299 / 681
連載
会談
しおりを挟むセリスの即位宣言から数日が経過した。
首都エルアークのエルアーク守備騎士団、光剣騎士団、そして光杖騎士団の一部は更にその数を減らしつつも、見事な連携でエルアークの治安維持の為の連携を行っていた。
副都カシナートに残存していた光盾騎士団、近衛騎士団、そして光杖騎士団の面々は降伏。
これの扱いについては意見が分かれ、ひとまずは生き残っている団長、副団長級の降格が通達され、ひとまずはカシナートに留め置くことになった。
これはエルアークの民衆感情を考慮して……などというもっともらしい理由もあるが、要は信頼されていないのである。
実際に何人かの騎士が姿を消したという報告や、光杖騎士団長チェスターの非人道的な実験が明らかになったことで騎士団の解散と再編も真面目に検討され始めたほどだ。
「……と、このような状況でありますな」
「まあ、要は戦後処理も始まったばかりというわけだな?」
フィブリス城の会議室。
政務大臣だと名乗った神経質そうな男の長ったらしい説明をヴェルムドールが一言で纏めると、男は軽く咳払いをする。
「えー……まあ、その通りです。これは今後友好関係を深化させていくに辺り我が国とそれを取り巻く状況を」
「申し訳ないが、短めに頼む。こちらとしては内政に口出しする気は無いし、幸いにもこちらの人員に被害は無いから賠償やら補償やらの必要も無い。どうのこうのと言いがかりをつけて譲歩を迫るつもりもないから、そこは安心してくれていい」
この会議室にいるのはキャナル王国側は新王であるセリスと政務大臣、書記官。
ザダーク王国側はヴェルムドールとアウロック、そしてザダーク王国から連れてきている書記官役の白猫のビスティアである。
互いに騎士や戦闘用の人員が居ないのは、この場が「友好の為の話し合い」であるというアピールの為である。
……まあ、勿論魔王であるヴェルムドールがいる時点で色々とアレではあるのだが、それはそれだ。
「俺達が今日この場でするべきは現状の再確認ではなく、未来の話だ。違うかな?」
「いいえ、違いませんヴェルムドール殿。ベックマン大臣、お願いします」
「……は、はい」
政務大臣……ベックマンはセリスをちらりと見た後、慌てたように手元の資料に視線を落とす。
「え、あー……では、現在貴国にお願いしている門の修復についてですが、今後の友好条約の正式締結に先立って、改めて復興計画として練り直し範囲の拡大をしていきたいと考えております」
範囲の拡大。
要は最低限でもエルアーク全体ということなのだろうとヴェルムドールは理解する。
つまりは復興計画を文字通りのものとして、今後の人心掌握の為の国家事業として位置づけるつもりなのだ。
しかし、あえてヴェルムドールは口に出さずに頷いてみせる。
「で、あー……そのですな。国家事業となりますと、今のままでは進め難く」
「ああ、主導権を寄越せと。こういうわけだな?」
「いいえ、違います」
アウロックの言葉をセリスは否定すると、薄く微笑む。
それはレイナが時折浮かべるそれに似ているが、あるいは意識しているのかもしれない。
超然とした態度を表すその表情は、これから王としてやっていかねばならないセリスが被る必要のある仮面でもあるのだから。
「現在ある復興計画本部と計画はそのままに、こちらからも資金と人材を出す形にしたいのです」
「なるほど? 段階的移行という形にもっていくわけだ」
復興計画をキャナル王国全体の事業と位置づけた場合、ザダーク王国の支援として展開されている現在の復興計画本部の立ち位置は重要になってくる。
すでに鳴り物入りで始まった復興計画本部の存在はエルアークの住民に伝わっており、それに対する期待も高まってきているのが現状だ。
されど、それにザダーク王国が無制限に応えるわけにはいかない。
ならば規定の支援終了後に新しくキャナル王国が同様のものを始めるとして、そうなると今度はそれの周知から始めなければならない。
更に言えば、「ザダーク王国は薄情だ」とかいう的外れな批判も防がねばならない。
そう考えた時に実行可能な案として「段階的移行」というものが出てくるわけである。
つまり、ザダーク王国の支援を文字通りの「支援」として、キャナル王国の人員による体勢が整うまでの「補助」であると位置づけてしまうのだ。
実際には違うのだが、最初からそういう計画だったと言い張ってしまえば誰も何も言えるわけが無い。
こうすればザダーク王国側としても予定通りでも延長でも好きなようにやりやすく、キャナル王国側としても混乱無く復興計画を実施できるというわけだ。
「最終的には復興計画本部はこちらの人員のみでの運営を目指します。その後のザダーク王国側との連絡手段構築に関してですが、新たにザダーク王国の方専用の館を用意する予定となっております」
ベックマンのその言葉を聞いて、ヴェルムドールはああと心の中で呟く。
そういえば、そっちの人員の用意も必須だったな……と。
「了解した。派遣する人員については、また後日調整するとしよう」
しかし、そんな事は表情にも出さずヴェルムドールは答える。
調整が必要な事は山のようにあり……ヴェルムドールはすでに頭の中で、優先順位をつけ始めている。
ここで「この仕事を誰に割り振る」という思考が無い辺りは、流石と言えるのだろうが……それを突っ込む者も居ないまま、会議は進んでいくのであった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。