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連載
よりよい補修の為に
しおりを挟む朝市。
カシナートでそれが開かれているように、エルアークでも当然朝市は開かれている。
ただ、カシナートの朝市とエルアークの朝市とでは大きな違いがある。
それは、カシナートに人間種が多いのに比べるとエルアークには様々な人種が多い……ということだろうか。
これはその場にいれば特に何も感じないのだが、実際に比べてみると大きな……そして重要な差であることが理解できる。
何故ならば、キャナル王国はあらゆる人種の集まる国であり、「最も理想に近い国」と呼ばれるほどに「人類」が偏見なく平等に集まる国であるとされているのだ。
その盟主のいるエルアークとカシナートで、何故このような差が出るのか。
それは一言で言えば「その都市の主である王女達の望む方向性」の差であると言えよう。
どちらも平等を謡いながら、セリスを混ざり者と蔑むナリカの態度が無意識のうちに民衆の中に浸透しているとも言い換えることが出来る。
それに比べると、その「混ざり者」と蔑まれるセリスこそが本来のキャナル王国の精神を受け継いでいるといえる。
いえる、のだが……人類の中でも権力に特に執着するのが人間種であるせいか、それともシルフィドであればジオル森王国、メタリオであればサイラス帝国で立身出世を目指すせいか。
あるいは、獣人に放浪癖があるせいか。
……それとも、狂った前王やナリカ王女の手によるものか。
今のキャナル王国の中枢には、選民意識の強い人間が非常に多かった。
これが現在のセリスの苦境を招いているといってもいいが、その責任を冷遇されていたセリスに問うのは酷というものだろう。
文官達のほとんどがオロオロするばかりの飾りになっている現在、光剣騎士団の面々とセリスがなんとか現在の状況を切り回しているのだ。
さて、そんな彼等でも限度というものはあり……朝市のようなものはエルアーク守備騎士団の仕事の範疇になる。
この状況でも行商人は逞しいものであり、平時よりも積極的に来るようになった彼等は今朝も朝市に露店を並べる。
人間にメタリオ、獣人に時折シルフィド。そしてハーフやクォーター達。
様々な種族が入り乱れ、未だ破壊されたままの正門付近にも笑い声が響く。
こうした状況があるからこそ、エルアークの人々は希望を失わないでいられる。
故に、多少の騒ぎくらいはエルアーク守備騎士団の面々も大目に見ている。
いる、のだが……そんな彼等の目から見ても、少々異質な集団が今朝はエルアークを訪れていた。
「ふーむ……」
ずんぐりむっくりとした……メタリオに見える男が、街壁をじっと見上げる。
「中々高いな」
「上の方は、ありゃあ人の行き来が可能になっとるみたいだな。あっちに階段があるぞ」
その男の周辺にはやはりメタリオと思われる男女が数人いて、壁を触ったり叩いたりしている。
「石を積み上げて作ってるのか。しかし、これだと壊れやすいんじゃないか? なんで金属で作らんのだ」
「どっちにしろラクター様の拳一発で粉砕だろ?」
「いやいや、あの方基準で考えるのが間違ってるわよ。この工法にも意味があると考えるべきじゃない?」
唸ったり叩いたりしていた彼等は怪訝な顔をしているエルアーク守備騎士に目を向けると、こっちに来いと手招きをする。
「え、えーと。如何されました?」
「うむ、ちょいと聞きたいんだがの」
一番年上と思われる男はヒゲを撫でると、街壁をすっと指差す。
「この街壁とやらは……何の為に造っておるんだ?」
「へ? ぼ、防衛の為ですが」
「そうか。防衛の為か……あ、もういいぞ。ありがとうな」
何を言ってるんだ、という顔をして去っていくエルアーク守備騎士を見送ると、彼等は円陣を組む。
ちなみにであるが、彼等の正体はメタリオではなくノルムである。
エルアーク復興計画の為に召集された彼等ではあったが、この街の街壁の存在意義が見出せず直接見ることにしたのだ。
「それ見ろ、やっぱり境界線の主張ではないではないか」
「何を言うか、お前は巨大な建物を造ろうとした名残りだと言うとったろうが。違うのに変わりはなかろう」
そう、街壁とは基本的に「外敵から身を守る為」に造るものだ。
しかし、ザダーク王国において「敵」とは勇者一行であったし、「ダンジョン」はともかく「住処の防衛」という視点は存在しなかった。
何しろ、群雄割拠状態であった魔族が「街」や「村」という概念を得て共同生活を始めたのは魔王ヴェルムドールの統治後である。
そんな街を襲撃する者などいるはずもない。
居たとして、何故防衛しなければならないのか。
もし「襲撃者」が存在したとして、積極的に迎撃に出るのが魔族的思考である。
造ったとしても、ゴーレム達に出撃の邪魔だと粉砕されるのが目に見えている。
そんなものを造ろうなどと考える者が中々いるはずもなく、自分達の芸術品を酔っぱらいの暴れドラゴンや暴れゴーレムから守ろうとする南方の一部でしか「街壁」はザダーク王国では生まれなかったのだ。
しかしそれも試験的なもので広まってはいない。
故に、このノルム達のような反応が普通なのである。
「しかし、防御か……」
呟いたノルム達は、示し合わせたように一斉に空を見上げる。
ザダーク王国では見られない蒼天は美しい。
美しいには美しいのだが、問題はそこではない。
「何かあるように見えるか?」
「いや、何もないのう」
「水晶を磨いとるんじゃないか?」
「いや、反射もしてないし……ほら、鳥が飛んでるわよ」
屋根らしきものがそこに無い事を確認すると、ノルム達はうーむと唸る。
この街の街壁が防衛の為のものであることは理解した。
しかし、それにしては空からの防御に対する備えが無い。
これではドラゴンはブレスを吐き放題だし、飛べる敵が相手では全く意味が無い。
むしろ壁の中に攻撃すればいいと分かる分、皿に載せて「召し上がれ」と言っているのと何が違うのだろうか?
「どういうことだ……?」
「分からん。そもそも、あの壁では脆すぎるだろう。攻撃魔法の一発も防げると思えん」
そんなものはあまり想定していないからそうなのであるが、ノルム達にはそれが理解できない。
そもそもの話になるが、人類領域における「街壁」とは不正な侵入防止、あるいは不正な脱出防止のために生まれたものである。
犯罪者対策として生まれたそれは、ゴブリンやビスティアなどからの襲撃を防ぐ為に堅牢で高い石壁となって現在の形となっている。
そもそもからしてドラゴンの襲撃などというものは視野に入れていないのだ。
「うーむ、謎だ……」
「む? いや、待てよ。俺には分かったかもしれんぞ」
悩むノルム達のうち、ちょび髭のノルムがそう叫んで手を打つ。
「これはもしや、修繕しやすいように造っているのではないか?」
「むう、確かに石を積む方式なら資材の調達には困らんが……だが、それでは元々の防衛という意味が薄れるだろう」
そうだそうだ、と同意する仲間のノルム達にちょび髭ノルムは自慢気な顔で人差し指を振ってみせる。
「イラッとするのう、その動き」
「ああ、指を思い切り折ってやりたくなる」
「それよりヒゲ抜きましょうよ。なんか嫌なのよね」
口々に好き勝手な事を言う仲間達に青筋を浮かべながらも、ちょび髭ノルムはゴホンと咳払いをする。
「……つまりだな、この壁は威嚇なんだ」
「威嚇じゃと?」
「ああ、そうだ。この壁でも、ゴブリンや……まあ、ビスティア程度の襲撃なら防げるだろう。つまり、この壁を壊せない程度の者はケンカを売りに来るのはやめておけ……と。こういうことなんじゃなかろうか」
ちょび髭ノルムのあまりにも素晴らしい回答に、他のノルム達は目から鱗が落ちたような思いを味わった。
「な、なるほど! 確かにそれなら壊れやすいことにも直しやすいことにも説明がつく!」
「しかも高ければ高いほど壊した時に目立つ……いざ威嚇を物ともしない相手が来た時には、相手からの挑戦状にもなるってことね!」
「人類にも粋な文化ってのはあるもんじゃのう」
勿論物凄い勘違いではあるのだが……結果的に普通の「補修」の範囲内で収まりそうなのは、エルアークの人々の幸運であった……のかもしれない。
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なんと次回に続きます。
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