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連載
いつか夢見た光4
しおりを挟むそうして進み、何回目かの交差路に差し掛かる。
「順調ですけど……長いですね」
「ああ」
「仕掛けさえ分かっちゃえば簡単なんですけど、気付かなかったら色々と大変そうでしたよね」
「そうだな」
あれから何も無く、カインが交差路で天井の窪みに「光を掲げ」て、進んで行くといった繰り返しであった。
他に何があるというわけでもなく、警戒していたカインにも多少余裕が出てきたようだ。
「そういえば前から聞きたかったことなんですが」
「前だ」
「え? うわっ!?」
天井を見上げていたカインが突然、何かにぶつかり顔面を強打する。
「い、いったあー……って、あれ!? なんかある!?」
そう、そこには良く見てみればほぼ完全に透明になるほどに磨き上げた水晶の柱がある。
「何か書いてあるな」
「へ? あ、ほんとだ」
ヴェルムドールに言われカインが水晶の柱をじっと見つめると……そこには確かに、文字が書いてある。
「……高き理想を見上げ追う事は輝ける旅路に見えるが、それが万能の回答であるとは限らない。己が眼前を見据える事もまた必要な事である」
「なるほど、洒落が効いている」
「単なる嫌がらせじゃないですか。なんですか、この柱」
面白そうに笑うヴェルムドールにカインが鼻をさすりながら文句を言うと、ヴェルムドールは笑いながらも首を横に振ってみせる。
「くくっ……いや、そうでもないぞ。理想ばかり見ていると、大抵は目の前の現実に阻まれる。それを理不尽と思うか己の不足を嘆くのかはそいつ次第だがな」
「現実に阻まれたなら、それは理不尽じゃないんですか?」
水晶の柱を蹴っていたカインは不思議そうにヴェルムドールへと振り向き、ヴェルムドールはふむと頷く。
「理想を追いたいのならば、当然必要な手順というものがある。たとえば国一番の美姫をどこにでもいる庶民の男が娶りたいと思った時に、己の熱い想いと花束だけを武器に飛び出したとしよう」
「無謀ですね」
バッサリと切って捨てるカインにヴェルムドールもそうだな、と言って頷く。
「だが、もしその男が何処かでその美姫をその本人と知らず颯爽と助けていたことがあったとしたらどうだろう。そのチャンスが活かされ、時折正体を隠した美姫と甘酸っぱい逢瀬を重ねていたとしたら?」
「それは……なんていうかこう、甘ったるい結末になりそうですね」
「そうだ。まあ、これは大雑把な例だが……この場合は「偶然」という切っ掛けと「逢瀬」という手順を重ねた結果、「理想の結末」を掴み取る例だと言えるわけだ」
カインはうーんと唸りながら、まだ納得の言っていないような顔をして水晶の柱に寄りかかる。
「でも、それは偶然という、なんていうか本人の運次第なところがありますよね。それは少々方法論としてはズルい気もしますけど。だって、その偶然が無ければ現実の壁に阻まれるってことじゃないですか」
「だから大雑把な例だと言ったろう。別に努力して美姫に相応しい男になって迎えに行くのでも、美姫の望むような「理想の男」を目指すのでもいいだろう。この話で重要なのは、「理想」とは単純に望むだけで得られるものではないということだ」
それを聞いて納得のいったようないっていないような顔をしているカインを水晶の柱からどけると、ヴェルムドールは水晶の柱を見る。
「……だがまあ、それが「万能の回答であるとも限らない」わけだ」
「へ?」
「要は、御伽噺の「めでたし」の後にも話は続くってことだ。もしその美姫がとんでもない悪女だったり、ろくでもない浪費家だったりしたらどうする? それどころか、国の転覆を目指す革命家であるかもしれない。そうなれば、「めでたし」では済むまい」
そう、理想を叶えた先が理想郷であるとは限らない。
輝ける物語の先には、必ず語られない「先」がある。
勇者リューヤの伝説の先が「今」であるように……だ。
「……そうです、ね。それは良く分かります」
「ほう、それは結構なことだな」
ヴェルムドールが適当な調子で答えると、カインは水晶の柱をもう一度見つめて……その先へと、踏み出す。
「素晴らしいと信じてたものがそうではない事だって、よくある話なんです。でも理想を描いて盲目になれば、きっとそんな事すら忘れてしまう。僕は、そんな人間になりたいとは思いません」
その先の交差路を目指し歩くカインの背中に視線を投げかけ……ついでに、ヴェルムドールはもう一言を投げかける。
「そうか。ご高説は賜ったが……その前にもう少しだけ、この「眼前」のモノを見据えていけ」
「え?」
振り返るカインに、ヴェルムドールは悪戯っぽく笑う。
「書いてあるだろう? 見上げて追う事が万能の回答であるとは限らんと……な」
「え? んん……? あっ、まさか!」
「まあ、俺の勝手な予想に過ぎんが……な」
ヴェルムドールは作り出した照明魔法を、水晶の柱の中に押し込むようにする。
するとヴェルムドールの想像通りに水晶の柱は照明魔法を吸収して輝きだし、交差路の正面の道を指し示す光を放つ。
「え、ええっ!?」
カインは慌てて交差路へと走っていくと天井を見上げ、あっと叫ぶ。
「窪みがない……!」
「おや、俺としてはそこの窪みに照明魔法を投げ込んだら別の道を示すという展開も期待していたんだが……そこまで根性悪ではなかったようだな?」
含み笑いを始めるヴェルムドールにカインは尊敬の色すら含んだ視線を向けると……何かを決意するように、ぐっと拳を握った。
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