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連載
魔剣技17
しおりを挟む魔力を剣の魔法石に溜め込む。
サンクリードにとってそれは、すでに「手加減」が染み付いた工程でもある。
それはサンクリードの全力に耐えられる剣が存在しなかったからであり、全力を出すべき相手も存在しなかったからである。
そして恐らくは目の前の相手も、全力を出すには値しない。
だが、この剣は。
硬剣ライザノークは、恐らくサンクリードの全力に耐え切れる。
「ギアアアアア!」
「くっ!」
「きゃあっ!?」
二頭の影将狼の目が赤く輝き、カインを、サンクリードを……離れていたシュナを睨み付ける。
それは、威圧の魔眼。
イチカの持つ高ランクのそれとは比べるべくもないが、それなりのものだ。
実際にカインは多少とはいえ気圧され、シュナはぺたりと座り込んでしまっている。
……勿論、サンクリードにも多少は通じているだろう。
魔眼による「威圧」とは、呪いにも似たものなのだから。
だが、そんな問題ではないのだ。
そんな程度のものは、今のサンクリードを留めるには足りない。
輝く緑の魔法石は暴力的なまでの光を放ち、硬剣ライザノークがビリビリと震え始める。
「なるほど、剣技と魔法の組み合わせか。考えてみれば当然のことだ。俺としたことが、実例と答えがあったというのに言われるまで気付かんとは……あまり人の事を笑えんな」
サンクリードが思い浮かべるのは、以前ルーティが使っていた魔法。
無数の風の刃を放つ風刃乱舞を元に、「遠くまで届く風の斬撃」をイメージする。
目の前には、口の中で炎をちらちらとさせている二頭の影将狼の姿。
その炎の煌きが強くなっているところをみるに、炎のブレスでも吐こうというのだろうか。
カインが慌ててシュナの方角へと駆け寄っていくのを見ながら、サンクリードは剣を構える。
「……いくぞ」
イメージする。
そのイメージのままに、剣を振るう。
刀身から巻き起こる風が、暴威を振るう。
「エアル……スラッシュ!」
ゴウン、と。
風が空気を切り裂く音が響く。
放たれた風の刃は二頭の影将狼を袈裟斬りにして、空へと駆け抜ける。
やがて雲すら切り裂いて消えた風の刃の余韻が消え去り、サンクリードが剣を軽く振るう。
真っ二つになって地面に倒れた二頭の影将狼の姿にシュナは声も出ず、カインはごくりと喉を鳴らす。
「……え、実は使えた……とか?」
「いや。正真正銘これが初めてだが?」
「え、ええー……」
カインとて習得にはそれなりに時間をかけたというのに、初見でオリジナル技を作られては立つ瀬がない。
もっとも、それに至るまでの基礎が充分に出来ていたのだろうから発動自体は当然のことではあったのだろうが……なんとなく納得いかない思いを抱えながらもカインは倒れた影将狼へと視線を送る。
試しに剣で突いてみるが、どうやらここからまた立ち上がるということはないらしい。
「この影将狼なんですけど……なんかおかしいですよね」
「そうだな。アメイヴァの仲間というわけでもないようだが」
もしそうであれば、二頭に変形したのも納得はいく。
ザダーク王国のアルムの場合は魔人化なのでまた別だが、アメイヴァは身体を様々な形に変形させて戦う技に長けている。
だが、目の前のコレは狼だ。
影に擬態できるとはいえ、不定形生物というわけでもないだろう。
「……そういえば、おかしな」
「あのー……」
おかしな技能が、と言い掛けたカインは聞こえてきた声に思わず口を塞ぐ。
一度勇者だとカミングアウトしてしまったせいか、思ったよりも口が軽くなっていたらしい。
慌てて振り向くと、きょとんとした顔のシュナが座り込んだままの姿でそこにいた。
「その影将狼っていうのは、カインさんが命名したんですか?」
「へ?」
「いえ、黒将狼じゃなくて影将狼って言ってましたから。新種だと仮定して命名したのかなって」
言われてカインはあー、と呟く。
確かに新種の生物や植物には発見者に「命名権」がある。
とはいえ大体のものは過去に勇者リューヤが片っ端からステータス確認して「本当の名前」を看破してしまっていたので「仮名」だとか「発見名」だとかいうモチベーションの湧かないものになってしまっているのだが。
「えーと……そんなとこです」
「分かりました。ではそれで登録申請しておきますので、出来ればその辺のから状態のいいのを一匹拾っておいてくださいね」
「げっ」
袋を持ってきているわけでもないので、そうなると抱えて運ぶということになる。
どうせサンクリードの転移でひとっ飛びなのは助かるといったところだろうか。
「随分と落ち着いたようだな」
サンクリードがそう声をかけると、シュナは乾いた笑い声をあげる。
「落ち着いたというか通り越したといいますか。あんな怖いもの見せられるし二人は勇者様か英雄譚みたいな技使いますし。私、どこから驚けばいいんでしょうね?」
「そういうものだと思っておけばいい」
一言で終わらせるサンクリードを半目で睨みながら、シュナは手をバタバタと振るう。
「ええ、ええ。そうでしょうとも。それにしてもサンクリードさんは何なんですか!? 守るって言っといて、超放置じゃないですか! 私まだ立てないんですよ!?」
「守っただろう? だから、あれが火を吹く前にきちんと仕留めただろう」
「そういう問題じゃないでしょ! なんですか、バトルマニアなんですか!」
言われたサンクリードは、不思議そうに首を傾げてみせる。
「俺に限らず、魔族は大概そうだが……?」
無言でシュナは石を投げ、サンクリードはヒョイと避ける。
「避けないでくださいよ、このバカ!」
「……何故怒る?」
サンクリードが不思議そうな顔でカインを見ると、カインは苦笑で返す。
そのカインの様子を見てサンクリードは不可解そうに眉をひそめながらも、シュナに近づきヒョイと抱え上げる。
「ともかく、これで解決といったところだろう。あとは帰ればいいのか?」
「へ!? あ、いえ。えーっと……最寄の冒険者ギルドにこの場の調査をお願いしないといけません。出来ればそっちへ……」
「場所は?」
サンクリードに問われ、シュナは悩み始め……その様子を見て、サンクリードは小さく息を吐く。
「とにかく、まずは一度戻るぞ。話はそれからだな」
「え、ちょ、ま」
サンクリードが転移魔法を起動し始めるのを見て、カインも慌てて駆け寄っていく。
この「影狼」による事件は冒険者ギルド本部より各国の支部へと伝えられ、同時に「魔族の魔法剣士サンクリード」の名も静かに広がっていくこととなる。
ちなみにサンクリードはこの後、何が悪かったのかをマリンに聞いたら呆れた顔をされたそうだが……それはまた、別の話である。
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