240 / 681
連載
黒翼は蒼天に羽ばたく8
しおりを挟む副都カシナートで行われている、騎士選考会。
順調に行われていたかに思える二日目の大会は、しかし……思わぬ事態に陥っていた。
「しょ、勝者ルーテリス!」
審判役の騎士が声をあげるその舞台の中央。
そこには倒れた一人の男と……それを見下ろすルーテリスと呼ばれた男の姿があった。
一見して勝者と敗者が明確な、その光景。
しかし、そこに称賛の歓声も興奮もない。
ただ、ここにあるのは静寂のみ。
しかしながら、それも仕方の無いことだろう。
倒れ伏す男の姿。
防具をボコボコにへこませ、あちこちの骨が折れていると分かる無惨な姿。
まるで壊れた人形か何かのように腕や足が奇妙に折れ曲がった、その姿。
それと対比して、防具の一つすらつけてはいないというのに、傷一つない勝者の姿。
白い髪は前髪が少し長めで、その目元を微妙に覆っている。
後ろ髪も長く、肩より下まで伸ばした髪は一見女性のようでもあるが、女性の髪に感じるような艶やかさは無い。
全体的に細く、今回の参加者の中でも特に身長が高い。
カッチリした詰襟の服を着こなす姿は騎士のようでもあり……しかし、その行動は騎士とは程遠い。
何故なら……開始と同時に対戦相手の顔面を強打し、そのまま動かなくなるまで殴り続けたのが、この男であったからだ。
「……」
ルーテリスは無言で舞台を降りると、参加者達が座っている舞台周りの席へと進み……思わず潮が引いたように避ける他の参加者達を気にもせず一点を目指して歩いてくる。
その先にいたのは……カインとアインの二人である。
ルーテリスはアインの隣に乱暴に音を立てて腰掛けると、その端正な顔に凶暴な笑みを浮かべる。
「なあ、オイ。つまらねえと思わねえか?」
アインは答えない。
始まる次の試合を黙って眺めており、対照的にカインはルーテリスを無言で睨みつけている。
しかし、ルーテリスはカインを一瞥するとすぐに興味を無くしてアインに視線を戻す。
「あんな鈍器を振り回して我こそ最強の騎士でございますってか? 実にくだらねえ」
アインの視線の先では、全身鎧を付けた重剣士が鎧の重さを感じさせない動きで相手の軽戦士を舞台隅へと追い詰めている。
その動きは実戦で鍛え上げられた合理的な美しさを感じさせ、アインは思わずほう、と感嘆の声をあげる。
恐らくは何かの正式な剣術を下敷きにしているのであろうが、それに頼らない鍛え上げられた剣である。
「剣ってのは斬ってこそ……っておい、聞いてんのか」
アインの肩を掴もうとしたルーテリスはしかし、乱雑にアインにその手を弾かれる。
「喚くな」
「……あ?」
重剣士が軽剣士の剣を弾き飛ばしたのを見届けると、アインは舞台から目を逸らさぬままルーテリスへと答える。
「その鈍器とやらを鈍器としてしか扱えない程度が貴様だというだけの話だろう。今の試合に比べ、貴様の試合がどれ程不細工だったか……自覚が無いのか?」
その言葉に呆気にとられていたルーテリスはその意味を考えるように首を捻ると、わけがわからないといった顔でアインを見る。
「何言ってんだ、お前。剣の存在意義ってのは斬ることにあるんだぞ? 上手に振り回す為のもんじゃねえんだ。斬れない剣なんざ、不能の男と同じだ……本来の役割を投げ捨ててやがる。剣の役割を捨てた鉄屑なんぞ、鈍器以外の何物でもないだろうがよ」
ルーテリスは両手を広げ、子供に諭すように語り始める。
「いいか、確かに剣術ってのはいいもんだよ。極めりゃ間違いなく強くなる。だがよ、そりゃ所詮剣で上手く斬ったり刺したりする為の技術だ。つまり剣ってのはその為に生まれるんだ。剣を上手く使う為に他の全てがあるんだ」
「……それだと、剣が全てみたいじゃないか」
アインを挟んだ反対側から、カインが睨み付けるようにしながらルーテリスへと反論する。
ルーテリスはそこで初めてカインの存在を思い出したかというかのように目を見開くと、すぐにその目をバカにしたように細める。
「……あったりめえだろ? 究極的に言えば、最強の剣が一本ありゃあガキでも強者を殺せる。他でもない勇者がソレを証明しただろうがよ」
ルーテリスの暴言とも言える台詞にアインはピクリと眉を動かし、カインは苦々しげな顔をする。
勇者リューヤの振るった聖剣。
確かにそれは最強であったといい、聖剣の完成が無ければ魔王を倒せなかったとすら言われている。
「鍛えた身体も、卓越した技術も……それは所詮、剣の弱さを補う為のものに過ぎねえ。王女サマも強い騎士が欲しいってんなら、武器込みで審査すりゃいいのによ。そいつが一番早ぇ」
「……随分と自分の剣に自信があるようだな?」
アインの何気ない問いに、ルーテリスは待っていたというかのように顔を歪める。
「……まあな。俺に対抗できるのは、それこそ絶剣か聖剣くらいなものさ」
絶剣。
世界に五本しかないという幻の剣を例にあげて、ルーテリスは哂う。
「絶剣か。そんなもの、ただの伝説に過ぎんだろう。無いものと比べても空しいだけだぞ」
「そうか?」
アインの嫌味を鼻で笑うと、ルーテリスはその笑みを一層深める。
「そうでもないと思うぞ。この選考会が自前の武器が可だったら、出会う機会があったように俺は思うがね?」
「……お前の武器が絶剣だというオチか?」
それを聞いて、ルーテリスは口を開けて大声で笑う。
おそるおそる会話を遠巻きに聞いていた他の参加者達が思わず振り向く程の笑い声に、アインは不快そうに耳を手で塞ぎ……カインも同様に片手でルーテリス側の耳を塞いでいる。
そうしてひとしきり笑い終えると、ルーテリスは膝をポンと叩く。
「いやいや、面白い冗談だったぜ」
そう告げると、ルーテリスは席から立ち上がる。
「お前じゃないことも分かったし……まあ、もういいや。じゃあな」
「……何の話だ?」
「別に。もうどうでもいい話だよ」
ルーテリスはそう言うと、スタスタと闘技場の建物の中へと入っていってしまう。
まるでもう用は無いというかのような様子に、アインは不可解そうな顔をする。
「……なんだったんだ、アイツは」
この日の試合はルーテリスのもたらした波乱こそあったものの一応順調に進んでいった。
そうして残ったのは、六人。
その中には当然アインとカイン……そして、ルーテリスの名前も存在していた。
************************************************
ちなみに実は絶剣はすでに一本、作中に出てきています。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。