勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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未知の文化は宝の宝庫

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 さて、アウロックがマーロゥとなんだかんだやっている頃。
 当然、ノルムの技術者ご一行は野放しである。

「よかったんかのう、無視してきちまったが」
「いいんじゃねえか? 女に囲まれて幸せそうだったじゃねえか」
「嫌ねえ、男の嫉妬の見苦しいこと」
「むしろ独身者の……だろう?」

 フッと笑うちょび髭ノルムに、他のノルムの蹴りが周りから入る。

「たまたま一人だけ上手くやっとるからと調子に乗りおって!」
「イラっとするのう、このちょび髭」
「もう抜いちゃいましょうよ。ブチッとやりたいわ」

 慌てて自慢の髭を押さえるちょび髭ノルムを蹴りながら、ノルム達は朝市の中へと突入していく。
 道端に並ぶ露店は、その形態も様々だ。
 布のようなものを広げ、よく分からない壺やら像やらを売るもの。
 簡単に組んだ店舗を作り、果物やら野菜やらを売るもの。
 樽に剣やら槍やらをどっさりと入れている者。
 そうかと思えば、簡単に調理した食べ物を売っている者もいる。

「……ふーむ」

 ごった返すそこを歩きながら、ノルム達は興味深げに辺りを見回す。

「これも内乱とやらの影響なのか?」
「まともな店舗を作る技術を持っていないってのはどうだ?」
「そんなわけないでしょ。辺りには石の建物があるのよ?」
「ゴブリン村に来た気分だな。奴等が店舗を作ったら、こんな感じだろう」

 言いたい放題であるが、これもまた人類領域とザダーク王国の文化の違いによるものである。
 簡単にいえば、ザダーク王国には「露店」という文化が無い。
 街は緻密な都市計画の下に作られ、店舗も、いわゆる食堂や宿屋のような「中でもてなす」タイプと、持ち帰り……駒クジ屋や串焼き屋などの「対面式」タイプ、あるいは武器屋などの、中でもてなすがもっと簡易的なタイプなど、とにかくしっかりとした「店舗」があることが前提となっている。
 これは魔族が群雄割拠していた時代の、いわゆる「縄張り」意識の名残りで確固たる自身の領域を求めている為だとロクナは分析しているが、実際のところは不明だ。
 とにかく、魔族に簡易式の露店といったものは存在しないのである。
 故にノルム達の分析も、決して人類を下に見ているとかそういうわけではない。
 単純に、文化が違うせいで理解できないのである。

「つまり、あの形に何かしらの利点があるってことだよな」
「ふむ。作るのは速いな」
「壊すのも速いわよ」

 女のノルムの一言に、ノルム達はハッとしたように顔を見合わせる。
 その心は一つ……壁と同じだ、である。

「そうか……物を売ると同時にケンカの買い取りも行うというわけか」
「新しい発想じゃの。すると価値の高い物が並んでいない理由にも合点がいく」

 それは単純に露店や朝市が高い物を扱う形態のものではないからなのだが、ノルム達にそんなことは分からない。

「意図的に壊しやすい店舗にすることで、一日に買い取れるケンカの数も増える……凄い発想をするのね、人類って」
「しかしそうなると、店を壊すわけでもなく商品を買う連中はなんなんだ?」

 その言葉に、ノルム達はうーんと唸って円陣を組む。
 ちなみに、きちんと端によっているので迷惑にはなっていない。
 周りからも、エルアークのような大都市が珍しいおのぼりさん……みたいに見られている。
 
「……見物料、というのはどうだろう」
「む、なるほど。闘技場と同じ理屈で、戦わずして戦いの興奮を得る代償というわけだな」
「それよりも、私は応援のようなものだと思うわ」
「応援?」

  女ノルムの言葉に、他のノルムの視線が集まる。

「そう、この店舗全てがケンカの買い取り希望の戦士の集まりだというのであれば、当然人気の有り無しもあるはずよ」
「……そういえば、同じ商品を扱っていても人の集まる店舗とそうでもない店舗があるな」
「なるほど、お気に入りの戦士への投資というわけか」
「しかし、そうするとあの少女の店舗はどういうわけじゃ? 強そうには見えんが」

 ノルム達の視線の先にあるのは、アクセサリーを売る少女の露店である。
 金や銀を加工して作ったと思われるアクセサリーはノルム達からしてみれば未熟の一言に尽きるが、それなりに将来性を感じるものではあった。
 そういう意味では売れているのも納得はいくのだが、それを認めてしまっては先程納得できた露店に関する疑問が再燃してしまう。

「実は、あの少女も強いというのはどうだろうな」
「いや、どう見ても普通の人間じゃろ」
「魔力も然程感じないわよ」
「これからに期待を込めてという応援だというのはどうだろうな?」

 出された意見にノルム達はふうむ……と唸る。
 その辺りが現実的なところだろうか、と頷きあう。
 勿論全然違うのだが、ある意味で間違ってはいないのが恐ろしい部分でもある。
 
「うーむ。人類っつーのは中々に熱い種族だな」
「ワシ等も参加したくなるのう。魔族の飛び入り参加は受け付けとるのじゃろか」
「やめなさいよ。ゴブリンのケンカにゴーレムが混ざるようなものよ」

 蹴りの一撃で空を舞うゴブリン達を想像して、ノルム達は冷静に頷きあう。

「……うむ、それは無いの」
「アウロックの奴がイチカ様から逃げ切れるかを賭けるよりつまらんの」
「どうせ畑の野菜の仲間入りじゃな」
「この前は壁の飾りになったって聞いたわよ」

 ひとしきり笑いあうと、ノルム達は口惜しげに朝市を見る。

「うーむ、いい文化じゃのう」
「ああ、来てみないと分からんものはたくさんある。魔王様の言った通りじゃ」

 ヴェルムドールが言いたかったことは、恐らくそうではないはずである。
 しかし、この場にはそれを突っ込む者は一人とてない。

「こうなると、普通の家も見ておくべきじゃないか?」
「そうじゃの、何か新しい発見があるかもしれん」

 文化とは、必要に応じて発展するものである。
 そして、未知の文化の刺激を受けることもまた発展の条件である。
 かつて暗黒大陸が人類領域の未知の文化を取り込み発展したように……だ。
 無論、そこから生まれるのが同じ物とは限らない。
 必要の無いものを切り捨て、必要のあるものを組み込んだ結果、全く違うものが出来上がるかもしれない。
 そもそもの意味を勘違いした結果、思わぬものが出来上がるかもしれない。
 しかし、それが文化なのだ。
 故に、このノルム達の珍道中にも相応の意味はある。
 後々アウロックに叩き込まれる攻撃コンボ数が大幅に増えたとしても……である。
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