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連載
黒翼は蒼天に羽ばたく9
しおりを挟む残った六人には、騎士の地位が確約される。
他の者にも、選考の機会は残される。
そんな発表がされた後に、再び一日の休憩を挟み試合が行われる事が発表された。
多少問題のある者を含んでいるとはいえ、全体的にレベルの高い者が集まったというのが大体の評価……ではあるのだが、その「多少問題のある者」が大問題であり、エルレイム城の執務室にはナリカの怒号が響いていた。
「冗談じゃないわよっ! なんで上位六人なんてことにしたのよ!」
「……ナリカ様が強いのが最低条件と仰ったからでしょう?」
煩そうに目を細めるマゼンダにナリカは机の上のペンを投げるが、マゼンダは物理障壁でそれを弾く。
それを忌々しそうに見ると、ナリカは机を叩いて叫ぶ。
「確かに言ったわよ! ええ、言ったわ! でもね、私は蛮族を騎士に登用しろって言った覚えは無いわよ!」
蛮族。
そう言われているのは当然ではあるが、対戦相手を撲殺寸前の目にあわせたルーテリスである。
騎士物語のような華麗な剣技を振るう騎士を理想としているナリカにとって、棍棒で相手を殴り殺すオウガか何かを彷彿とさせる戦いは気に入らなかったようだ。
「いいかしら!? 正統たる私の率いる騎士団は強く、美しくあらねばならないのよ! 誰もがそれを見て、私を称えるような最高の騎士団! その為にわざわざ選考会なんて開いたっていうのに!」
「剣の刃を落としたのが気に入らなかったようですね。普通の剣を与えればナリカ様の望む剣技を披露するのでは?」
言われてナリカは少し考えた後、マゼンダをジロリと睨む。
「……私にネリガルと同じ思いでもさせるつもり?」
「まさか」
ネリガル。
それは数代前にこのカシナートに居た王族であり、闘技場で刃を落とした武器を使う原因になった……まあ、人間真っ二つ事件を見せられる羽目になった人物のことである。
「あんな蛮族に普通の剣なんか持たせたら、同じことが起こるに決まってるでしょうがっ!」
「分かりませんよ、真っ二つじゃなくて首が飛ぶかもしれませんし」
「バカにしてんのアンタッ!」
机の上にあるものを手当たり次第に投げると、ナリカはぜえぜえと荒い息を吐く。
「とにかくっ! 何かいい手段を考えなさい! もっと華麗で私の人気を高めるような手段よっ!」
「そう言われましてもね」
面倒だ、という感情を隠しもせずにマゼンダは持っていた魔法理論の本をポイと投げ捨てる。
「ちょっと、本は読んだら片しなさい!」
「つまんないんですよ。こんな紙屑量産して、この自称研究者は恥ずかしくなかったんですかね」
ふう、とくだらなそうに溜息をついて、マゼンダは顎に手をあてる。
ナリカの要求自体もくだらないので相手をしたくないのだが、とりあえず何かの案を出さねば収まるまい。
どうしたものかと考え……しかし、すぐに良い案が思い浮かぶ。
「ああ、一石二鳥の案がありますね」
マゼンダがそう言うと、ナリカは途端に目を輝かせる。
「え、何よ。そんなものがあるなら早く言いなさいよ!」
「ええ、実に簡単な話です」
マゼンダはそう言って机に近づくと、その上から一つの紙束を取り出してナリカに押し付ける。
「は? 何よこれ」
普段の執務をマゼンダに放り投げているナリカは、その初めて見る書類に訝しげな顔をする。
それは、カシナートの比較的近くの山でゴブリンらしきものを見かけたという報告書であった。
報告書の日付は二週間ほど前のものであり……もし本当にゴブリンであれば、二匹から小規模の集落くらいには増えている計算である。
そしてこれが集落から独立して移動してきたものであった場合は中規模の集落になっていたとしてもおかしくは無い。
更に言えばそれは、その「確認した日」に住み着いたと仮定した場合である。
それほどまでにゴブリンの繁殖力は侮りがたく、その数が本来の実力差を覆すのもよくあることだ。
しかしながら、それだけに「実力」を示させるにはもってこいであるともいえるのだ。
「なるほど……ゴブリン退治ってことね?」
「そうです。最も多く狩ってきた者から上位とすればよいですし、民衆も感謝することでしょう」
その言葉に、ナリカはふむと頷く。
人が住むうえでの恐怖や不安というものは数多くある。
飢えや貧困などといったものも不変ではあるし、盗賊などもそうである。
凶悪なオウガや狡猾なビスティアも人々を不安に陥れるものだ。
しかしながら最も弱いはずの「ゴブリン」こそが、人々が最も恐れるものなのだ。
その理由は単純だ。
何処にでも集落を作り、簡単に増えて規模を急速に拡大する。
そして分かりやすく粗暴で、強欲で……悪食だ。
ゴブリンの大軍に襲われれば、小さな町程度なら住民ごと食い尽くされてしまうような危険性があり、そしてその可能性は「ゴブリンをほんの数ヶ月放っておくだけ」で発生しうる。
これが恐怖でなくてなんだというのだろう。
滅多に出会うことの無いオウガよりも、何処にでもいるゴブリンを人々が恐れるのは自明の理であるのだ。
「ふーん……いいんじゃない? ゴブリン相手なら、当然魔法もアリよね」
「そうですね」
「討伐数はどう数えるつもりなの?」
冒険者であればカードに討伐数を記録する機能がついていたりもするのだが……参加者全員が冒険者というわけでもないし、何より冒険者ギルドは協力しないだろう。
この内乱の最中の騎士登用は明らかに内乱の為の戦力拡大であり、それに協力することは冒険者ギルドの掲げる中立性を損ねるものであるからだ。
そして、その「カード」の技術を所持しているわけではない以上は別の手段で数えるしかない。
「そうですね。古典的手段でいきましょうか」
古典的手段というのは、カードの「討伐数」機能が出来る前に行われていた「討伐の証拠」を提出する方法である。
討伐対象の何処かを切り取り証拠とする方法であるが、今となっては賞金首を狩った時の証明程度でしか使われてはいない。
そしてそれを悟ったナリカは、あからさまに嫌な顔をする。
「……この城に持ち込むんじゃないわよ」
「ええ、分かっていますとも」
貴方の叫び声はキンキンして響くからわざわざ聞きたいとは思いませんよ、と。
そんな台詞は飲み込んだまま、マゼンダは「ゴブリン退治による決勝戦」を公布するべく身を翻す。
執務室を出て、扉を閉めて。
廊下をコツコツと音を立てて歩きながら、マゼンダはああ……と呟く。
「そうだ、いい機会ですから懸念を潰しておく事にしましょうか」
「お? 何やるんだ?」
マゼンダの進む先。
研究室と書かれたプレートの貼られた部屋の前に立つ男が、面白がるような調子で言って片手をあげる。
「……貴方、こんなところで何をしているのですか」
そこにいたのは、長髪の男……ルーテリスである。
薄暗い廊下に佇む姿は幽鬼か何かのようで、気の弱い者であれば叫びだしそうな雰囲気をかもし出している。
「何って。今後の話し合い?」
「あまり不必要に此処で接触するなと言ったはずですが?」
マゼンダが怒気を込めて睨み付けると、ルーテリスは何処吹く風で耳をほじりはじめる。
「つまんねー事言うなよ。俺は退屈なんだよ……いつになったら面白くなるんだ?」
その言葉に、マゼンダはコイツを計画に組み込んだのは失敗だったかと舌打ちをする。
最高の果実を味わう為には最大の手間をかけなければいけないというのに、それを全く理解していない。
思えば、昔からこの男はそうだった。
これで強いという長所が無ければ、とっくに切り捨てている。
「……そうですね。折角来たのですから、貴方にも幾つか協力して頂きましょうか」
「お? 何やるんだ?」
「単純なことですよ」
マゼンダは研究室の扉を開けると、ルーテリスを招き入れる。
「入り込んだネズミを叩き潰すだけの……簡単なお仕事ですよ」
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