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連載
外交狂想曲
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今度こそ軽い話です。
ええ、本当ですとも。
********************************************
キャナル王国とザダーク王国の友好締結は無事に締結し、キャナル王国への支援も本格化し始めた。
貿易や観光などはまだ先の話だが、このまま復興が進めば遠い話でもないだろう。
どちらにせよヴェルムドールが現地で指揮をするような段階は過ぎ去り、ザダーク王国へと帰還してきていた。
そうなれば再び仕事に精を出す毎日……なのだが、その日は少々違っていた。
「……お前が来るのは珍しいな」
「はい、魔王様」
書類にサインする手を止めて、ヴェルムドールは執務室に佇む男を見る。
その男の名は、ナナルス。
見た目は老齢にさしかかった男のようであるが、実際にはザダーク王国の中でもかなり若年であるという見た目詐欺も甚だしい男である。
……もっとも、魔族の見た目と年齢が一致しないのはアルムの例もあるので今更ではある。
ナナルスの手元には中身が詰まっていると思われる小さめの宝箱があり、どうやらそれが今回の用件であるのだろうとヴェルムドールは推測する。
「一体何を持ってきた? 随分と大仰な箱だが」
「はい。私では少々扱いに困る案件がございまして」
ナナルスの言葉に、ヴェルムドールはほうと驚きの声をあげる。
ザダーク王国の中でも特に文官としての能力に長けたナナルスからそうした発言が出るとは思わなかったのだ。
そしてナナルスに難しいということは、それを処理できそうなのは確かにヴェルムドールだけということになる。
これはヴェルムドールの文官としての能力がナナルスより優れているという意味ではなく、最高権限者としての義務的なものだ。
「ということは、その箱の中身は書類か?」
「その通りでございます」
頷くナナルスに、ヴェルムドールは思わず吹き出す。
「は、ははっ。そんな箱を持ち出してくるから、秘蔵の宝で便宜を図ってくれと言われて押し付けられたとか、そんな話かと思ったぞ」
「ある意味では間違っておりませんな」
「ん?」
訝しげな顔をするヴェルムドールの机にナナルスが宝箱を置いて下がる。
ヴェルムドールはそれとナナルスを見比べ……仕方無さそうに開けて中の書類を数枚掴み出す。
「む、全てバラの書類か……となると結構数がある……な?」
そこに書かれた文言を流し読みしていたヴェルムドールの動きが、ぴたりと止まる。
書類をパサリと机に置くと小さく息を吐きながら目元を揉み……そうしてから、もう一度書類に目を向ける。
黙って書類を隅から隅まで読んだヴェルムドールは2枚目、3枚目と目を通し……続けて、宝箱の中から更に書類を取り出して同じように読み始める。
そうして更に数枚読み進めた後、ヴェルムドールは疲れたような顔でナナルスへと視線を向ける。
「……おい、なんだこれは」
「魔王様宛の書類でございます。私の一存で処理できないものでして」
「それはそうだろうが……こいつ等は何を考えてるんだ?」
「魔王様の策が功を奏している証拠であると思われますが」
ナナルスに痛いところを突かれて、ヴェルムドールは溜息をつく。
そこに書かれているのは、簡単に言えば婚約の申し込みである。
それもヴェルムドール宛である。
「……まあ、確かに俺が一度は目を通す必要はあるだろうな」
「はい。それではよろしくお願いいたします」
一礼して去ろうとするナナルスに、ヴェルムドールは待てと言って呼び止める。
「一応聞くが、この件は?」
「出来る限り悟られないような手段を使いましたが……まあ、無駄かと」
「そうか」
再度の礼をしてナナルスが部屋から出て行くと、ヴェルムドールは再度の溜息をつき……椅子を引いて、机の下を覗き込む。
そこに何も居ない事を確認して顔をあげると、何時の間にやら机の横にニノが立っている。
しかもその手にあるのは、今ナナルスが持ってきたばかりの書類である。
思わず頭痛がしてヴェルムドールが額を押さえると、ニノがその顔をじっと見つめてくる。
あまりにも強烈な意思を込めた視線に仕方なくヴェルムドールが顔をあげると、ニノは明らかに不満を表明するかのような表情をしている。
いつもの不機嫌そうな表情が、輪をかけて不機嫌そうである。
「……これ、何」
「婚約申込だそうだ」
「誰の」
「俺のだ」
それを聞いてニノは頷くと、書類を重ねて宝箱の中に綺麗に入れて蓋を閉める。
更に机の上に視線を走らせ、他に存在しないことを確かめた上で頷き宝箱を両手で挟み込む。
「燃やしてくるね」
「待て」
ニノが持ち上げる寸前でヴェルムドールが宝箱を手で押さえて自分の手元まで引き寄せると、ニノは仇か何かを見る目で宝箱を睨み付ける。
「そんなもの、いらないと思う」
「俺もいらないが、だからといって燃やしていい物でもない」
いらないと断言したことでニノの表情が幾許か和らぐが、それでも不満そうな表情はそのままだ。
「いらないなら、なんで?」
「記憶する為だ」
「記憶?」
聞き返すニノに、ヴェルムドールはそうだと頷いてみせる。
つまりは、そういう話があったことをヴェルムドールが覚えておく為の儀式である。
人類社会におけるこの類の話とは面倒なもので、「あの」だの「例の」だのと相手に自分の常識を押し付けるような言動や隠語の類が飛びかう魔境である。
つまり、こうした話を持ちかけてきた者は今度、その話をそうした表現で切り出してくる可能性があるということであり……平たく言えば警戒対象である。
「要は、そういう話があったと理解しておくことが重要なんだ。受けるか受けないかはさておいて……な」
ええ、本当ですとも。
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キャナル王国とザダーク王国の友好締結は無事に締結し、キャナル王国への支援も本格化し始めた。
貿易や観光などはまだ先の話だが、このまま復興が進めば遠い話でもないだろう。
どちらにせよヴェルムドールが現地で指揮をするような段階は過ぎ去り、ザダーク王国へと帰還してきていた。
そうなれば再び仕事に精を出す毎日……なのだが、その日は少々違っていた。
「……お前が来るのは珍しいな」
「はい、魔王様」
書類にサインする手を止めて、ヴェルムドールは執務室に佇む男を見る。
その男の名は、ナナルス。
見た目は老齢にさしかかった男のようであるが、実際にはザダーク王国の中でもかなり若年であるという見た目詐欺も甚だしい男である。
……もっとも、魔族の見た目と年齢が一致しないのはアルムの例もあるので今更ではある。
ナナルスの手元には中身が詰まっていると思われる小さめの宝箱があり、どうやらそれが今回の用件であるのだろうとヴェルムドールは推測する。
「一体何を持ってきた? 随分と大仰な箱だが」
「はい。私では少々扱いに困る案件がございまして」
ナナルスの言葉に、ヴェルムドールはほうと驚きの声をあげる。
ザダーク王国の中でも特に文官としての能力に長けたナナルスからそうした発言が出るとは思わなかったのだ。
そしてナナルスに難しいということは、それを処理できそうなのは確かにヴェルムドールだけということになる。
これはヴェルムドールの文官としての能力がナナルスより優れているという意味ではなく、最高権限者としての義務的なものだ。
「ということは、その箱の中身は書類か?」
「その通りでございます」
頷くナナルスに、ヴェルムドールは思わず吹き出す。
「は、ははっ。そんな箱を持ち出してくるから、秘蔵の宝で便宜を図ってくれと言われて押し付けられたとか、そんな話かと思ったぞ」
「ある意味では間違っておりませんな」
「ん?」
訝しげな顔をするヴェルムドールの机にナナルスが宝箱を置いて下がる。
ヴェルムドールはそれとナナルスを見比べ……仕方無さそうに開けて中の書類を数枚掴み出す。
「む、全てバラの書類か……となると結構数がある……な?」
そこに書かれた文言を流し読みしていたヴェルムドールの動きが、ぴたりと止まる。
書類をパサリと机に置くと小さく息を吐きながら目元を揉み……そうしてから、もう一度書類に目を向ける。
黙って書類を隅から隅まで読んだヴェルムドールは2枚目、3枚目と目を通し……続けて、宝箱の中から更に書類を取り出して同じように読み始める。
そうして更に数枚読み進めた後、ヴェルムドールは疲れたような顔でナナルスへと視線を向ける。
「……おい、なんだこれは」
「魔王様宛の書類でございます。私の一存で処理できないものでして」
「それはそうだろうが……こいつ等は何を考えてるんだ?」
「魔王様の策が功を奏している証拠であると思われますが」
ナナルスに痛いところを突かれて、ヴェルムドールは溜息をつく。
そこに書かれているのは、簡単に言えば婚約の申し込みである。
それもヴェルムドール宛である。
「……まあ、確かに俺が一度は目を通す必要はあるだろうな」
「はい。それではよろしくお願いいたします」
一礼して去ろうとするナナルスに、ヴェルムドールは待てと言って呼び止める。
「一応聞くが、この件は?」
「出来る限り悟られないような手段を使いましたが……まあ、無駄かと」
「そうか」
再度の礼をしてナナルスが部屋から出て行くと、ヴェルムドールは再度の溜息をつき……椅子を引いて、机の下を覗き込む。
そこに何も居ない事を確認して顔をあげると、何時の間にやら机の横にニノが立っている。
しかもその手にあるのは、今ナナルスが持ってきたばかりの書類である。
思わず頭痛がしてヴェルムドールが額を押さえると、ニノがその顔をじっと見つめてくる。
あまりにも強烈な意思を込めた視線に仕方なくヴェルムドールが顔をあげると、ニノは明らかに不満を表明するかのような表情をしている。
いつもの不機嫌そうな表情が、輪をかけて不機嫌そうである。
「……これ、何」
「婚約申込だそうだ」
「誰の」
「俺のだ」
それを聞いてニノは頷くと、書類を重ねて宝箱の中に綺麗に入れて蓋を閉める。
更に机の上に視線を走らせ、他に存在しないことを確かめた上で頷き宝箱を両手で挟み込む。
「燃やしてくるね」
「待て」
ニノが持ち上げる寸前でヴェルムドールが宝箱を手で押さえて自分の手元まで引き寄せると、ニノは仇か何かを見る目で宝箱を睨み付ける。
「そんなもの、いらないと思う」
「俺もいらないが、だからといって燃やしていい物でもない」
いらないと断言したことでニノの表情が幾許か和らぐが、それでも不満そうな表情はそのままだ。
「いらないなら、なんで?」
「記憶する為だ」
「記憶?」
聞き返すニノに、ヴェルムドールはそうだと頷いてみせる。
つまりは、そういう話があったことをヴェルムドールが覚えておく為の儀式である。
人類社会におけるこの類の話とは面倒なもので、「あの」だの「例の」だのと相手に自分の常識を押し付けるような言動や隠語の類が飛びかう魔境である。
つまり、こうした話を持ちかけてきた者は今度、その話をそうした表現で切り出してくる可能性があるということであり……平たく言えば警戒対象である。
「要は、そういう話があったと理解しておくことが重要なんだ。受けるか受けないかはさておいて……な」
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