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連載
黒狼と灰色ウサギ
しおりを挟む「お、こんなとこに居やがった……おーい、直接本部に来いって言っただろうよ」
「む?」
なおも街壁を見上げながらああでもない、こうでもないと話し合うノルム達の元に、そんな声がかけられる。
その声に反応したノルム達の視線の先にいるのは、一人の男。
この様々な人々が居る中でも少しばかり突出した美しさを持つその男は、オールバックに整えた艶やかな黒い髪が実に印象的だ。
漂うオランジの爽やかな香りに道行く女性が振り返り、その男の美しさに頬を染める女性すら居る。
そう、その男を一言で表現するならば……「クールで出来る男」だろう。
細身ながら筋肉質な身体をシンプルながらも上品な服に包み、その冷徹にも思える眼差しは鋭く、すっと通る鼻筋と皮肉気にゆがめられた口。
先程その口から出た発言内容をも加味すれば、少々野生的なところもあり、更に「本部」とやらに勤める男であることも理解できる。
しなしながら行商人のような「余所者」はともかくエルアークの女性達も、この男に全く見覚えは無かった。
見たところ人間にも思えるが、貴族連中のような気取った雰囲気も無い。
「あ、あの……」
「ん?」
その男の前に、一人の女がさっと進み出る。
獣人と何かのハーフ……あるいはクォーターであると思われる女の頭には灰色のウサギの耳がついており、緊張しているのか細かく震えているのが分かる。
「わ、私マーロゥといいますっ。お名前教えていただけませんかっ!?」
「ん……ああ、俺か?」
何やら注目を浴びていることに気付いた男はフッと笑う。
苦笑にも思えるその皮肉気な笑みに、マーロゥの耳が不安気に揺れる。
「アウロック。俺はアウロックだ。ついでに言えば、この街には最近来たばかりだな」
「アウロック……さん」
「おう」
少しぼうっとしていたマーロゥは、アウロックを……正確には、アウロックの頭の上をじっと見つめる。
「あの……つかぬことを伺うのですが」
「なんでも聞いてくれていいぜ? 好みのタイプでも話すか?」
「え……ひぇへっ!?」
ウインクなどをしてみせるアウロックに顔を真っ赤にすると、マーロゥは慌てて首をぶんぶんと横に振る。
「い、いえ! そうではなくて!」
「おう。デートのお誘いか? 今日はちっと無理だが明日なら」
「ち、違うんです! あ、嫌ってわけじゃないんですけど違くて、そのですね!」
身体全体をバタバタさせながら全身で否定するマーロゥの肩に、アウロックは苦笑しながら手を置く。
「落ち着けって。からかって悪かったよ」
「あ……ひあっ!」
「おっと。悪い悪い」
慌てて手を放すアウロック。
ちっとも悪いとは思って無さそうな顔ではあるが、一方のマーロゥは顔を真っ赤にしていっぱいいっぱいである。
「で、なんだ。マーロゥは俺に用事なんだろ? 初対面な気もすっけど」
「あ、はい。えっとですね、その」
「はいはい、私はラナーシャです!」
「あたしはアルナ! よかったらこれから朝市回らない!?」
「ひゃあっ!?」
想像よりずっと話しやすそうだとみた他の女性陣に突き飛ばされるような形で、マーロゥはくるくると回って地面にぺたんと尻餅をつく。
一方のアウロックは女性陣に囲まれたまま、投げかけられる言葉に頷きながらもいなしていく。 積極的な女性の扱いに慣れたかのようなその所作はプレイボーイをも連想させるが、決して軽く扱ってもいない。
ニコニコと笑いながら誘いを断っていき、なんとか立ち上がったマーロゥの近くまでやってくる。
「……うぁちゃー……あいつ等どっか行っちまってるし。これだけ人がいると鼻も中々なあ……」
「あ、あのっ!」
「おう、悪いな。ちょっと俺、仕事中でよ。落ち着きのねえ連中をとっ捕まえてこないといけないんだよ」
そう言って軽く手を上げて通り過ぎようとするアウロックの手を、マーロゥががしりと握る。
「そ……そそそっ!」
「そ?」
「それ、お手伝いしますっ! こう見えても私、獣人の血が入ってますからっ!」
「だろうなあ……」
揺れるウサギの耳を見ながら、アウロックは呟く。
ファッションで偽物をつけているというのでもなければ、疑いようもなく獣人の血が入っている。
とはいえ、わざわざ手伝ってもらうまでもない。
ビスティアの中でも特に匂いに敏感な黒狼のビスティアであるアウロックにしてみれば、ウサギの獣人のハーフだかクォーターだかにやってもらう事はゼロである。
出来るだけ傷つけない台詞で断ろうとしたアウロックはしかし、突如ピクリと視線を動かす。
それは、先程話しかけてきた女性達の集まりの中から聞こえてきた台詞。
小声で呟いていたであろうソレはしかし、アウロックの耳にしっかりと届き。
それを聞くなり、アウロックはマーロゥの腕を掴んでぐいと引き寄せる。
「そこまで言うんなら、手伝って貰おうか」
耳元で囁くような声にマーロゥは蒸発するのではないかという程に顔を赤くする。
「そ、それなら」
私の方が、と言って近寄ろうとする他の女性達をアウロックはマーロゥを掴んでいない手で制すると、にっこりと微笑む。
「ああ、悪いな。先着一名様限定なんだよ……また今度な?」
そう言うと、今にもへたりこみそうなマーロゥを引っ張るようにして歩いていく。
少しばかり自分の手を握る力を強くしたアウロックに戸惑いながらも、マーロゥは手を引かれるまま歩く。
騒がしい朝市からは、少し外れた方角。
あまり人の居ない街壁沿いを歩きながら、マーロゥは自分を引っ張るアウロックに声をかける。
「え、えっと。それで探してる人って」
どんな人ですか……と。
そう言おうとしてしかし、その言葉は出なかった。
振り返ったアウロックの瞳が、ぞっとするくらいに冷たい色を帯びていたからだ。
「獣人の血が入っているって言ったな」
「え……はい」
「他にも何か……隠してることはないか?」
そう、あの時。
アウロックの良すぎるほどに良い耳に聞こえた言葉。
汚らわしいビスティアの子のくせに。
確かに、そう聞こえたのだ。
そして、その「汚らわしいビスティアの子」とは、恐らく……いや、間違いなく。
「わ、私は……」
「お前の用事も、大体は予想がついた」
視線を慌しく動かして分かりやすい挙動不審に陥るマーロゥ。
誤魔化そうとするかのような台詞を遮って、アウロックはそう断言する。
「俺を同族だと理解したんだな? あるいは、お仲間だと思ったか?」
「え……えうっ……」
アウロックはマーロゥを、手近な路地裏に引きずり込む。
その手に、毛皮に包まれたものに変化していく。
その顔も、黒い狼のものへと変貌して……服装はそのままに、アウロックは黒狼のビスティアとしての姿に変化する。
「俺はザダーク王国のビスティア、アウロックだ。答えろマーロゥ。お前は……ビスティアの血が入っているのか?」
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