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連載
黒翼は蒼天に羽ばたく
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選考会編、開幕です。
********************************************
闘技場。
文字通り、闘いの技を見せ合う場である。
されど、何と何が戦うのか。
それは想像するまでもなく、人である。
人と人が闘う場を見る為のこの場所は実は、エルアークには無い。
というのも、人同士の闘いを娯楽とするのに抵抗のある者がいるからだ。
しかしそれは、このカシナートに闘技場があるのと矛盾する。
いや、闘技場だけではない。
このカシナートはエルアークよりも遥かに多くの娯楽……というよりも享楽がある。
闘技場、娼館、各種の賭博場。
首都であるエルアークよりもそれらが多い理由は、このカシナートという街が何故存在するのか……という点に繋がる。
この副都カシナートは、王ではない王族……具体的には王が即位した後に残った「次に尊い王族」が治める街である。
平たく言えば、王になれなかった王族が王の予備としての役割を務める為に存在する街なのだ。
しかしながら王に息子が出来れば当然次の王はその息子になるわけであり、実質王都から追いやられた王族の行き先と言い換えてもいい。
そんな王族を慰めるために闘技場が出来て、その闘技場で名を上げるために様々な者が集まった。
その者達を客層とした娼館や、闘技場での賭けの容認により規制や心理的壁が緩くなった隙をついて賭博場が出来上がった。
そうして完成したのが、今のカシナートである。
エルアークが光の都であるならば、カシナートは影。
光の輝く裏に出来た、影の都なのだ。
そして、そのカシナートの象徴ともいえる闘技場には今日、多くの人が集まっていた。
それはカシナートに集った一般人達であり、今日この闘技場に刺激を求めて来た者達である。
希望を求めてカシナートへとやってきて、確かに安全は手に入った。
しかし内乱が終わったわけではない。
その不満は知らず知らずのうちに鬱積しており……それを晴らせるのではないかという期待もあったのだろう。
実際、原始的な娯楽はより多くのストレスを発散させることが出来る。
そういう意味でも、この騎士団員選考会の開催は成功であるとも言える。
さて、その選考会のルールであるが……これは実に簡単だ。
ルールはシンプルな勝ち抜き戦。
防具は持込で使用可能だが、武器は死亡事故回避の為に刃を落としたものが使用される。
とはいえ金属製の刃物が鈍器になったという違いしかないので、そこは配慮が要求される。
白熱していれば難しいが、それもまた騎士に要求される資質ということで片付けられている。
そして此処がポイントなのだが、大魔法を除く魔法も使用可能である。
これは魔法使いである光杖騎士団が現在そのほとんどがナリカに従っていることに起因するが、最先端の魔法国家とも言われるキャナル王国ならではともいえる。
……いえる、のだが。
これは当然ではあるのだが、戦闘に使える魔法とは大魔法でなくともそれなりの殺傷力を持っている。
平たく言えば簡単に相手を殺せる技術であり、武器のように刃を落とすなどといったようなことも出来ない。
そこで、魔法に関しては「相手を殺さないように留意する」とされている。
どういうことかというと、まあ……狙って頭を消し飛ばすような真似はするなということだ。
そして死にさえしなければ、ある程度の損傷は魔法でどうにかなる。
ならば武器もわざわざ刃を落とさなくてもよいのではないか、という意見も当然ある。
「随分昔に、奥義だかなんだかで相手を真っ二つにしちゃった人がいるみたいで。それに武器での斬り合いはグロくて見たくないとかいう人もいるらしいよ」
「くだらん。ならば見なければよかろうに」
「あ、あはは……」
この辺りについては対人の試合の国際ルールなので仕方の無い面がある。
適宜改正されているので色々と理屈の合わない部分もあるのだが……まあ、それは今は特に関係の無いことである。
まあ、ともかく武器は刃を落としたものを貸し出されるということでアインとカインは他の参加者達と一緒に武器庫に来ているところであった。
色々と並んではいる。
片手剣だけでも片刃、両刃、直剣に曲刀にその他諸々。
普段から盛り上げるために様々な工夫を凝らしているのであろうことが伺えるラインナップである。
しかしながらカインが選んだのは一般的なロングソード。
アインが選んだのもまた、同じくロングソードである。
「え、短剣じゃなくていいの?」
驚いたように言うカインの頭を、アインはゴツンと叩く。
そのままアインはカインの耳を引っ張ると、小さな声で囁く。
「阿呆か、お前は。私の投擲術も短剣術も、どちらも見る奴が見れば隠密用の技能だと分かる。そんなものを騎士団員の選考会で披露してどうする気だ」
「え、どうするって……」
「分からん奴だな。そんな怪しい奴、私なら即座に何処かの諜報部隊員だと見抜くぞ。だからこそ一般的な武器を選んでいるんだろうが」
これは当然の話なのだが、武器術というものは歴史の積み重ねである。
武器には生まれた経緯があり、また武器術にも生まれた経緯がある。
更に言えば武器にも武器術にも「お国柄」とでも言うべき流行や伝統があり、それによってある程度の個人に対する推測を立てることも可能だ。
アインが言っているのはつまり、そういうことだ。
「へえー」
「へえ、じゃない。お前も一端の剣士ならそういう所から相手の手札を予測する癖をつけろ」
「ん、分かったよ」
カインはそう言うと、手に持ったロングソードの握り心地を確かめる。
「本当に分かってるんだろうな」
「分かってるよ。んー、剣の良し悪しならある程度分かるんだけどな」
「フン、そんなもの。見て分からんのなら手にとって見ればいいというだけの話だろうが」
勿論その域に至るまでに結構な熟練が必要なのだが、わざわざ突っ込む者は居ない。
「ん、これかな」
カインは選び出した剣を手に取り、武器庫の出口へと向かう。
そこには一人の騎士がいて、要はそこで選んだ武器を知らせる形になっている。
「カイン選手とアイン選手……二人ともロングソードですか。了解しました」
何かをサラサラと書き込むと、騎士はアインとカインへと順番に視線を送る。
「分かっているとは思いますが、これは貸し出し武器です。他人への譲渡、販売は禁止されています。破損については試合中のことであれば、この責任を問いません。この破損の場合はこちらで破損武器の返却と新たな武器の貸し出しを行うことになります」
「はい」
「ああ」
カインとアインの返事に満足した顔を浮かべると、騎士は出口の扉を指し示す。
「それでは、健闘をお祈りします」
試合開始までは、まだ時間がある。
しかし、闘技場はすでに試合中であるかのような熱気で溢れていた。
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闘技場。
文字通り、闘いの技を見せ合う場である。
されど、何と何が戦うのか。
それは想像するまでもなく、人である。
人と人が闘う場を見る為のこの場所は実は、エルアークには無い。
というのも、人同士の闘いを娯楽とするのに抵抗のある者がいるからだ。
しかしそれは、このカシナートに闘技場があるのと矛盾する。
いや、闘技場だけではない。
このカシナートはエルアークよりも遥かに多くの娯楽……というよりも享楽がある。
闘技場、娼館、各種の賭博場。
首都であるエルアークよりもそれらが多い理由は、このカシナートという街が何故存在するのか……という点に繋がる。
この副都カシナートは、王ではない王族……具体的には王が即位した後に残った「次に尊い王族」が治める街である。
平たく言えば、王になれなかった王族が王の予備としての役割を務める為に存在する街なのだ。
しかしながら王に息子が出来れば当然次の王はその息子になるわけであり、実質王都から追いやられた王族の行き先と言い換えてもいい。
そんな王族を慰めるために闘技場が出来て、その闘技場で名を上げるために様々な者が集まった。
その者達を客層とした娼館や、闘技場での賭けの容認により規制や心理的壁が緩くなった隙をついて賭博場が出来上がった。
そうして完成したのが、今のカシナートである。
エルアークが光の都であるならば、カシナートは影。
光の輝く裏に出来た、影の都なのだ。
そして、そのカシナートの象徴ともいえる闘技場には今日、多くの人が集まっていた。
それはカシナートに集った一般人達であり、今日この闘技場に刺激を求めて来た者達である。
希望を求めてカシナートへとやってきて、確かに安全は手に入った。
しかし内乱が終わったわけではない。
その不満は知らず知らずのうちに鬱積しており……それを晴らせるのではないかという期待もあったのだろう。
実際、原始的な娯楽はより多くのストレスを発散させることが出来る。
そういう意味でも、この騎士団員選考会の開催は成功であるとも言える。
さて、その選考会のルールであるが……これは実に簡単だ。
ルールはシンプルな勝ち抜き戦。
防具は持込で使用可能だが、武器は死亡事故回避の為に刃を落としたものが使用される。
とはいえ金属製の刃物が鈍器になったという違いしかないので、そこは配慮が要求される。
白熱していれば難しいが、それもまた騎士に要求される資質ということで片付けられている。
そして此処がポイントなのだが、大魔法を除く魔法も使用可能である。
これは魔法使いである光杖騎士団が現在そのほとんどがナリカに従っていることに起因するが、最先端の魔法国家とも言われるキャナル王国ならではともいえる。
……いえる、のだが。
これは当然ではあるのだが、戦闘に使える魔法とは大魔法でなくともそれなりの殺傷力を持っている。
平たく言えば簡単に相手を殺せる技術であり、武器のように刃を落とすなどといったようなことも出来ない。
そこで、魔法に関しては「相手を殺さないように留意する」とされている。
どういうことかというと、まあ……狙って頭を消し飛ばすような真似はするなということだ。
そして死にさえしなければ、ある程度の損傷は魔法でどうにかなる。
ならば武器もわざわざ刃を落とさなくてもよいのではないか、という意見も当然ある。
「随分昔に、奥義だかなんだかで相手を真っ二つにしちゃった人がいるみたいで。それに武器での斬り合いはグロくて見たくないとかいう人もいるらしいよ」
「くだらん。ならば見なければよかろうに」
「あ、あはは……」
この辺りについては対人の試合の国際ルールなので仕方の無い面がある。
適宜改正されているので色々と理屈の合わない部分もあるのだが……まあ、それは今は特に関係の無いことである。
まあ、ともかく武器は刃を落としたものを貸し出されるということでアインとカインは他の参加者達と一緒に武器庫に来ているところであった。
色々と並んではいる。
片手剣だけでも片刃、両刃、直剣に曲刀にその他諸々。
普段から盛り上げるために様々な工夫を凝らしているのであろうことが伺えるラインナップである。
しかしながらカインが選んだのは一般的なロングソード。
アインが選んだのもまた、同じくロングソードである。
「え、短剣じゃなくていいの?」
驚いたように言うカインの頭を、アインはゴツンと叩く。
そのままアインはカインの耳を引っ張ると、小さな声で囁く。
「阿呆か、お前は。私の投擲術も短剣術も、どちらも見る奴が見れば隠密用の技能だと分かる。そんなものを騎士団員の選考会で披露してどうする気だ」
「え、どうするって……」
「分からん奴だな。そんな怪しい奴、私なら即座に何処かの諜報部隊員だと見抜くぞ。だからこそ一般的な武器を選んでいるんだろうが」
これは当然の話なのだが、武器術というものは歴史の積み重ねである。
武器には生まれた経緯があり、また武器術にも生まれた経緯がある。
更に言えば武器にも武器術にも「お国柄」とでも言うべき流行や伝統があり、それによってある程度の個人に対する推測を立てることも可能だ。
アインが言っているのはつまり、そういうことだ。
「へえー」
「へえ、じゃない。お前も一端の剣士ならそういう所から相手の手札を予測する癖をつけろ」
「ん、分かったよ」
カインはそう言うと、手に持ったロングソードの握り心地を確かめる。
「本当に分かってるんだろうな」
「分かってるよ。んー、剣の良し悪しならある程度分かるんだけどな」
「フン、そんなもの。見て分からんのなら手にとって見ればいいというだけの話だろうが」
勿論その域に至るまでに結構な熟練が必要なのだが、わざわざ突っ込む者は居ない。
「ん、これかな」
カインは選び出した剣を手に取り、武器庫の出口へと向かう。
そこには一人の騎士がいて、要はそこで選んだ武器を知らせる形になっている。
「カイン選手とアイン選手……二人ともロングソードですか。了解しました」
何かをサラサラと書き込むと、騎士はアインとカインへと順番に視線を送る。
「分かっているとは思いますが、これは貸し出し武器です。他人への譲渡、販売は禁止されています。破損については試合中のことであれば、この責任を問いません。この破損の場合はこちらで破損武器の返却と新たな武器の貸し出しを行うことになります」
「はい」
「ああ」
カインとアインの返事に満足した顔を浮かべると、騎士は出口の扉を指し示す。
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