として抱えて、前向きに生きていけるように。
そんな願いを込めた言葉に、レイは平然と返してきた。
「死ぬと思っているのか?」
「ん……? いや、俺だって人間だし、別に早々にくたばる気はないけど、そりゃいつかは……え?」
レイの透き通った赤い目が、魅了するような輝きを放って、ジェイスをまっすぐに見ている。あまりにも美しく、人智を超えたものの輝きだ。
「お前、私の体液を摂取しただろう。神の一部を体に取り込んでおいて、ただの人間でいられると思っていたのか?」
体液と言われて思い当たることはある。夜の話だ。情交の最中に彼を愛しく思って、放たれたものを舐める、飲み込むなんて何度も繰り返した。
愕然とするジェイスに、レイが声を上げておかしそうに笑う。彼がこんな風に無邪気に笑うところなどなかなか見られない。
ジェイスは苦笑して、まあいいかと思った。
彼が笑っていてくれるのならそれでいい。
朝の陽光の下、吹き抜ける風が長い銀髪を揺らす。反射する光が眩しくて目を細める。
レイの笑顔を守れるのなら、ずっと傍に居よう。
彼の光が尽きるまで。
「ジェイス! 見てくれ、芽が出ている」
庭に埋めた種に水遣りするのが、レイの日課だ。抱き合った翌朝でも元気に外に出て、ブリキのじょうろで水を与えていた。いつ芽が出るのかとわくわくしながら世話をするレイを見るのが好きで、ジェイスはいつもその姿を窓から見守っていた。
それがついに実ったのだというレイの明るい声に、ジェイスは横着して窓をひらりと飛び越えて庭に出た。
「ほんとか」
レイの隣に立ってみれば、たしかに足元にはちいさな可愛らしい芽がぴょこぴょこと飛び出している。
春が来てダンジョン巡りを始めたら、こんな風に毎日面倒を見てやることはできない。ちゃんと育ってくれるだろうかと不安になる一方で、神であったレイが手ずから水を与えた植物が早々に枯れるとも思えない、根拠のない自信があった。
どんな花が咲くだろう。いつか庭いっぱいに緑が茂るだろうか。レイのためにも、美しい庭にしていきたい。
いつか考えたことを伝えるなら今だと思った。
「レイ。いつか俺が死んだら、この庭を守っていってくれるか?」
きょとんとした顔でレイが見上げてくる。この無垢な顔をする男を、いつかはひとり置いて逝かなくてはならないという事実に胸が痛んだ。
ジェイスが居なくなっても自暴自棄にならないように。二人で過ごした日々を大切な思い出として抱えて、前向きに生きていけるように。
そんな願いを込めた言葉に、レイは平然と返してきた。
「死ぬと思っているのか?」
「ん……? いや、俺だって人間だし、別に早々にくたばる気はないけど、そりゃいつかは……え?」
レイの透き通った赤い目が、魅了するような輝きを放って、ジェイスをまっすぐに見ている。あまりにも美しく、人智を超えたものの輝きだ。
「お前、私の体液を摂取しただろう。神の一部を体に取り込んでおいて、ただの人間でいられると思っていたのか?」
体液と言われて思い当たることはある。夜の話だ。情交の最中に彼を愛しく思って、放たれたものを舐める、飲み込むなんて何度も繰り返した。
愕然とするジェイスに、レイが声を上げておかしそうに笑う。彼がこんな風に無邪気に笑うところなどなかなか見られない。
ジェイスは苦笑して、まあいいかと思った。
彼が笑っていてくれるのならそれでいい。
朝の陽光の下、吹き抜ける風が長い銀髪を揺らす。反射する光が眩しくて目を細める。
レイの笑顔を守れるのなら、ずっと傍に居よう。
彼の光が尽きるまで。
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる