勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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連載

魔剣技15

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名前:影狼
種族:魔物

ランク:F
職業:なし
装備:
特になし
技能:
影擬態
短距離転移(限定条件)

 これが、サンクリードの見たものだ。
 先程やっていた事は言葉にすれば簡単で、「自分の足元の影に向けてステータス確認魔法を使った」のである。
 勿論、シュナにはそんな事は分からないのだが……。

「え、ええっ!?」
「分かってみればくだらん手品だ。つまる所こいつ等は、影のフリをして相手を奇襲していた……ということだな」
 
 そもそも考えてみればおかしいのだ。
 黒狼……いや、影狼が影から影へと移動するというのであれば、先程サンクリードがシュナを抱えて背後へと跳んだ時に、それによって移動した影の中から出てこなければおかしい。
 だが実際に黒狼が出てきたのは「すでにサンクリードがいなくなった」場所であり、そこにはすでにサンクリードの影は無い。
 だが、「影擬態」なる能力と「短距離転移」によって、その実態は把握困難となっていたのだろう。
 恐らく「限定条件」というのも、影のある場所とかそういうものなのだろうとサンクリードは予想する。
 それでも普通ならば、厄介極まりないことに変わりは無い。
 
「使う奴が使えば、もっと厄介だっただろうな」

 サンクリードの光の魔法剣が、シュナの影に突き刺さる。
 先程と同じような悲鳴を上げて飛び出した影狼は最後の抵抗とばかりにシュナに噛み付こうとして、サンクリードに掴まれ放り投げられる。

光撃アタックライト!」

 ギャン、という悲鳴をあげて転がった影狼はそのまま動かなくなり……サンクリードはぐるりと周囲を見回して、不敵に笑う。

「そんなに強い視線と殺気を投げていれば、折角の手品も意味が無いな?」

 サンクリードの視線に射竦められた影狼がたまらず飛び出し、真っ二つに斬られて床に落ちる。
 こうなれば、もはや影狼の能力による優位など無いも同然だ。
 それを感じ取り心に余裕が出来たシュナはしかし、同時に違和感を抱く。
 おかしい。
 確かにサンクリードは圧倒的であり、追い詰められているのは狼達のほうだ。
 だが、何かがおかしいのだ。
 その原因を考え……答えに辿り着きかけたその時、走り寄ってきたサンクリードの腕に抱えあげられる。

「ふあっ!?」

 足元で響くゾンッという何かを切り裂く音に、シュナはようやく自分が狙われていたという事実に気付く。

「あまりぼうっとするな」
「は、はい!」

 抱え上げられたままシュナはコクコクと何度も頷き、サンクリードはふうと小さく息を吐く。

「こんなものか」

 廊下に転がる数匹の黒い狼の死骸をじっと見ていたシュナは、ようやく形になった「その疑問」を口にする。

「……どうして、纏まって襲ってこなかったんでしょう?」
「どういう意味だ」
「えっと……この狼が黒狼とは別種の何かであったと仮定して。でも、同じ場所に複数匹が存在する程度には仲間意識があるんですよね」

 それはつまり、この狼達は「群れ」であることを示している。
 群れであるということは、黒狼の群れと同様に規律がありリーダーがいるはずだ。
 しかし見たところ、それらしい個体はこの中には居ない。
 しかも、狼達は何の冗談か個々で襲い掛かってきている。
 まとめて飛びかかれば、傷を負わせるチャンスがあるかもしれないにも関わらず……だ。

「仮にも群れであるなら、そんな非効率的なことをするはずがないんです。なら、何か目的があるはずです」

 わざわざ一匹ずつかかっていくことで達成できる「目的」とは何か。
 一斉ではなく、わざわざ一騎打ちのようなことをする意味。

「……時間稼ぎ、か?」
「え、でも……時間を稼いで何をするっていうんですか?」

 逃げるというのであれば、わざわざ襲い掛かってくる意味が無い。
 こちらが探索しているうちに逃げてしまえばいいのだから。
 ならば、それ以外。

「まさか……カインさんを狙っている?」

 それは決して突飛な考えではない。
 三人が一人と二人に分かれたならば、普通に考えて襲いやすいのは「一人」のほうだ。
 戻りましょう、と。
 そうシュナが言いかけた矢先に、爆発音のような音が響く。
 更に続けて響く音に、シュナは想像が恐らく正しかったのであろう事を確信する。

「……行くぞ」
「え、このままですかっ!?」
「その方が速い」

 そう言うと、サンクリードは来た道をシュナを抱えながら走り出す。
 入り口側の部屋に戻ると、カインの向かっていた方角のドアが先程の「爆発」の影響か壊れかけ歪んでいるのが分かる。

「扉が……!」

 このままでは開けるのに時間がかかってしまう。
 どうすればと考えるシュナの目の前で、サンクリードがドアを蹴り破る。
 耳障りな音を立てて倒れる扉を踏み越え、サンクリードとシュナは扉の奥へと進む。

「む」
「うわ……」

 そこには、魔法を連打したのか徹底的に壊れた床や壁。
 だが、そこにカインの姿は無く……崩れた壁の向こうから、再びの爆発音が聞こえてくる。
 崩れ落ちた壁の、その向こう。
 そこに居たのはカインと、複数の影狼。
 そして……まるで熊か何かのように大きな、黒い狼の姿だった。
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