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外交狂想曲5
しおりを挟む「てゆーか私、事情全然知らないんですよね。どういうアレなんですか、コレ?」
適当な絵を指差しているモカに、ヴェルムドールは仕方なく部屋に並ぶ絵へと視線を戻す。
「婚約希望者達の絵姿だそうだ」
「へー。それで色々高いモノ使ってるんですねー」
「ん?」
絵の区別などつかないヴェルムドールは、それを聞いて怪訝そうな顔をする。
「何か特殊な絵なのか?」
「絵っていうか額縁ですよね。ほら、この白いやつなんか白晶石ですよ。色混じりのないやつって昔でも相当高かったらしいですよ? 今でもたぶん変わらないんじゃないですかねー。あ、こっちの木のやつも高そう。継ぎ目がないから一刀彫りしたのかなあ。凄いことするなあ」
わー、とかおー、とか言っているモカにヴェルムドールは疲れた顔から真剣な表情となり、モカの言った部分へと視線を送る。
然程興味は無かったのだが「そういう視点」で見ると、この絵の数々には別の意味も含まれてくる。
つまり、「自分の領地はこういうものを用意することができる力がある」というアピールなのだ。
それは技術力や経済力であったり、あるいは特産とする産業力であったりするだろう。
それをヴェルムドールに目に見える形でアピールしてきているのだ。
「……なるほどな。馬鹿の群れかと侮ったが、意外にそうでもないようだ」
「どういうこと?」
「婚約希望という形に整えれば、確実に俺に届くってことだ」
キャナル王国は今、復興の真っ最中である。
長い内乱は終わったとはいえ国全体の力は衰え、特に王権を中心とする弱体化は著しい。
これに比べて貴族は内乱の影響を然程受けてはいなかった。
名目上、貴族はその領地の「地方騎士団」を統括する身分である。
これはあくまで都市や地域の防衛を主任務とするものであり、中央の騎士団のようなものとは性格が異なる。
勿論最終的な命令権は王族にあるのだが、セリスもナリカもこれを率いて同じ王族や国民を攻撃するとなれば正当性を疑われることになる。
故に、これを理由に地方騎士団は内乱の影響をほとんど受けていなかったのだが……つまり、貴族達は今回の内乱ではどっちつかずの立場をとり続けた者達が多かったという事になる。
ということはつまり、貴族達の財布は内乱ではほとんど傷んでいないのだ。
そうした中で更に復興が始まり「誰に遠慮する事無く儲けられる時」がやってきた。
しかも、ザダーク王国という新しい国との親密な関係つきで……だ。
無論魔族の国ということで遠慮も尻込みもあるだろうが、こうして肖像画だの婚約申込みだのを送ってきた連中は相当にしたたかである。
「自分の任された領地が出来る事を形にしたってことだろう。恐らく、その白晶石とやらで額縁を作ったところは石材関連が盛んなんだろうし、木の枠のところは林業なんだろう。いや、木工業かもしれんな。その辺りは恐らく、こっちの申込み書のほうで詳細を書いているだろうな」
婚約が成れば儲けものだし、成らずとも自領をアピールできるという算段だろう。
「それ以前にウザがられるとは思わなかったのかしら?」
「俺がそういう奴ではないと見越してのものだろうさ」
あるいは賭けなのかもしれないが、それでも殺されることはないだろうという計算が働いているのは間違いない。
キャナル王国の支援を実施しているのが余程「効いている」のだろうが、それにしても中々に肝が座っているのは間違いない。
「で、どうするの?」
「どうもしないな」
イクスラースの問いに、ヴェルムドールは椅子に身を深く沈めて答える。
「婚約希望とやらを全部断るのは決定している。ついでに言えば、わざわざ向こうの思惑にのってやる必要もないしな」
キャナル王国の貴族が狙っているのはつまり、ザダーク王国との「直接取引」である。
自領の技術をアピールし、そこに糸口を見出したがっているのだろう。
実際に、それは悪い手ではない。
そうした手段から、実際の取引に発展した例だってあるだろう。
故に、悪い手ではないが……それは、人類同士の場合の話である。
今回の場合は、事情が違う。
そもそもシュタイア大陸と暗黒大陸の間は最果ての海によって隔てられており、たとえサイラス帝国の大型船であろうと無事にすまないことは実証済である。
ジオル森王国とは輸出入を行っているが、それでも転送魔法を使うことによる大掛かりなものであり、気軽に出来るものではない。
故に、これも「国」という単位での取引となっている。
具体的には互いの欲する物を「国」が商会などを通して集め、一気に取引を行うといった形となっている。
ザダーク王国側としては楽なのだが、ジオル森王国側では商会同士の枠の取り合いが結構大変なようである。
故に、いずれ始まるキャナル王国との取引でもこの形を採用することは決定している。
それはつまり、王家である程度取引枠を左右できるということであり、王家の力の強化に繋がることでもある。
これを機会に自領の力を高めようと画策するキャナル王国の貴族にとっては期待外れなのかもしれないが、別に彼等を儲けさせてやる義理は無い。
「ふーん。なんか面倒なんですね」
「……お前は気楽だな」
額縁についた宝石を様々な角度から見て鑑定しているモカに、ヴェルムドールは少しだけ羨ましそうな目を向ける。
すると、その視界にイクスラースがすいと割り込んでくる。
「そういえば、ドラゴンを交通手段だか交易手段だかに使おうって話があったわよね。あれ、どうなったのかしら?」
「ああ……あれか」
ドラゴンスカイサービス。
ドラゴンロードサービスに続く交通手段として期待されている計画の事を思い出し、ヴェルムドールは机の上に詰まれた書類の山から一つの紙の束を引っ張り出した。
「えーと、確か……」
「やっほう、ヴェルっち!」
素早く膝に何かが乗る感触がすると同時に、扉が勢い良く開かれた。
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ある意味で江戸幕府時代の鎖国政策にも似ているなあ、と思いました。
別に意図してやっているわけでもないですが。
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