勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
233 / 681
連載

よりよい補修の為に

しおりを挟む

 朝市。
 カシナートでそれが開かれているように、エルアークでも当然朝市は開かれている。
 ただ、カシナートの朝市とエルアークの朝市とでは大きな違いがある。
 それは、カシナートに人間種が多いのに比べるとエルアークには様々な人種が多い……ということだろうか。
 これはその場にいれば特に何も感じないのだが、実際に比べてみると大きな……そして重要な差であることが理解できる。
 何故ならば、キャナル王国はあらゆる人種の集まる国であり、「最も理想に近い国」と呼ばれるほどに「人類」が偏見なく平等に集まる国であるとされているのだ。
 その盟主のいるエルアークとカシナートで、何故このような差が出るのか。
 それは一言で言えば「その都市の主である王女達の望む方向性」の差であると言えよう。
 どちらも平等を謡いながら、セリスを混ざり者と蔑むナリカの態度が無意識のうちに民衆の中に浸透しているとも言い換えることが出来る。
 それに比べると、その「混ざり者」と蔑まれるセリスこそが本来のキャナル王国の精神を受け継いでいるといえる。
 いえる、のだが……人類の中でも権力に特に執着するのが人間種であるせいか、それともシルフィドであればジオル森王国、メタリオであればサイラス帝国で立身出世を目指すせいか。
 あるいは、獣人に放浪癖があるせいか。
 ……それとも、狂った前王やナリカ王女の手によるものか。
 今のキャナル王国の中枢には、選民意識の強い人間が非常に多かった。
 これが現在のセリスの苦境を招いているといってもいいが、その責任を冷遇されていたセリスに問うのは酷というものだろう。
 文官達のほとんどがオロオロするばかりの飾りになっている現在、光剣騎士団の面々とセリスがなんとか現在の状況を切り回しているのだ。
 さて、そんな彼等でも限度というものはあり……朝市のようなものはエルアーク守備騎士団の仕事の範疇になる。
 この状況でも行商人は逞しいものであり、平時よりも積極的に来るようになった彼等は今朝も朝市に露店を並べる。
 人間にメタリオ、獣人に時折シルフィド。そしてハーフやクォーター達。
 様々な種族が入り乱れ、未だ破壊されたままの正門付近にも笑い声が響く。
 こうした状況があるからこそ、エルアークの人々は希望を失わないでいられる。
 故に、多少の騒ぎくらいはエルアーク守備騎士団の面々も大目に見ている。
 いる、のだが……そんな彼等の目から見ても、少々異質な集団が今朝はエルアークを訪れていた。

「ふーむ……」

 ずんぐりむっくりとした……メタリオに見える男が、街壁をじっと見上げる。

「中々高いな」
「上の方は、ありゃあ人の行き来が可能になっとるみたいだな。あっちに階段があるぞ」

 その男の周辺にはやはりメタリオと思われる男女が数人いて、壁を触ったり叩いたりしている。

「石を積み上げて作ってるのか。しかし、これだと壊れやすいんじゃないか? なんで金属で作らんのだ」
「どっちにしろラクター様の拳一発で粉砕だろ?」
「いやいや、あの方基準で考えるのが間違ってるわよ。この工法にも意味があると考えるべきじゃない?」

 唸ったり叩いたりしていた彼等は怪訝な顔をしているエルアーク守備騎士に目を向けると、こっちに来いと手招きをする。

「え、えーと。如何されました?」
「うむ、ちょいと聞きたいんだがの」

 一番年上と思われる男はヒゲを撫でると、街壁をすっと指差す。

「この街壁とやらは……何の為に造っておるんだ?」
「へ? ぼ、防衛の為ですが」
「そうか。防衛の為か……あ、もういいぞ。ありがとうな」

 何を言ってるんだ、という顔をして去っていくエルアーク守備騎士を見送ると、彼等は円陣を組む。
 ちなみにであるが、彼等の正体はメタリオではなくノルムである。
 エルアーク復興計画の為に召集された彼等ではあったが、この街の街壁の存在意義が見出せず直接見ることにしたのだ。

「それ見ろ、やっぱり境界線の主張ではないではないか」
「何を言うか、お前は巨大な建物を造ろうとした名残りだと言うとったろうが。違うのに変わりはなかろう」

 そう、街壁とは基本的に「外敵から身を守る為」に造るものだ。
 しかし、ザダーク王国において「敵」とは勇者一行であったし、「ダンジョン」はともかく「住処の防衛」という視点は存在しなかった。
 何しろ、群雄割拠状態であった魔族が「街」や「村」という概念を得て共同生活を始めたのは魔王ヴェルムドールの統治後である。
 そんな街を襲撃する者などいるはずもない。
 居たとして、何故防衛しなければならないのか。
 もし「襲撃者」が存在したとして、積極的に迎撃に出るのが魔族的思考である。
 造ったとしても、ゴーレム達に出撃の邪魔だと粉砕されるのが目に見えている。
 そんなものを造ろうなどと考える者が中々いるはずもなく、自分達の芸術品を酔っぱらいの暴れドラゴンや暴れゴーレムから守ろうとする南方の一部でしか「街壁」はザダーク王国では生まれなかったのだ。
 しかしそれも試験的なもので広まってはいない。
 故に、このノルム達のような反応が普通なのである。

「しかし、防御か……」

 呟いたノルム達は、示し合わせたように一斉に空を見上げる。
 ザダーク王国では見られない蒼天は美しい。
 美しいには美しいのだが、問題はそこではない。

「何かあるように見えるか?」
「いや、何もないのう」
「水晶を磨いとるんじゃないか?」
「いや、反射もしてないし……ほら、鳥が飛んでるわよ」

 屋根らしきものがそこに無い事を確認すると、ノルム達はうーむと唸る。
 この街の街壁が防衛の為のものであることは理解した。
 しかし、それにしては空からの防御に対する備えが無い。
 これではドラゴンはブレスを吐き放題だし、飛べる敵が相手では全く意味が無い。
 むしろ壁の中に攻撃すればいいと分かる分、皿に載せて「召し上がれ」と言っているのと何が違うのだろうか?

「どういうことだ……?」
「分からん。そもそも、あの壁では脆すぎるだろう。攻撃魔法の一発も防げると思えん」

 そんなものはあまり想定していないからそうなのであるが、ノルム達にはそれが理解できない。
 そもそもの話になるが、人類領域における「街壁」とは不正な侵入防止、あるいは不正な脱出防止のために生まれたものである。
 犯罪者対策として生まれたそれは、ゴブリンやビスティアなどからの襲撃を防ぐ為に堅牢で高い石壁となって現在の形となっている。
 そもそもからしてドラゴンの襲撃などというものは視野に入れていないのだ。

「うーむ、謎だ……」
「む? いや、待てよ。俺には分かったかもしれんぞ」

 悩むノルム達のうち、ちょび髭のノルムがそう叫んで手を打つ。

「これはもしや、修繕しやすいように造っているのではないか?」
「むう、確かに石を積む方式なら資材の調達には困らんが……だが、それでは元々の防衛という意味が薄れるだろう」

 そうだそうだ、と同意する仲間のノルム達にちょび髭ノルムは自慢気な顔で人差し指を振ってみせる。

「イラッとするのう、その動き」
「ああ、指を思い切り折ってやりたくなる」
「それよりヒゲ抜きましょうよ。なんか嫌なのよね」

 口々に好き勝手な事を言う仲間達に青筋を浮かべながらも、ちょび髭ノルムはゴホンと咳払いをする。

「……つまりだな、この壁は威嚇なんだ」
「威嚇じゃと?」
「ああ、そうだ。この壁でも、ゴブリンや……まあ、ビスティア程度の襲撃なら防げるだろう。つまり、この壁を壊せない程度の者はケンカを売りに来るのはやめておけ……と。こういうことなんじゃなかろうか」

 ちょび髭ノルムのあまりにも素晴らしい回答に、他のノルム達は目から鱗が落ちたような思いを味わった。

「な、なるほど! 確かにそれなら壊れやすいことにも直しやすいことにも説明がつく!」
「しかも高ければ高いほど壊した時に目立つ……いざ威嚇を物ともしない相手が来た時には、相手からの挑戦状にもなるってことね!」
「人類にも粋な文化ってのはあるもんじゃのう」

 勿論物凄い勘違いではあるのだが……結果的に普通の「補修」の範囲内で収まりそうなのは、エルアークの人々の幸運であった……のかもしれない。
************************************************
なんと次回に続きます。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。