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連載
今は遠い光2
しおりを挟むそう、たとえば……たとえばの話だ。
自分達の理解を超える「何か」を突然手に入れたとしたらどうするだろう。
その「何か」は自分達にはない技術の塊であったとしたら……当然、その技術を会得したいと考えないだろうか。
そうなれば、その「何か」を参考に試作を繰り返す事になるだろう。
当然のことではあるがサンプルがそれ一つしかない以上壊すわけにもいかず、まずは形の模倣から始まるだろう。
そうして少しずつ自分達なりの解釈を加えて進歩させていけば、やがて「それなり」のものが出来上がるだろう。
いつかは、そのものを造り上げることだって出来るかもしれない。
そしてそれは、確かに一つの新しい技術の会得の瞬間だろう。
……だが当然、「必要とされて」生まれた技術では無い。
それであるが故の違和感は、「もう一つの大陸」というものの存在を裏付けるものでもあるのだ。
「え、でも。それなら、その船に乗っていた人達はサイラス帝国に……?」
カインにヴェルムドールは答えず、考え込むように口元に手をあてる。
そう、普通であればカインの言うような流れを辿るだろう。
何しろ、新たな技術と共にやってきた客人だ。
職人や技術を重要視するサイラス帝国が歓迎しないはずが無い。
だが、問題はその後だ。
その「客人」達はその後どうしたのか。
サイラス帝国に帰属し、その流れの中に融合していったのだろうか?
それとも……。
「……ん?」
ふと気付き、ヴェルムドールはライドルグへと視線を向ける。
「ライドルグ、確認だ」
「何かね?」
「お前が本来守るべき国はもう一つの大陸とやらにあると言ったな?」
「そうさな」
思い出すのは、レムフィリアの創世神話だ。
最初に、土の神アトラグスが大地を作った。
火の神アグナムは大地に火の力を与えた。
水の神アクリアは大地に水の流れを作った。
風の神ウィルムは空に大いなる風を与えた。
光の神ライドルグと闇の神ダグラスは昼夜を作った。
完成した大地に、命の神フィリアが命の種を蒔いた。
こうして最初の命の形、人間が生まれた。
無垢なる人間に、神々は祝福を与えた。
これにより、人間に感情が生まれた。
そして同時に、人間以外の生命が生まれた。
これが、レムフィリアの大地に生きる人類の始まりである。
命の神フィリアは、人間を創った。
そして、他の神々の祝福を受けたのが他の人類。
ならば、どれがどれだというのか。
おそらく、シルフィドは風の神ウィルム。
これはジオル森王国にウィルムがいたことからも間違いないだろう。
もう一つ確定しているのは、すでに無い国だが……霊王国ルクレティオ。
この国に居たエレメントは闇の神ダグラスを信仰しており、恐らくは祝福を与えられた存在であったはずだ。
サイラス帝国は恐らくは土の神アトラグスか、火の神アグナム。
こうして考えると、それぞれの国はそれぞれの「祝福を受けた」種族によるものであるということができる。
それ自体は、別におかしなことではない。
だが、そう考えた時……一つ、奇妙な国がある。
泡のように増えたり消えたりする中小国でもないのに、その国は他の大国とは明らかに違う点があるのだ。
「……そうか。この国はライドルグを崇める国でありながら、ライドルグに祝福された種族が居ない」
「え!? でもそれって人間が……って、あれ。そうか。祝福で人間から他の種族に派生したんだから……」
そう、今カインが言ったとおりだ。
創世神話に曰く、人間を除く他の人類は神々の祝福によって派生している。
ならば、「ライドルグの祝福を受けた」人類が存在しているはずなのだ。
しかしキャナル王国の王族は人間であり、これであるが故に今回の内乱の一要因となっている。
「平等」の名の下に集い他の四大国並に大きくなっただけと考えることも出来る。
だが、光の神ライドルグを崇めるのは何故か。
何故人間が王族だというならばフィリアを崇めていないのか。
勿論信仰は自由なものであるが、それを国家で崇める神とするには当然何かの強い理由があったはずだ。
だが、それが全く見えてこない。
其処に、明らかな矛盾が発生しているのだ。
「……まさか」
「ふむ。ひとまずは其処までだの」
「何?」
ライドルグの言葉に、ヴェルムドールは訝しげな声をあげる。
「それを語るには、この場は相応しくなかろう。それよりも、折角我が気を使ってやったというのに……いいのか?」
何がだ、と言い掛けて……カインのことを言っているのだとヴェルムドールは気付く。
なるほど、確かに「勇者」と「魔王」なのだ。
あれ程出てこないようにと努力を重ねた「勇者」がこんな所に居たというのは納得いかない部分もあるが、いるものは仕方が無い。
問題なのは、ただ一点のみだ。
すでにそうではないという確信はあるのだが、確かに確認しておかねばならないだろう。
「改めて聞くがカイン。お前、俺を滅ぼしたいか? どうせフィリアに俺を倒せとか言われたんじゃないか?」
「いえ。僕が言われたのは、この世界を守って欲しい……です」
首を横に振るカインに、ヴェルムドールはほうと呟く。
「なればこそ、俺を倒すべきじゃないのか? 俺こそ悪の首魁だとほざく奴は山のようにいるし、本当にそうかもしれんぞ?」
「いいえ。そんな人は、キャナル王国の為にわざわざ行動しないはずです」
「そんなもの、利害さえ合えば誰でも同じ事をするさ。国とはそういうものだ」
「そこです」
カインは、真面目な表情を浮かべてそう答える。
「貴方は国王として行動されています。一つの国として、他の国と対等に外交をしようとしている。それは少なくとも、悪の魔王でもなければ征服者でもない「王」の姿です」
「単なるポーズかもな。良き隣人を装う悪など掃いて捨てるほどいるぞ?」
「……まあ、それはそうなんですが」
返答に困り言葉を探すカインに、ヴェルムドールはふうと溜息をつく。
「ああ、やめだ。こんな言葉遊びに意味が無いのは理解した。カイン、お前……そもそも俺と敵対する気がないな?」
その言葉に、カインはさっと目を逸らす。
何やら面白そうな顔で見ているライドルグをひと睨みすると、ヴェルムドールはカインへと向き直る。
「別にそれ自体はいい、俺の害になる話ではないからな。だがお前……恐らくはそれを期待されていたはずだぞ?」
「……そうですね。そう誘導するような出来事が幾つかあったのは事実です」
「ならば何故そうしなかった」
カインはその疑問に、自嘲するような……少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべる。
「疑い深くなっちゃったから、ですかね。無邪気に与えられたものだけを見ていられる程、僕の持たされた力は軽いものじゃない。それでも、この新しい人生に意味があるなら……どうするのがこの世界の為なのかを、真剣に考えようと思ったんです」
「その結果が、俺とは敵対しない道か?」
「はい。僕は、冒険者としてのシオンさんに憧れていました。誰もが受けたがるような依頼を蹴って、それでいて普通なら受けない依頼でも受ける。弱き人々の味方で、本当の正義……本当の勇者ってのはこういう人だと」
「やめろ、寒気がする。誰の話だそれは」
言いたいことは分かるのだがヴェルムドールとしてはそんなつもりではなかったし、勇者に例えられる等冗談ではない。
カインも言ってからそれに気付いたのか、誤魔化すように笑ってみせる。
「それに……アインを見てれば分かります。貴方は「悪の魔王」なんかじゃない。僕が倒さなければならない敵がいるとするなら……それはきっと、貴方以外の誰かなんです」
「そうか」
ヴェルムドールが頷くと、ライドルグは満足そうに髭を撫でている。
「おい、ライドルグ。このお節介焼の爺め。いつになったら本題に入る気だ」
「何を言うか。いずれ通らねばならぬ道であったろうが。余計な邪魔の入らん場所を作ったことに感謝して欲しいくらいだがのう」
ヴェルムドールが露骨な舌打ちで返すと、ライドルグはやれやれと肩をすくめる。
「さて。それでは汝の言う本題とやらに入るとするかの……それ!」
ライドルグの手の平に光球が生まれ、目も眩むような強い輝きを放つ。
何処かに転移したと気付いたのは……その、次の瞬間だった。
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