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会談

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 セリスの即位宣言から数日が経過した。
 首都エルアークのエルアーク守備騎士団、光剣騎士団、そして光杖騎士団の一部は更にその数を減らしつつも、見事な連携でエルアークの治安維持の為の連携を行っていた。
 副都カシナートに残存していた光盾騎士団、近衛騎士団、そして光杖騎士団の面々は降伏。
 これの扱いについては意見が分かれ、ひとまずは生き残っている団長、副団長級の降格が通達され、ひとまずはカシナートに留め置くことになった。
 これはエルアークの民衆感情を考慮して……などというもっともらしい理由もあるが、要は信頼されていないのである。
 実際に何人かの騎士が姿を消したという報告や、光杖騎士団長チェスターの非人道的な実験が明らかになったことで騎士団の解散と再編も真面目に検討され始めたほどだ。

「……と、このような状況でありますな」
「まあ、要は戦後処理も始まったばかりというわけだな?」

 フィブリス城の会議室。
 政務大臣だと名乗った神経質そうな男の長ったらしい説明をヴェルムドールが一言で纏めると、男は軽く咳払いをする。

「えー……まあ、その通りです。これは今後友好関係を深化させていくに辺り我が国とそれを取り巻く状況を」
「申し訳ないが、短めに頼む。こちらとしては内政に口出しする気は無いし、幸いにもこちらの人員に被害は無いから賠償やら補償やらの必要も無い。どうのこうのと言いがかりをつけて譲歩を迫るつもりもないから、そこは安心してくれていい」

 この会議室にいるのはキャナル王国側は新王であるセリスと政務大臣、書記官。
 ザダーク王国側はヴェルムドールとアウロック、そしてザダーク王国から連れてきている書記官役の白猫のビスティアである。
 互いに騎士や戦闘用の人員が居ないのは、この場が「友好の為の話し合い」であるというアピールの為である。
 ……まあ、勿論魔王であるヴェルムドールがいる時点で色々とアレではあるのだが、それはそれだ。

「俺達が今日この場でするべきは現状の再確認ではなく、未来の話だ。違うかな?」
「いいえ、違いませんヴェルムドール殿。ベックマン大臣、お願いします」
「……は、はい」

 政務大臣……ベックマンはセリスをちらりと見た後、慌てたように手元の資料に視線を落とす。

「え、あー……では、現在貴国にお願いしている門の修復についてですが、今後の友好条約の正式締結に先立って、改めて復興計画として練り直し範囲の拡大をしていきたいと考えております」

 範囲の拡大。
 要は最低限でもエルアーク全体ということなのだろうとヴェルムドールは理解する。
 つまりは復興計画を文字通りのものとして、今後の人心掌握の為の国家事業として位置づけるつもりなのだ。
 しかし、あえてヴェルムドールは口に出さずに頷いてみせる。

「で、あー……そのですな。国家事業となりますと、今のままでは進め難く」
「ああ、主導権を寄越せと。こういうわけだな?」
「いいえ、違います」

 アウロックの言葉をセリスは否定すると、薄く微笑む。
 それはレイナが時折浮かべるそれに似ているが、あるいは意識しているのかもしれない。
 超然とした態度を表すその表情は、これから王としてやっていかねばならないセリスが被る必要のある仮面でもあるのだから。

「現在ある復興計画本部と計画はそのままに、こちらからも資金と人材を出す形にしたいのです」
「なるほど? 段階的移行という形にもっていくわけだ」

 復興計画をキャナル王国全体の事業と位置づけた場合、ザダーク王国の支援として展開されている現在の復興計画本部の立ち位置は重要になってくる。
 すでに鳴り物入りで始まった復興計画本部の存在はエルアークの住民に伝わっており、それに対する期待も高まってきているのが現状だ。
 されど、それにザダーク王国が無制限に応えるわけにはいかない。
 ならば規定の支援終了後に新しくキャナル王国が同様のものを始めるとして、そうなると今度はそれの周知から始めなければならない。
 更に言えば、「ザダーク王国は薄情だ」とかいう的外れな批判も防がねばならない。
 そう考えた時に実行可能な案として「段階的移行」というものが出てくるわけである。
 つまり、ザダーク王国の支援を文字通りの「支援」として、キャナル王国の人員による体勢が整うまでの「補助」であると位置づけてしまうのだ。
 実際には違うのだが、最初からそういう計画だったと言い張ってしまえば誰も何も言えるわけが無い。

 こうすればザダーク王国側としても予定通りでも延長でも好きなようにやりやすく、キャナル王国側としても混乱無く復興計画を実施できるというわけだ。

「最終的には復興計画本部はこちらの人員のみでの運営を目指します。その後のザダーク王国側との連絡手段構築に関してですが、新たにザダーク王国の方専用の館を用意する予定となっております」

 ベックマンのその言葉を聞いて、ヴェルムドールはああと心の中で呟く。
 そういえば、そっちの人員の用意も必須だったな……と。

「了解した。派遣する人員については、また後日調整するとしよう」

 しかし、そんな事は表情にも出さずヴェルムドールは答える。
 調整が必要な事は山のようにあり……ヴェルムドールはすでに頭の中で、優先順位をつけ始めている。
 ここで「この仕事を誰に割り振る」という思考が無い辺りは、流石と言えるのだろうが……それを突っ込む者も居ないまま、会議は進んでいくのであった。
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