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連載
光、見えなくても7
しおりを挟む騎士達を拘束した氷結大樹が、その動きを止める。
四方八方へと広がった氷結大樹に絡めとられていない騎士は無く、その全てがギリギリと締め上げられる痛みに呻いている。
この辺りは、下手に集中させる隙を与えると攻撃魔法を放つ敵性魔族対策にと考えられたものだ。
実際、騎士達は敵意こそ失っていないものの魔法を使うような余裕はないようだ。
「ギ、ギギ……」
呻く騎士達を見て、アルテジオは考え込むように顎に手をあてる。
「……さて、どうしたものですかね」
「へ? どうしたものって……これで終わりじゃないんですか?」
「彼等の扱いについてですよ」
寄ってきたクリムの疑問にアルテジオが答えると、クリムは分かっていない顔でなるほどと頷いてみせる。
それを正確に察知したアルテジオは小さく溜息をつき、クリムの頭をコツンと叩く。
「……彼等は、モカによって無力化されて尚動きました。それも、より凶暴になって……です。そこまでは分かりますね」
「あ、はい」
「つまり、彼等を再度モカの能力で無力化しても、再度同じ事になる可能性がある。物理的に気絶させるにしても同じです。ならば、動けないようにしておく必要があるわけですが……」
「解決じゃないですか」
なんですかもう、と憮然とした表情をクリムが見せると、そんなクリムとアルテジオの間に、レモンがにゅっと入り込んでくる。
レモンはクリムをぐいと両手で押しのけると、振り返ってアルテジオを見上げる。
「つまり、いつまでそうしておくのか……ってこと、ですよね」
「その通りです」
何するのー、と不満そうに頬を膨らませるクリムを再度押しのけているレモンにアルテジオは頷く。
「此処を襲ってきた彼等は、このエルアークに入り込んだ戦力の一部にしか過ぎず、この戦いの推移によっては更に増える可能性もあります。そしてどう考えても、彼等は普通の人間ではありません」
その言葉に、モカも頷いてみせる。
モカの「世界の全てに呪いあれ」は、確かに騎士達の心を壊した。
繰り返す死の幻は、回避しようと思って出来るものではない。
感覚すら支配する幻惑世界に迷い込んで尚「現実」を理解し動けるのは、それこそ上位の実力を持つ魔族くらいなものだ。
もっとも、そこまでの魔族となると正面から弾き返すので通用しなかったりもするのだが。
ともかく騎士達の心は間違いなく壊れ、無力化されていた。
再度動き始めた騎士達は人間らしさをある程度失っている有様であったし……どちらかというと、別の人間になったような不可思議ささえあった。
そして、そんな事を出来る人間が居るなどモカは聞いた事が無い。
魔法王国と異名を持つらしいキャナル王国であればあるいはそういう魔法もあるのかもしれないが、どちらにせよ普通ではない。
「はあ、面倒ですなあ」
「面倒ですよ。たとえば、この街にいる敵性勢力を全て殺す事で解決するなら、私はすぐにでも此処を飛び出すでしょうね」
「え、やっていいんですか!?」
嬉しそうなクリムをアウロックが慌てて抑え、アルテジオは再度の溜息をつく。
「……それではダメだという話をしているのですがね?」
アルテジオが呆れたように言うと……階段の上から、バタバタと走る二つの足音が聞こえてくる。
「あ、わ、ひゃあああああ!?」
やがて階段から足を滑らせたか、マーロゥが尻をバウンドさせながらガタガタと滑るように落ちてくる。
そうして階段の一番下まで辿りついたマーロゥは尻を押さえながらあうあうと呻き転がり始め、呆れたような顔のマリンが続けて階段を降りてくる。
「……まったくもう。何をしてるんですか貴女は」
「だ、だって……私も役に立ちたくて……」
「アルテジオ様の邪魔になるだけです。戻りますよ」
ぐいとマーロゥの服の襟を掴むマリンを、呆気にとられていたアウロックが駆け寄って押し留める。
「ま、待て待て。えーと、なんだ。とりあえずアルテジオ様が終わらせたから。怪我人は丁重にだな?」
「あ、助けてくださいアウロックさん! マリンさんが私に寝てろって言うんです!」
慌てて起き上がろうとするマーロゥの頭をマリンがスパンと良い音を立てて叩きアウロックを睨み付ける。
「傷なら治しました。あとは体力の回復の問題です。私はこの元怪我人をベッドに放り込んできますから、アウロックさんはしっかりアルテジオ様のサポートを……」
そこまで言って、マリンはマーロゥの襟を掴んだまま口元に手をあてて考え込む。
「……もう傷は治したんですし、マーロゥさんはアウロックさんに任せて私がアルテジオ様のサポートをしたほうが……?」
「ま、まあ……それはどっちでもいいけどよ」
「ならお願いしますね」
マリンがアウロックの元へとマーロゥをぐいと押し出すと、マーロゥは少しだけほっとしたように立ち上がり……氷結大樹を見て、ひゃーと感嘆の声をあげる。
「す、すごいです。これってアルテジオ様の魔法なんですか?」
「ええ」
「すごいです……! 私もこんな魔法が使えたら、悪い人達をいっぱいやっつけられるのになあ……」
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