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連載
光、見えなくても5
しおりを挟む血が、ぽたぽたと化け物の身体から流れる。
魔族の目から見ても尚異形に分類されるその化け物は、広間の中の状況をゆっくりと見回し……そこで、立ち止まる。
それはどうしたものかと悩んでいるようで……その姿を見て、アウロックが口を開く。
「お前……マーロゥか?」
「アウロック、さん」
化け物……マーロゥはそう答えると、ノルムをそっと床に下ろす。
そうした後……マーロゥの身体が、ゴキンと音を立てて変形する。
肥大化していた身体が小さくなる。
全身を覆っていた毛が消えて、顔も元のマーロゥのそれに戻る。
服は弾け飛んでしまったのか無いが、血が服のように全身を覆っている。
巨体であれば許容範囲であった怪我も、こうして普通の身体に戻ってしまえば致命傷に近い。
駆け寄るアウロックの胸に倒れこむと、マーロゥはアウロックを見上げる。
「ノギルテークさんを……お願い、します」
「ああ。大丈夫だ。今マリンが治してる」
回復魔法をかけているマリンにちらりと視線を送ってアウロックが言うと、マーロゥはほっとしたような笑顔を浮かべる。
「……よかった」
「ああ、よくやったな」
「悪い人間も……やっつけました。ふふ、私も……戦えるんですよ」
「ああ、そうだな」
レモンが何処からか持ってきたコートを差し出し、アウロックはそれをマーロゥにかける。
アウロックは自分の胸の中でほっとしたように笑うマーロゥに笑いかけてみせると、ノギルテークを運ぶのをクリムに任せてやってきたマリンに頷いてみせる。
「マーロゥさん、こちらへ。その傷を治して……服もどうにかしましょう」
「は、はい」
マリンに二階へと連れられていくマーロゥは、ふと気付いたように慌てて振り返る。
「あ、アウロックさん! 私、これからもっともっとお役に立てますから! 戦いだって、いっぱい出来ます!」
「あー、分かった分かった。まずは傷を治して来い。な?」
マリンに腕を掴まれ階段を上っていくマーロゥは名残惜しそうに何度も振り返り……やがてその姿が二階に消えていったのを確認すると、アウロックは後ろ頭を掻く。
「……なんか、変だな」
「気になるところでも? 一途なように見えましたが」
「え? あー……」
アルテジオに問われたアウロックは、どう説明したものかと宙に視線を彷徨わせる。
「なんつーか……そうですねえ。戦いっつーと、ぴゃーと泣いてオロオロしそうな奴が、随分変わったな……と」
「なるほど。しかし、初戦を始める前と終えた後の者は、それこそ性格が変わったように見えることがあります。相当な激戦を経験したようですし……そういうことでは?」
アルテジオの言う事には、アウロックも覚えがある。
要は、新しい領域に踏み込む度胸の話だ。
未知が未知でなくなった時に、それへの抵抗が消失する。
いわゆる「壁を乗り越えた」というものだが……マーロゥの変化も、それなのだろうか?
考え込むアウロックではあったが、続くアルテジオの言葉でその思考を中断させる。
「……とにかく、現在他国の諜報部隊も一部呼び戻して魔王様への連絡と情報収集にあてています。こうなった以上私も此処にしばらく留まりますが、くれぐれも油断を……」
言いかけて、アルテジオは部屋のあちこちに縛られ転がされたままの騎士達へと視線を向ける。
「アルテジオ様?」
アウロックにアルテジオは答えず、光葬剣アウラールに手をかける。
その瞳は、縛り倒されたまま動かない騎士達へと向けられている。
「あの連中が何か? 気になるなら何処か隅にでも……」
「……なるほど。ただの人間ではなかったということですね」
「は?」
「全員、戦闘態勢に入りなさい! 来ますよ!」
光葬剣アウラールを構えたアルテジオに応えアウロックが腰から剣を抜き放ち、レモンが長杖を構える。
モカもまた、少し疲れた様子を見せながらも手の中に細剣を出現させる。
その四人の視線の向こうで……倒れた騎士達が、ピクリと反応する。
「……確実に『壊した』のに。なんで動けるんですか……?」
モカの疑問に答えられる者は、今は居ない。
そうしてようやく縛られている事に気付いたのか、身じろぎを始め……自分達をきつく拘束する縄を、ぶちぶちと引きちぎり立ち上がる。
「おいおい。そりゃもう人間の力じゃないだろ」
呆れたようなアウロックに、騎士達は答えない。
だらりと腕を下げて立ち上がり、荒く息を吐き兜の奥の目をギラつかせる。
「ゲ、ガ……コ、コロス! 殺スゥァァァ!」
叫び、走る。
隅に集められていた武器に目すらも向けず、凄まじいスピードでアルテジオ達に迫る。
「光ヨ、オソエ!」
先頭を走る騎士が叫ぶと、その頭上に複数の光弾が生まれ発射される。
「光ヨ、集イテ槍トナレ!」
「光ヨ、疾ク放タレヨ!」
続けて走る騎士達も、次から次へと光属性の魔法を展開し放つ。
「下がっていなさい」
向かってくる光弾の群れに対しアルテジオは一歩前に出ると、光葬剣アウラールを向ける。
そのアルテジオに光弾の群れは襲い掛かり……着弾するその寸前でその全てが斬り裂かれ、続く光の槍も、矢も……魔法剣を発動してないはずのアルテジオの斬撃に全て斬り裂かれ消滅する。
「ま、魔法が消えた……?」
「私が『光葬』と呼ばれる理由です。さあ、来ますよ……!」
「ゲギアアアアア!」
飛び掛ってきた騎士にアルテジオが強烈な蹴りを入れると、騎士はバウンドしながら後続の騎士を巻き込んで転がっていく。
「あ、アルテジオ様。殺しちゃマズいんですよね!?」
「ええ。今度は別の意味で殺さない方がよいでしょう。色々と興味深い事が分かりそうです。まあ、出来る限り……ではありますがね」
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