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連載
光、見えなくても6
しおりを挟む落ちていた剣を、一人の騎士が拾う。
「……殺ス」
だらんと腕を下げたままの騎士が剣を軽く振るうと、それを真似するように他の騎士達も剣を拾い始める。
それは、たまたま使える物を見つけたから拾ってみた……という風にも見えるだろうか。
元々あまり騎士らしくなかったと言ってしまえばそれまでではあるが、主君に剣を捧げる騎士としては「らしくない」行動である。
だが、その殺気だけは先程とは比べ物にならない「本物」でもある。
そんな明確な殺気を向けてくる騎士達を見て、アルテジオの口は笑みの形を作る。
「……これ程に純粋な殺気を向けられるのは、どれくらいぶりでしょうね」
距離を測り、必殺の間合いとタイミングを探る動作。
死角を探し、隙を伺う視線。
それがないとなれば、正面から突破し食い破ろうとする苛立ちと殺気。
それらが生み出す、ピリピリとして爆発する時を待つ空気。
久方ぶりのソレが、アルテジオを高揚させる。
うっかり殺してしまいそうな衝動を、ギリギリのところで抑制してアルテジオは光葬剣アウラールを構える。
アルテジオは、この状態があまり良くないと知っている。
これ以上続くと魔族としての闘争欲を抑えきれなくなると知っている。
四方将の中でもアルテジオは然程武闘派というわけではないが、戦いを避けるほど闘争欲が枯れているわけでもない。
何しろ、かつての暗黒大陸最強決定戦の際に北方のライバルを片っ端から斬り倒したのはアルテジオだ。
その理性的な面は、マルグレッテとの生活で生み出された後天的なものでしかないのだ。
だからこそ、アルテジオは自分から仕掛けた。
足を軽く踏み出し、光葬剣アウラールを僅かに動かす。
攻撃の前動作に似たソレをすることで、膠着状態を自ら崩したのだ。
それは当然誘いであり……しかし、仕掛けるチャンスを狙っていた騎士達はそれに見事にのった。
「ガアアアアアア!」
「ギイエアアアア!」
およそ人間の出す音とは思えぬ奇声をあげて飛び出した騎士達は、四方八方からアルテジオへ向けて飛び掛る。
「アルテジオさ……」
「助太刀は結構」
飛び出そうとしたクリムに短くそう答えると、アルテジオは光葬剣アウラールを床に突き刺す。
「顕現せよ、氷結大樹」
その言葉と同時に、今まさにアルテジオに斬りかかろうとしていた騎士の身体の下半分ほどが氷に覆われる。
「ガ、ア!?」
氷に覆われた騎士の身体から、更に四方八方へと伸びてゆく氷が続く騎士達を拘束し、一気に数人の騎士が氷の樹に喰われたかのような様相を見せる。
氷に拘束された騎士達はなんとか逃れようと氷に攻撃を加えるが、魔力の満ちた氷の前では普通の剣は空しく弾かれるだけである。
……だが、それで拘束したのは数人であって、騎士達はまだまだいる。
「オオオ!」
「殺ス、死ネ!」
その拘束された騎士達を踏み越えて襲ってこようとした騎士達が氷に足をかけ、あるいは飛び越えようとする。
だが……その瞬間、氷の樹はその枝を伸ばし騎士達を捕らえてしまう。
ならばと迂回して襲ってくる騎士達もまた、氷の枝が拘束し自分の一部に変えていく。
その度に増していく氷の樹の存在感は、まさに、氷結大樹の名に相応しいだろう。
「こんな魔法、知らないです……これって」
「ええ、私の独自開発魔法です」
レモンの疑問に、アルテジオは何でもないことのようにそう答える。
独自開発魔法。
それは理屈の上でだけいえば、然程特別なものではない。
魔法とはそもそも「決められた通りに行えば決められた効果が発動する」儀式である。
詠唱、魔法陣。
それらを一から構築できる知識と努力さえあれば、誰にでも出来るのだ。
……もっとも、それを出来る人材は極端に少ない。
何しろ理論では出来ていても発動すると全く違う効果であったというのはよくある話だ。
人類領域で有名な話だと、冷めた食品を温めなおす魔法を開発しようとした魔法使いが、実際に発動したら自分を大爆発させたというものもある。
斯様に魔法開発とは難しく、それ故に現代の魔法とは「既存の魔法を学問という形で伝えていく」ものになりつつあり、魔法開発は一部の天才の仕事とすら言われている。
現在過去を見渡しても、それら既存の魔法を超えて多種多様な魔法を開発できたのは、勇者リューヤの仲間であった賢者テリアくらいなものであろう。
しかしまあ……逆に言えば、それ以上に開発する程の必要性がある魔法が存在しないということでもあるのだが。
ちなみにだが、東方将であるファイネルの使う電撃砲もファイネルの独自開発魔法である。
分かりやすく強い為、現在ではファイネルの協力とロクナの改良によって色々と使いやすい形に整えられているが……この辺りは、ファイネル自身が電撃砲以外にも手札を多数持っていることにも起因する。
大抵は、アルテジオのように秘匿するものなのだ。
「……すごいです」
「たいしたことではありません。昔、群がる雑魚の親玉を吐かせる手段が欲しかった時がありましてね。その一念で出来たものに過ぎません」
騎士達を飲み込んで威容を増していく氷結大樹を眺めながら、アルテジオは懐かしそうにレモンへと答えた。
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